学び直しをした人は3人に1人、雇用形態で2.7倍の差
キャリアの計画を立てた人が次に突き当たるのは、計画を実行に移す時間と機会をどこから持ってくるかという問題である。厚生労働省の令和7年度 能力開発基本調査によると、令和6年度に自己啓発を行った労働者は全体で35.5%だった。前回調査から1.3ポイント下がっている。
内訳を見ると、正社員は43.3%、正社員以外は15.9%で、2.7倍の差がついている。会社が費用を負担して行う教育訓練でも同じ傾向で、OFF-JTを受講した労働者は全体37.3%、正社員44.5%、正社員以外19.4%だった。
この差は、能力の差ではなく置かれた場所の差である。同じ会社で働いていても、雇用形態が違えば受けられる訓練の量が倍以上変わる。ライフプランの中でキャリアを扱うなら、自分がどちら側の供給量を前提にしているかを先に確かめる必要がある。
止めているのは意欲ではなく時間の配分
同じ調査は、自己啓発に問題を感じている労働者の割合を78.8%と報告している。正社員では82.8%、正社員以外では68.6%に達する。何が障害になっているかは、複数回答の内訳に出ている。
正社員で最も多いのは「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」の58.5%、次が「家事・育児が忙しくて自己啓発の余裕がない」の27.4%である。正社員以外では順位が入れ替わり、仕事の忙しさが36.1%、家事・育児が34.0%と並ぶ。
男女で割ると、別の形が見える。正社員の男性は「仕事が忙しくて」が62.1%、「家事・育児が忙しくて」が22.2%だが、女性は前者が52.4%、後者が36.2%となる。男性は仕事側、女性は家庭側から時間を削られている割合が高い。計画を立てる段階で「毎週2時間」と書くより、どの時間帯のどの用事を外すかまで決めておくほうが実行に残る。
費用の壁は、思われているほど高くない
障害として挙げられる項目のうち「費用がかかりすぎる」は正社員26.2%、正社員以外25.3%で、時間の問題よりは低い。実際に自己啓発を行った人の自己負担額を見ると、「0円」が41.4%で最も多く、2万円未満の人が8割近くを占める。平均延べ自己負担費用は労働者全体で2万8600円、正社員で2万9600円、正社員以外で2万1100円だった。
| 項目 | 正社員 | 正社員以外 |
|---|---|---|
| 自己啓発を行った割合 | 43.3% | 15.9% |
| OFF-JTを受講した割合 | 44.5% | 19.4% |
| 自己啓発に問題を感じる割合 | 82.8% | 68.6% |
| 平均延べ自己負担費用 | 2万9600円 | 2万1100円 |
| 勤務先にキャリアコンサルティングのしくみ | 48.4% | 30.1% |
平均延べ実施時間は労働者全体で42.7時間、正社員で43.9時間である。年間40時間強、自己負担3万円弱というのが、実際に手を動かしている人の標準的な姿になる。月あたりに割れば3時間半ほどで、取れない量ではない。費用より先に時間の確保を設計したほうが、同じ結果に近づく。
自己負担の分布にも偏りがある。1千円以上1万円未満が20.3%、1万円以上2万円未満が13.7%と、1万円前後に山がある。平均値が2万8600円まで上がるのは、高額の講座や資格に踏み込んだ少数が引き上げているからで、多数派が払っている額は1万円台に収まる。高額な講座を基準に「自分には無理だ」と判断する前に、この分布を見ておきたい。
行き先が決まらないまま迷う層が2割いる
障害の内訳には、時間や費用とは質の違う項目が並んでいる。「どのようなコースが自分の目指すキャリアに適切なのかわからない」が正社員21.6%・正社員以外25.2%、「自分の目指すべきキャリアがわからない」が正社員20.0%・正社員以外22.4%である。
相談先の整備状況はこれに追いついていない。キャリアコンサルティングを行うしくみを導入している事業所は48.4%で、「しくみがない」とした事業所は51.4%だった。内訳は「正社員、正社員以外どちらもある」が26.9%、「正社員のみある」が21.2%、「正社員以外のみある」は0.3%にとどまる。
行き先が決まらない状態で講座を選ぶと、終わっても次が決まらない。「自己啓発の結果が社内で評価されない」を挙げた正社員が16.6%いることも、この順序の問題と関係している。勤務先に相談のしくみがない場合は、社外の場で働き方の実例に触れておくほうが早い。地域で事業や活動に関わる若い人の動きを追うなら、FLASPOのような取り組みも参照先になる。資格取得と若者の記事で見た20代の数字と合わせると、年代ごとの違いも見えてくる。
会社側にも、教える余力がない
供給側の数字も同じ調査に載っている。人材育成に関して何らかの問題があるとした事業所は80.1%で、内訳は「指導する人材が不足している」59.5%、「人材を育成しても辞めてしまう」51.6%、「人材育成を行う時間がない」45.5%の順に高い。
計画的なOJTを実施した事業所は正社員向けで60.6%、正社員以外向けで25.1%と、いずれも前回より低下した。教育訓練費用を支出した企業は54.4%で0.5ポイント下がり、OFF-JTに支出した費用は労働者一人当たり平均2.0万円、自己啓発支援は0.4万円である。教育訓練休暇制度がある企業は5.7%しかない。
企業規模による差も残る。正社員が自己啓発を行った割合は「50〜99人」33.2%、「100〜299人」34.7%に対し、「300〜999人」と「1000人以上」はいずれも52.3%だった。調査結果の概要が示すのは、学び直しの機会が勤務先の規模と雇用形態で先に決まっているという構図である。自分で持てる部分と、転職や異動でしか動かせない部分を切り分けておきたい。
よくある質問(FAQ)
Q. 自己啓発にはどれくらいの時間と費用をみておけばよいですか。
A. 実際に行った人の平均は年間42.7時間、自己負担2万8600円である。自己負担が「0円」の人が41.4%を占めることからも、会社の支援や無料の教材で成立している例が多いと分かる。最初から大きな投資を前提にしなくてよい。
Q. 非正規雇用でも学び直しの機会は得られますか。
A. 勤務先経由では細くなる。正社員以外の自己啓発実施率は15.9%、OFF-JT受講率は19.4%、キャリアコンサルティングのしくみがある事業所は30.1%にとどまる。勤務先の制度に頼る前提では計画が立ちにくいため、公的な訓練や助成の制度を自分で調べる手間を計画に組み込むほうが現実的である。
Q. 何から始めるか迷っています。
A. 講座を選ぶ前に行き先を決める順序が効く。「目指すべきキャリアがわからない」と答えた正社員が20.0%、「どのコースが適切かわからない」が21.6%いる。勤務先に相談のしくみがあるかを確かめ、なければ公的な相談窓口を使ってから教材を選ぶほうが、同じ時間で先に進める。
Q. 会社に制度がない場合はどうしますか。
A. 制度の有無は規模で決まる部分が大きい。教育訓練休暇制度がある企業は5.7%、短時間勤務の制度は4.7%、所定外労働の免除は4.6%で、いずれも前回より下がっている。制度を待つのではなく、自学・自習の形で取れる時間を先に確保し、転職時の条件として制度の有無を確認する順序に切り替えたい。
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