平均575万2千円の下に、6割の世帯がいる
家計の計画を立てるとき、最初に置く数字が「平均」であることは多い。厚生労働省の2025(令和7)年 国民生活基礎調査によれば、2024年の1世帯当たり平均所得金額は全世帯で575万2千円だった。前年から7.3%増え、調査の中では高い水準にある。
ところが同じ調査は、中央値を451万円と報告している。所得を低い順に並べて真ん中に来る世帯は、平均より124万円ほど下にいる。平均所得金額以下の世帯は61.5%を占める。平均は少数の高所得世帯に引き上げられるため、多数派の実感からは離れた位置に立つ。
この差は、計画の置き方を変える。平均を前提に貯蓄率や住宅予算を決めると、6割の世帯では初年度から帳尻が合わなくなる。使うべきは、自分の世帯が分布のどこにいるかという位置の情報である。所得金額階級別では「200〜300万円未満」が13.5%、「300〜400万円未満」が13.0%、「100〜200万円未満」が12.2%と、300万円前後に厚みがある。
同じ世帯でも、20年で倍以上の落差がつく
世帯主の年齢で区切ると、所得の形はさらに変わる。最も高いのは「50〜59歳」の814万6千円で、最も低いのは「29歳以下」の364万3千円である。その差は450万3千円、倍率でいえば2.2倍になる。
ただし世帯の所得がそのまま使える金額ではない。世帯人員1人当たりに直すと、最高は同じ「50〜59歳」で334万円、最低は「70歳以上」の204万1千円となり、倍率は1.6倍まで縮む。所得が多い年代は扶養する人数も多いためである。
20代で立てた計画が30代で合わなくなるのは、見通しが甘かったからとは限らない。所得が上がる速さと、養う人数が増える速さが一致しないからである。計画は「いくら稼ぐか」ではなく「1人当たりいくら残るか」で持つほうが、年齢をまたいでも壊れにくい。20代のライフプランと30代以降の計画を別の紙に分けておくと、この段差が見えやすくなる。
貯蓄と借入は、同じ世帯の中で逆を向く
資産の側を見ると、全世帯で「貯蓄がある」は82.1%、1世帯当たり平均貯蓄額は1414万8千円である。一方で「借入金がある」は23.5%、平均借入金額は362万5千円となる。この二つは世帯の種類によってまったく違う組み合わせを作る。
| 世帯の種類 | 平均所得金額 | 平均貯蓄額 | 平均借入金額 |
|---|---|---|---|
| 全世帯 | 575万2千円 | 1414万8千円 | 362万5千円 |
| 高齢者世帯 | 336万1千円 | 1647万6千円 | 34万7千円 |
| 高齢者世帯以外の世帯 | 700万7千円 | 1298万4千円 | 525万3千円 |
| 児童のいる世帯 | 857万3千円 | 1035万7千円 | 1226万2千円 |
児童のいる世帯は所得が最も高いのに、貯蓄は全世帯平均を下回り、借入は全世帯の3.4倍になる。「借入金がある」世帯の割合も54.3%と半数を超える。逆に高齢者世帯は所得が最も低いが、貯蓄は最も厚く、借入はほぼ残っていない。年齢階級で見ても、平均貯蓄額は「60〜69歳」の1989万8千円が最高で、平均借入金額は「30〜39歳」の1039万9千円が最高である。
母子世帯はこの表の外側にある。平均貯蓄額は485万3千円、平均借入金額は114万8千円で、額そのものは小さい。借入が少ないのは余裕があるからではなく、住宅ローンを組める条件に届かない世帯が含まれるためで、金額の小ささをそのまま健全さと読むことはできない。借入の有無は、使える信用の量を映す指標でもある。
減る理由は、思ったほど特別な出費ではない
貯蓄の増減を聞いた項目では、前年と比べて「貯蓄が減った」が総数で36.9%だった。65歳以上では41.3%と4割を超える。減った世帯に理由を複数回答で聞くと、「日常の生活費への支出」が80.1%で、すべての年齢階級で7割を超えている。
一時的な大きな支出は、年代によって顔を出し方が違う。「入学金、結婚費用、旅行等の一時的な支出」を挙げた割合は40〜49歳で40.0%、50〜59歳で29.1%、29歳以下で26.4%となり、60歳以上では2割を切る。「土地・住宅の購入費」は30〜39歳の11.7%が目立つが、他の年代では1桁である。
つまり貯蓄が崩れる主因は、イベント費ではなく毎月の生活費である。計画を点検するなら、まず固定費と食費の側を疑うほうが当たりやすい。そのうえで、教育費と住宅が重なる30代から40代だけは、一時的な支出を別枠で持つ必要がある。奨学金の返還が同じ時期に走る世帯では、この別枠の厚みがそのまま耐久力になる。
「苦しい」55.4%は、改善と置き換えの両方を示す
生活意識の項目では、「大変苦しい」と「やや苦しい」を合わせた割合が55.4%だった。内訳は「大変苦しい」23.2%、「やや苦しい」32.2%である。前年の58.9%からは3.5ポイント下がり、2023年の59.6%からは4.2ポイント下がった。
下がった理由を所得の伸びだけに求めるのは早い。2024年の所得は7.3%増えているが、同じ調査で貯蓄が減った世帯は3割台後半に残り、減額理由の多くは生活費である。収入が増えた分がそのまま余力に変わったわけではないことが読み取れる。
世帯の種類で割ると差は大きい。「母子世帯」は82.1%、「児童のいる世帯」は61.5%が苦しいと答えている。全体の数字が改善しても、子どもを育てる世帯の負担感は全世帯平均より高い位置にある。自分の世帯がどの区分に当たるかを先に決めてから数字を読むほうが、計画の前提を間違えにくい。地域で働き方を選び直す選択肢を含めて考えるなら、FLASPOのような活動の場を通じて得られる情報も判断材料になる。
よくある質問(FAQ)
Q. 計画には平均と中央値のどちらを使えばよいですか。
A. 自分の世帯の位置を確かめる用途では中央値のほうが実態に近い。2024年の中央値は451万円で、平均所得金額以下の世帯が61.5%を占める。平均は「上振れを含んだ天井」として見ておき、設計の土台は自分の手取り実額に置くのが安全である。
Q. 貯蓄はいくらあれば足りますか。
A. 調査が示すのは平均値であって必要額ではない。全世帯の平均貯蓄額1414万8千円には高齢者世帯の1647万6千円が含まれており、現役期の目安としては高すぎる。むしろ「貯蓄が減った」36.9%という数字から、生活費の何か月分を取り崩さずに持てるかを先に決めるほうが実用的である。
Q. 所得が増えたのに余裕を感じないのはなぜですか。
A. 増え方と出方の時期がずれるためである。所得が最も高い「50〜59歳」でも、世帯人員1人当たりに直せば334万円にとどまる。扶養する人数が増える時期には、世帯の所得が伸びても1人当たりの金額は伸びにくい。
Q. 子どもがいる世帯はどこに注意すべきですか。
A. 所得と借入が同時に最大になる点である。児童のいる世帯の平均所得金額は857万3千円で全世帯より282万1千円高いが、平均借入金額は1226万2千円で全世帯の3.4倍、「借入金がある」割合も54.3%に達する。収入の多さが返済の重さと釣り合っているかを、毎年同じ形で確かめておきたい。
Q. この調査はいつの時点の数字ですか。
A. 所得は2024年1月1日から12月31日までの1年間、貯蓄と借入金は2025年6月末日現在、生活意識は2025年7月10日現在の回答である。公表資料は厚生労働省の若者のライフプランに関する記事で触れた他の統計と同様、調査時点を確かめてから使うことになる。
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