入院の概算書を見てから、制度を調べることになる
入院が決まって窓口で渡される概算の請求書に、十数万円という数字が並ぶ。そこで初めて健康保険の中身を調べはじめる人は少なくない。保険証を出せば医療費の支払いが3割で済む、というところまでは知られているが、健康保険が用意しているのはその一本だけではない。
全国健康保険協会(協会けんぽ)は給付の種類を、医療そのものを受け取る形と、現金が振り込まれる形に分けて並べている。前者が療養の給付で、ほかに療養費、移送費、海外療養費、訪問看護療養費が含まれる。後者には高額療養費、傷病手当金、出産育児一時金、出産手当金、埋葬料がある(協会けんぽ「健康保険の給付について」)。
どの給付がどれだけ出るかは、加入先の保険者によっても変わる。健康保険組合や共済組合は、法律で決まった額に独自の付加給付を上乗せしていることがある。厚生労働省の資料では、協会けんぽの加入者が約3,944万人、組合管掌健康保険が約2,820万人、共済組合が約982万人(いずれも令和5年3月末時点)とされている。自分がどの箱に入っているかは健康保険の種類を5つに整理した記事で確かめられる。
窓口で払う割合は、年齢と所得の組み合わせで決まる
3割という数字が全員に当てはまるわけではない。厚生労働省「我が国の医療保険について」は、70歳未満は3割、6歳(義務教育就学前)未満は2割、70歳から74歳までは2割、75歳以上は1割と整理している。ただし70歳以降は所得で上書きされ、現役並み所得者は3割に戻る(厚生労働省「我が国の医療保険について」)。
| 年齢区分 | 窓口で払う割合 | 所得による例外 |
|---|---|---|
| 6歳(義務教育就学前)未満 | 2割 | なし |
| 6歳以上70歳未満 | 3割 | なし |
| 70歳以上75歳未満 | 2割 | 現役並み所得者は3割 |
| 75歳以上 | 1割 | 一定所得以上は2割、現役並み所得者は3割 |
年齢が上がるほど負担が軽くなる、という単純な線にはなっていない。75歳を過ぎても働いて収入がある人は、69歳の会社員と同じ3割を払う。子どもの2割についても、多くの自治体が独自の医療費助成を重ねているため、実際の窓口負担が0円になる地域は珍しくない。国の制度と自治体の制度は別建てで動いている。
令和8年8月に、高額療養費の限度額が動いた
3割と言われても、総額が100万円なら30万円になる。それを月単位で切るのが高額療養費で、自己負担限度額を超えた分が後から保険者から戻ってくる。限度額は令和8年8月診療分から引き上げられ、同時に年間の上限が新設された(厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」)。
| 標準報酬月額(70歳未満) | 1か月の限度額(令和8年8月〜令和9年7月) | 多数回該当 | 年間上限 |
|---|---|---|---|
| 83万円以上 | 270,300円+(総医療費-901,000円)×1% | 140,100円 | 168万円 |
| 53万〜79万円 | 179,100円+(総医療費-597,000円)×1% | 93,000円 | 111万円 |
| 28万〜50万円 | 85,800円+(総医療費-286,000円)×1% | 44,400円 | 53万円 |
| 26万円以下 | 61,500円 | 44,400円 | 53万円 |
| 低所得者(住民税非課税など) | 36,900円 | 24,600円 | 29万円 |
標準報酬月額28万〜50万円の区分で医療費が総額100万円かかった場合、計算すると92,940円になる。厚生労働省も年収約370万円から約510万円の人の例として、自己負担が約9.3万円に収まると示している。同じ月に複数の医療機関にかかったときは、70歳未満なら1か所あたり21,000円以上の自己負担を合算できる。直近12か月のうち3か月以上該当していれば、4か月目から多数回該当の低い額に下がる(協会けんぽ「高額療養費」)。
払い戻しを待たずに済ませる道もある。入院や高額な外来が見込まれるときは、マイナ保険証の利用や限度額適用認定証の提示で、窓口の支払いを最初から限度額までにとどめられる。手元の現金を先に出さずに治療に入れるかどうかは、この一手続きで変わる。
働けない間の収入を埋めるのが傷病手当金
治療費が抑えられても、給与が止まれば家計は回らない。会社員が業務外の病気やけがで休んだときに出るのが傷病手当金である。連続する3日間を含んで4日以上仕事に就けなかった場合に、4日目以降が支給の対象になる。最初の3日間は待期として対象外に置かれる。
1日あたりの額は、支給開始日以前の12か月の標準報酬月額を平均し、30で割って3分の2を掛ける。協会けんぽは平均17万円の人を例に、日額3,780円という数字を示している。被保険者期間が12か月に満たないときは、直近の平均と全被保険者の平均額のうち低いほうを使い、後者は支給開始日が2025年4月1日以降なら32万円である(協会けんぽ「病気やケガで会社を休んだとき」)。
受け取れる長さは、支給を開始した日から通算して1年6か月までとされている。通算なので、間に復職した期間があればその分は数えず、残りを後から使える。なお通勤中や業務中のけがは労災保険の領域で、こちらの給付は出ない。どちらに当たるかで窓口も書式もまるごと変わるため、原因の線引きを先に確かめておきたい。
出産と死亡のときは、決まった額の現金が出る
正常な分娩は病気やけがではないため、療養の給付の対象から外れている。その穴を埋めるのが出産育児一時金で、1児につき50万円が支給される。双子なら胎児の数だけ出るため、2人で100万円になる。多くの医療機関は直接支払制度に対応しており、一時金が病院へ直接渡る形にすれば、窓口では差額だけを精算すればよい。
休業の補償にあたるのが出産手当金で、出産の日以前42日から出産の日後56日までの間、会社を休んで報酬を受けられなかった日が対象になる(協会けんぽ「子どもが生まれたとき」)。亡くなったときには埋葬料として5万円が、生計を維持されていた人に支給される。該当する人がいない場合は、埋葬を行った人が実費の範囲で5万円を上限に埋葬費を受け取れる(協会けんぽ「埋葬料(費)」)。
退職後も完全に切れるわけではない。資格を失ってから3か月以内に亡くなった場合は埋葬料の対象に含まれる。働き方を変えるときに社会保険全体でどこが動くかは、年金の保険料を扱った記事と合わせて見ると全体像がつかみやすい。地域で暮らしながら働き方を組み替える選択肢を探している人は、FLASPOの情報も手がかりになる。
よくある質問
高額療養費は自分で申請しなければもらえないのか。協会けんぽは診療月から数か月後に支給申請書を送る運用をとっているが、保険者によっては自動で払い戻すところもある。待っていても案内が来ないときは、加入先の支部や組合に申請書の扱いを確かめるのが早い。申請の時効は2年である。
月をまたいで入院すると損になるのか。限度額の判定が暦月ごとである以上、月末から月初にかかる入院は2か月分の限度額が立つ。日程を選べる予定入院なら、同じ月に収まる組み方のほうが自己負担は軽くなる。緊急の入院で選べない場合は、年間上限と多数回該当の仕組みが効いてくる。
傷病手当金と出産手当金は同時に受け取れるのか。同じ期間に重なる場合は出産手当金が優先され、傷病手当金は差額の調整が入る。両方を満額で重ねる使い方はできない。
治療費そのもの以外にも給付はあるのか。医師の指示で移動が必要になったときの移送費、海外で急に治療を受けたときの海外療養費、立替払いをしたときの療養費が用意されている。いずれも後から請求する形で、領収書や診療内容の明細をそろえる必要がある。渡航前に支給の範囲を読んでおくと、現地での判断が速くなる。
国民健康保険にも同じ給付があるのか。療養の給付や高額療養費、出産育児一時金は国保にもあるが、傷病手当金と出産手当金は任意給付で、実施していない市町村が多い。自営業やフリーランスで働く人が病気で休んだときの空白はここで生まれる。制度の違いは国民健康保険の仕組みをまとめた記事で確かめてほしい。
アイデアコンテストプラットフォーム「FLASPO」

アイデア1つで、地域や企業とつながれる。
FLASPOは、全国の自治体・企業が開催する若者向けアイデアコンテストのプラットフォームです。
地域や企業が抱える課題に対して、あなたのアイデアで解決策を提案できます。
賞金やユニークな地域体験が獲得できるコンテストも多数。誰でも参加無料・オンライン完結で挑戦できます。
