シニアの移住先選び|60代前半の転出超過4562人から考える

シニアの移住先選び|60代前半の転出超過4562人から考える

定年の前後に住む場所を変える判断は、若い世代の移住とは別の計算で成り立っている。働く場所を確保する必要がない代わりに、医療と介護、そして固定費をこの先20年の目で見ることになる。国の統計を年齢で割ると、実際にどの年代がどれだけ動いているかがはっきり出る。相談窓口の希望地も、60代と70代以上では若い世代と顔ぶれが入れ替わる。

東京圏から出ていく人が最も多いのは60代前半である

東京圏は人が集まる地域だと一括りにされがちだが、年齢で割ると出入りの向きは階級ごとに逆になる。総務省統計局の住民基本台帳人口移動報告 2025年結果で日本人移動者を見ると、埼玉・千葉・東京・神奈川の4都県は全体では11万2,738人の転入超過である。

ところが転出超過の側だけを取り出すと、最も多いのは60〜64歳の4,562人で、次が55〜59歳の3,051人、その次が65〜69歳の2,900人となる。しかも55歳から74歳までの各階級は、年齢別の集計を始めた2010年以降16年続けて転出超過である。働き終える前後で東京圏を離れる動きは、景気や流行で揺れるものではなく定着した流れだと読める。全国の都道府県間移動で見ても、60〜64歳は4万9,953人で前年より1,534人、3.2パーセント増えた。75〜79歳も2万2,589人で5.4パーセント増、90歳以上は1万1,931人で4.1パーセント増である。定年前後に動く山と、80代を過ぎて子の近くへ移る山の2つがあるとみてよい。移住先の選び方を整理した記事の判断軸も、この2つの山では重みが変わる。

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60代と70代以上の希望は、静岡に集まる

では実際に相談に来るシニア層はどこを見ているのか。認定NPO法人ふるさと回帰支援センターの2024年の移住相談の傾向と移住希望地ランキングは、窓口相談者を年代別に集計している。全体の1位は群馬県が初めて取ったが、60代と70代以上に限ると首位は静岡県に入れ替わる。

順位 60代 70代以上
1位 静岡県 9.5% 静岡県 14.2%
2位 群馬県 7.3% 栃木県 7.1%
3位 長野県 6.1% 群馬県 5.0%
4位 栃木県 5.5% 山梨県・山口県・岡山県 4.2%
5位 千葉県 5.1% 長野県 3.8%
ふるさと回帰支援センター「2024年 窓口相談者 年代別 移住希望地ランキング」より。70代以上の4位は3県が同率

70代以上では静岡を挙げる人が14.2パーセントに達し、2位の栃木に倍の差をつけている。気候の穏やかさと東京からの距離の近さが効いていると考えられる。60代では千葉県が5位に入り、神奈川県や東京都多摩地域のように都市圏の内側へ寄る選択も現れる。若い世代では上位に入らない県が顔を出すのは、通勤の条件が外れるぶん、気候と医療と家族との距離が前に出てくるためだろう。センターは群馬県について、アクティブな50代がセカンドライフを求めて相談に訪れる例を挙げている。

移り先の高齢化率は、今の値ではなく2050年の値で見る

60代で移った土地には、その後20年から30年住むことになる。だから到着時点の地域の姿よりも、住んでいる途中でどう変わるかのほうが重い。内閣府の令和8年版高齢社会白書は、都道府県別の高齢化率を将来の推計まで並べている。

2024年の高齢化率は、最も高い秋田県が39.5パーセント、最も低い東京都が22.7パーセントだった。この差が2050年にどうなるかというと、秋田県は49.9パーセント、東京都は29.6パーセントである。秋田では住民のおよそ半分が65歳以上になり、東京でも3割に近づく。高齢化率そのものが暮らしの良否を決めるわけではないが、路線バスの本数、商店の存続、医療機関の当直体制といった日常の足まわりは、この数字の動きと連動して変わっていく。候補地を比べるなら、現在値を横並びにするだけでなく、同じ表の将来欄まで見ておきたい。車の運転をやめた後の生活が想像できるかどうかが、実際の分かれ目になる。移住のデメリットを先に知る記事で挙げられている買い物と交通の問題は、年齢が上がるほど重くのしかかる。

介護保険料は市町村ごとに決まり、3年で変わる

年金で暮らす設計では、毎月引かれる固定費の差が家賃の差と同じくらい効いてくる。見落とされやすいのが介護保険の第1号保険料である。厚生労働省が公表した第9期計画期間における介護保険の第1号保険料によると、2024年度から2026年度の基準額は全国加重平均で月6,225円だった。

第8期の6,014円から211円、3.5パーセントの増加で、過去最高である。重要なのは平均値の水準ではなく、この保険料が市町村ごとに設定されるという点だ。介護サービスの整備状況と要介護認定を受けている人の割合が自治体ごとに違うため、同じ県の隣り合う市町村でも基準額が異なる。しかも3年ごとの計画で改定されるので、移住した時点で安かった自治体が、次の期に大きく上げることもある。候補地を2つか3つに絞ったら、それぞれの市町村の最新の基準額と、前の期からどれだけ上がったかを並べてみるとよい。国民健康保険料や後期高齢者医療の保険料も自治体で差がつく項目なので、合わせて確認しておく価値がある。

国の移住支援金は、年金生活では使いにくい

移住の費用を補う制度として広く知られているのが国の地方創生移住支援事業だが、シニア層はここで要件に当たる。内閣府の移住支援金の案内では、支給の上限は世帯での移住が100万円、単身での移住が60万円、社会的事業の起業なら200万円と定められている。

対象になるのは、一定期間以上東京23区に住んでいた人、または東京圏から23区へ通勤していた人である。そのうえで移住先で就業するか、起業するか、移住前の仕事をテレワークで続けるかのいずれかが求められる。収入が年金だけの世帯は、この就業の要件を満たせないことが多い。つまり制度の性格としては、現役世代を地方の労働力として迎えるための仕組みであり、引退後の住み替えを支えるものではない。シニアの住み替えで使えるものを探すなら、各自治体が独自に設けている住宅や空き家の取得に関する補助、移住前に短期間住んでみる滞在施設の制度などを、移住先の窓口で直接当たるほうが早い。地域とのつながりを先に作っておきたい場合は、FLASPOのような地域と関わる入口から現地の人に当たってみるのも手である。

よくある質問

希望地の1位である静岡県は、人が増えているのか。実数では逆である。2025年の静岡県は6,711人の転出超過だった。同じ年に転入超過となったのは東京都の6万5,219人、神奈川県の2万8,052人、埼玉県の2万2,427人、大阪府の1万5,667人など7都府県だけで、残る40道府県からは人が出ている。希望地として名前が挙がることと、人口が増えることは別の現象だと切り分けて見たい。順位の成り立ちは都道府県別の移住先ランキングの記事で扱っている。

80代になってから動く人はいるのか。移動者数で見ると確かにいる。75〜79歳の都道府県間移動は2万2,589人で前年より5.4パーセント増え、90歳以上も1万1,931人で4.1パーセント増えた。一方で80〜84歳は1万8,934人で2.8パーセント減っている。子の世帯の近くへ移る住み替えが一定数あり、その判断は後期高齢期に入っても起きていると読める。

移住先は都市か田舎かで迷う。この問いに全国の統計で答えは出ないが、判断の材料は変わる。60代の希望地に千葉県が入り、70代以上に岡山県や山口県が現れることからは、同じシニア層でも求めるものが分かれていることが分かる。通院の頻度が増える前提で、徒歩や公共交通で病院まで行けるかを基準に置くと、候補は絞りやすくなる。

保険料や高齢化率は、どこで調べればよいのか。介護保険料の基準額は市町村が条例で定めて公表しており、高齢化率は内閣府の白書が都道府県別に将来推計まで掲載している。どちらも無料で確認できる。移住の相談窓口に行く前にこの2つを見ておくと、聞くべきことが具体的になる。


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