若者参画の成功事例|予算1,000万円を16歳から動かす仕組み

若者参画の成功事例|予算1,000万円を16歳から動かす仕組み

「若者の声を聞きました」で終わる会議と、翌年度の予算に化ける会議がある。両者を分けているのは参加した若者の熱量ではなく、提案がどこに届く設計になっているかだ。愛知県新城市では条例で若者に予算提案権を渡し、11年にわたって約40の事業が実際に動いてきた。何がそれを可能にしたのかを、条例と公表資料から確かめていく。

20歳代の投票率は全体より17ポイント低い

若者参画が制度の課題として扱われる理由は、意思決定の場にいる人の年齢構成が偏っているからである。総務省が公表している国政選挙の年代別投票率を並べると、その偏りは一貫している。

年代 第50回衆議院議員総選挙 第51回衆議院議員総選挙
10歳代 39.43% 43.45%
20歳代 34.62% 39.01%
30歳代 45.66% 50.89%
60歳代 68.02% -
全体 - 56.26%
総務省「国政選挙の年代別投票率の推移について」より。第51回は2026年2月執行

直近の第51回では若い層も数ポイント上向いたが、20歳代の39.01%は全体の56.26%より17ポイント以上低い。第50回で60歳代が68.02%だったことと並べると、票として届く声の量が世代で倍近く違っていたことになる。投票以外の回路をつくらなければ、政策の優先順位は構造的に上の世代へ寄る。自治体が若者会議や若者議会を設けるのは善意の企画ではなく、この不均衡を埋めるための装置だと捉えたほうが実態に近い。

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条例で予算提案権を渡した新城市の11年

成功事例として最も引用されるのが新城市若者議会である。平成27年4月1日、新城市若者条例と新城市若者議会条例の施行にあわせて設置された。制度の骨格は次のとおりだ。市長の附属機関であること。委員は市内に在住・在学・在勤するおおむね16歳から29歳までの若者で、定員は20人、これとは別に市外委員の定員が5人あること。任期は1年で再任もできる。委員は公募で選び、定員を超えた場合は書類選考を行う。

決定的なのは予算提案権である。若者議会は上限1,000万円の予算提案権を持ち、その使い道を自分たちで考えて政策として立案する。11月に市長へ答申し、答申された事業が市議会の3月定例会で可決されれば、翌年度に市の事業として実施される。総務省が事例としてまとめた資料によれば、これまでに図書館のリノベーション、観光パンフレット、国際交流イベント、企業情報誌、趣味活サイトなど約40の事業が提案され、実行されてきた。令和4年度の委員構成は高校生18人と大学生2人だった。

運営の工夫も記録されている。委員を支える役として、若者議会の経験者などから選ばれるメンター市民と、市の若手職員であるメンター職員が会議に同席する。委員とメンター市民には会議1回につき3,000円の報酬または報償が支払われる。無償のボランティアにしないことで、参加の負担と責任のつり合いを取っている。効果の側では、若者議会を経験した人が市議会議員や市職員になったり、市の各種審議会に加わったりする例が増えているという。

「意見を聞く」は2023年から法律上の義務になった

新城市の取り組みは条例による先行例だが、いまでは土台が全国にある。令和4年法律第77号として成立し2023年4月に施行されたこども基本法は、第11条で、国と地方公共団体がこども施策の策定・実施・評価にあたってこども・若者の意見を反映させるために必要な措置を講じることを義務づけた。努力目標ではなく義務である。

運用の手引きとして、こども家庭庁が令和6年3月に「こども・若者の意見の政策反映に向けたガイドライン」を公表している。行政職員向けに、企画する、事前に準備する、意見を聴く、意見を反映する、フィードバックをするという段階ごとの留意点と事例を示したもので、現在は第2版が掲載されている。最後の段階にフィードバックが置かれているのは、聞いて終わる運用が実際に多いからだろう。あわせて令和6年5月には自治体こども計画策定のためのガイドラインも出ており、計画をつくる段階で当事者の意見をどう入れるかが各自治体の実務課題になっている。

法律が土台を用意したことで、論点は「やるかどうか」から「どの深さでやるか」に移った。アンケートを1回配るのも第11条への対応ではあるし、予算の使い道を任せるのも対応である。同じ義務の下で開きが出るぶん、先に踏み込んだ自治体の設計が参考例として効いてくる。

動く取り組みと止まる取り組みの分かれ目

同じ名前の会議でも結果が違うのは、三つの点で設計が違っている。ひとつ目は、会議がどこにぶら下がっているか。新城市の若者議会は市長の附属機関で、答申という形式を持つ。意見交換会の扱いなら受け取った側に応答の義務は生まれないが、附属機関の答申は行政の手続きに乗る。

ふたつ目は、金額が書かれているかどうかである。1,000万円という上限が先にあると、議論は「こうしてほしい」から「この額で何をどこまでやるか」に移る。使い道を決める側に回った瞬間に、参加者は要望する立場から設計する立場へ変わる。みっつ目は、答申の先に受け皿があるか。3月定例会で可決されれば翌年度の事業になる、という道筋が最初から示されているため、提案は年度のスケジュールに合わせて練られる。この三つが欠けた会議は、市外委員の定員が別に5人置かれているのも見落としにくい工夫で、進学や就職で市外へ出た若者が関わり続ける席を制度の中に確保している。この三つが欠けた会議は、報告書が1冊残るところで止まりやすい。地域との関わり方を広く捉える視点は関係人口の成功事例16選にも整理がある。

若者の側から入る経路はどこにあるか

参画したい側から見ると、入口は思っているより事務的だ。自治体の若者会議や若者議会は公募が基本で、新城市の場合は例年3月上旬から4月上旬に募集がかかる。年齢の上限がおおむね29歳までと広く取られているため、学生だけの枠組みではない。こども基本法第11条があるぶん、こども計画の策定時には意見聴取の機会が設けられるので、自治体のこども計画の進み具合を見ておくと接点を見つけやすい。

審議会の公募委員、パブリックコメント、地域の企画への参加もすべて参画の経路である。FLASPOが自治体と組んで進めている企画では、若者が出したアイデアを市長への提言会まで持っていく形を取っており、提案が受け取られるところまで設計に含めている点は新城市の考え方と重なる。具体的な進め方は高知県香南市での市長提言会の記録が参考になる。地方創生の全体像から入りたい場合は地方創生とは?定義と成功事例5選から読むとつながりが見える。

よくある質問

予算提案権がないと若者参画は成立しないのか。必須ではないが、提案の精度は確実に変わる。金額の枠が示されていれば優先順位を自分たちで決めるしかなくなり、議論が具体化する。枠を用意できない場合でも、答申を受け取る手続きと回答の期限だけは決めておくと空振りを防げる。

委員を無償にすべきか有償にすべきか。新城市は会議1回につき3,000円を支払っている。交通費や時間の負担を参加者に押しつけないという意味もあるが、無償にすると「余裕のある人しか残らない」偏りが生まれる点のほうが制度上は重い。

小規模な自治体でも同じことができるのか。新城市の仕組みは委員20人と市外委員5人という規模で回っている。大人数を集める企画ではなく、数十人の若者と若手職員が年間を通して向き合う運用であり、人口の少ない自治体にこそ向いている形といえる。

成果はどう測ればよいのか。実施された事業数は分かりやすい指標だが、新城市が挙げている効果は別のところにある。若者議会の経験者が市議会議員や市職員になり、他の審議会にも関わるようになったという変化で、担い手が育ったかどうかを数年単位で見るほうが制度の評価には合う。

出典

総務省「国政選挙の年代別投票率の推移について」/総務省「愛知県新城市 若者によるまちづくりの推進(新城市若者議会)」/新城市「新城市若者議会の概要」/こども家庭庁「こども・若者の意見の政策反映に向けたガイドライン」


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