ファッションと心理|自分に満足57.4%という土台から考える

ファッションと心理|自分に満足57.4%という土台から考える

鏡の前で止まる数秒に何が起きているか

出かける直前、鏡の前で立ち止まる。そのとき見ているのは布の色や丈だけではなく、それを着た自分がどう見えるかという評価である。服選びが疲れる日と楽な日があるのは、この評価の手応えが日によって違うからだ。

手応えの土台にあたる数字が公的な調査にある。こども家庭庁「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査(令和5年度)」は、日本、アメリカ、ドイツ、フランス、スウェーデンの5か国で、満13歳から満29歳までの男女を対象に、2023年11月から12月にウェブ調査を行った。各国おおむね1,000サンプルという設計である。

そのなかで「私は、自分自身に満足している」に肯定的に答えた日本の割合は57.4%だった。平成30年度の同種調査では45.1%で、5年間で12.3ポイント上がっている。改善はしているが、半分強という水準から出発している点は押さえておきたい。

この設問は4段階で聞かれている。肯定の合計は「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」を足した値で、日本の内訳は前者が16.9%、後者が40.5%だった。強い肯定は6人に1人という形になる。

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自己評価の水準は国によって20ポイント違う

同じ設問を5か国で並べると、日本の位置がはっきりする。自己認識に関する3つの設問について、肯定の合計は次のようになった。

国 自分自身に満足している 自分には長所がある 今の自分が好きだ
日本 57.4% 65.6% 53.4%
アメリカ 73.2% 82.6% 71.5%
ドイツ 73.9% 85.2% 75.5%
フランス 75.6% 81.2% 72.4%
スウェーデン 72.3% 73.1% 71.8%

日本はいずれの設問でも最も低く、首位との差は15ポイントから20ポイント近い。とくに「自分には長所がある」では、ドイツの85.2%に対して日本は65.6%である。長所の有無を認める段階で差がついていることになる。

一方で「自分の親から愛されていると思う」は日本が80.8%で、5か国のなかで低いほうではない。家庭での受け入れられ方と、自分自身への評価が別の動きをしているという読み方ができる。身につけるものを選ぶ行為は、この後者に働きかける手段のひとつになる。

差はさらに広がる。「そう思う」だけを取り出すと、日本の16.9%に対してアメリカは36.4%、フランスは35.9%、ドイツは32.7%、スウェーデンは30.9%となる。言い切ることを避けて中間の選択肢に寄るという回答の癖も含まれるため、この20ポイント近い開きをそのまま自信の差と読むのは行き過ぎだが、控えめに答える環境そのものが選び方に影響する。

体型の自己像は健康の数字とつながる

見た目の評価が行動に及ぶと、別の指標にあらわれる。厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要」によると、やせに該当する人の割合は女性12.0%、男性4.4%だった。ところが20歳代から30歳代の女性に限ると20.2%に上がる。

この数値は体格指数が18.5を下回る人の比率で、国の健康づくり計画である健康日本21(第三次)では、若年女性のやせを15%まで減らす目標が置かれている。現状の20.2%は目標から5ポイント以上離れている。

服の形に自分を合わせるのか、自分の形に服を合わせるのか。前者に寄りすぎると健康の側に負荷が出る。既製品のサイズ展開は平均的な体型を前提に作られているため、合わないことを自分の欠点として受け取る必要はない。

体格の分布は一方向ではない。同じ調査では肥満に該当する割合が男性31.5%、女性21.1%と報告されている。痩せている側と大きい側の両方に、既製服のサイズと合わない人がいる。店頭に並ぶ範囲が自分に合うかどうかは、体型の良し悪しとは別の問題である。

着なかった24枚が生まれる仕組み

買ったときは気に入っていたのに、一度も着ないまま1年が過ぎる。環境省「サステナブルファッション」の推計では、1年間に一度も着られなかった服が1人あたり約24枚ある。家庭にある服のうち使われているのは55%で、残る45%はしまい込まれたままとされる。

買う場面と着る場面では、判断の条件が違う。店や画面の前では「こうなりたい自分」を基準に選び、出かける前には「今日会う相手にどう見えるか」で選ぶ。前者で買った服は後者の基準を通らないことが多い。

この差を埋めたいなら、買う前に着る場面を具体的に置いてみるのが近道になる。誰と、どこで、何をする日に着るのかを1つ思い出せない服は、24枚の側に入りやすい。言葉の整理から入りたい場合はファッションとは何かも合わせて読める。

買い物の記録を残すと、この仕組みは目に見える形になる。値段と買った日付のほかに、どの場面で着る想定だったかを一行書いておく。半年後に読み返して想定どおり着ていたかを確かめれば、自分がどの基準で失敗するのかがわかってくる。

服を気分の道具として扱う

気が重い日に、あえて明るい色を選ぶ人がいる。逆に目立ちたくない日に、落ち着いた色でまとめる人もいる。どちらも服を自分の状態に合わせて使っている例で、評価される対象から道具に位置づけ直す動きである。

他者の視線を完全に無視できるわけではない。ただし視線の重みは、自分の評価が安定しているほど軽くなる。57.4%という満足度の水準を踏まえれば、服だけで自己評価を支えようとするのは負荷が大きいという見方もできる。

支えになる要素は複数あるほうが安定する。好きなものへの関わり方を扱った推し活と心理や、人との距離の測り方を整理した人間関係と心理学は、服以外の支点を考えるときに使える。地域で若い世代の表現を後押ししているFLASPOの現場でも、見た目の工夫と自信の関係は一方向ではないという声が出てくる。

道具として扱うには、手持ちの中身が見えていることが前提になる。45%がしまい込まれたままという状態では、何が使えるのかを思い出すところから始まってしまう。季節の変わり目に全部を一度出してみると、使える手札がはっきりする。

よくある質問

服を変えれば自信がつくのか。調査が示しているのは自己評価の水準と国ごとの差までで、服装を変えた結果どう動くかは測られていない。即効を期待するより、着て出かけた日の感触を自分で記録するほうが確かめやすい。

他人の目が気になるのは弱さなのか。5か国のうち日本の自己評価が最も低いという結果は、個人の性格ではなく集団の傾向としてあらわれている。周囲を気にする前提で選び方を組み立てたほうが、無理のない形になる。

年齢とともに変わるものなのか。この調査の対象は13歳から29歳までで、年齢層ごとの内訳も公表されている。同じ国のなかでも学校にいる時期と働き始めた時期では評価の出方が変わるため、全体の57.4%という値は入口の目安として扱うのが妥当である。

流行を追うことは自己表現と矛盾しないのか。流行は選択肢を絞り込む装置なので、時間や判断の負担を下げる働きがある。取り入れる範囲を決めておけば、追うことと選ぶことは両立する。

着ない服を手放すべきか。枚数を基準に決めると、着る機会が年に数回でも必要な服まで外れてしまう。着る場面を1つも挙げられないものから順に考えるほうが、後で後悔しにくい。

数字の出どころはどこか。自己認識の比較はこども家庭庁の国際比較調査、体格に関する数値は厚生労働省の国民健康・栄養調査、着られていない枚数は環境省のサステナブルファッションのページにある。設問の文言や対象年齢が異なるため、横に並べるときは条件をそろえて読みたい。


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