メンタルと食事|野菜256gと共食19.0%が示す二つの不足

メンタルと食事|野菜256gと共食19.0%が示す二つの不足

栄養素の名前から入ると、公表資料では行き止まりになる

心を整える食べ物はあるか、という問いから出発すると、国の公表資料では答えが見つけにくい。厚生労働省の資料に、特定の栄養素を摂れば気分が安定するという書き方は出てこない。代わりに置かれているのは、食習慣の乱れが睡眠の質を落とし、そこから心の状態に関わるという経路の記述である。

健康づくりのための睡眠ガイド2023は、睡眠休養感を低下させる要因として、就寝直前の夕食や夜食、朝食抜きなどの食習慣の乱れを挙げている。そして日本の成人を対象とした横断研究で、睡眠休養感が低い人ほど抑うつの度合いが強いことが示されているとも書いている。食事と心のあいだに睡眠が挟まっている形である。

この順番は実用上も意味がある。何を食べるかを変えるより、いつ食べるかを変えるほうが先に効く位置にあるからである。夕食の時刻と朝食の有無は、献立を組み替えるより手数が少ない。

以下では、この経路の中身を確かめたうえで、令和5年国民健康・栄養調査が示す摂取量の実態、改善の意思に表れている詰まり、そして誰と食べるかという別の軸を順に見ていく。

募集中の地域コンテスト

読んだら、地域に行ってみよう

地域が出したお題に、オンラインでアイデアを応募できます。受賞すると、現地に無料で招待されます。

募集中の地域をすべて見る

いつ食べるかが、睡眠休養感の要因一覧に並んでいる

睡眠ガイド2023が挙げる睡眠休養感の低下要因は一つではない。睡眠不足、仕事などによる日中のストレス、就寝直前の夕食や夜食、朝食抜きなどの食習慣の乱れ、運動不足や歩行速度の遅さといった運動習慣の不良、そして糖尿病や高血圧、がん、うつ病などの慢性疾患を有すること、という並びになっている。食事はこのうち二つ目の位置に入る。

裏返した推奨も書かれていて、しっかり朝食を摂り、就寝直前の夜食を控えると、体内時計が調整され睡眠と覚醒のリズムが整うとされている。朝食が効く理由として、朝食を摂らない生活習慣は朝から午前中に日光を浴びる機会を減らし、夜ふかしにつながるという説明が置かれている。食事は栄養の供給だけでなく、時刻の合図としても働いている。

休養感が落ちた側の見え方については、本人も周囲も気づきにくい。眠っている時間は足りているのに回復していないという状態は、メンタル不調のサインとしての見方を整理した側で扱ったとおり、時間の数字だけ見ていると素通りしてしまう。

なお、この経路は食事を直したら不調が治るという主張ではない。ガイド自身が低下要因を六つ並べているとおり、食事は寄与の一部である。慢性疾患が混ざっている場合は、受診の判断が別に必要になる。

摂取量の実測は、どの項目も目標の手前で止まっている

では現状はどうなっているか。令和5年の結果の概要から、健康日本21(第三次)が目標値を置いている食生活の項目を抜き出して並べると、距離が見える。

項目 令和5年の実測値(20歳以上) 健康日本21(第三次)の目標値
食塩摂取量の平均値 9.8g(男性10.7g・女性9.1g) 7g
野菜摂取量の平均値 256.0g(男性262.2g・女性250.6g) 350g
主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を1日2回以上 男性45.7%・女性47.1% ほぼ毎日の人の割合50%
地域で共食している人の割合 19.0% 30%

右の列と中央の列は、定義の粒度が完全には一致しない。主食・主菜・副菜の行は、実測が毎日1日2回以上摂っている人の割合で、目標は1日2回以上の日がほぼ毎日の人の割合として立てられている。地域の共食の行も、実測は地域での共食頻度が年に1回程度以上と答えた人の割合である。そのまま差を引き算するのではなく、どちら側にどれだけ余地があるかを見る表として読むほうが安全である。

推移を足すと、楽観しにくい形になる。野菜摂取量はこの10年間で男性が有意に減少し、女性も平成27年以降有意に減少している。食塩摂取量は男女とも有意な増減がみられない。年齢階級別では、野菜は男女ともに20歳代で最も少なく、年齢階級が高い層で多くなる傾向がある。少ない側に、働きはじめの年代が集まっている。

知らないから動かないのではない、という結果が出ている

情報が足りていないのが原因なら、知らせれば動くことになる。ところが改善の意思を尋ねた結果は、その筋書きと噛み合わない。野菜を十分に食べることについて、1日の野菜摂取量が70g未満の人では、男女ともに「関心はあるが改善するつもりはない」と答えた人の割合が最も高い。関心という段階は越えているのに、次に進んでいない。

食塩のほうはもう一段ずれている。1日の食塩摂取量が7g以上の人では、男女ともに「食習慣に問題はないため改善する必要はない」と答えた人の割合が最も高い。目標値である7gを上回っているのに、問題がないという自己評価になっている。摂取量は本人の感覚から外れた場所にある、ということになる。

妨げの中身も尋ねられている。健康な食習慣の妨げとなっている点としては、どの項目についても男女ともに「特にない」が最も多い一方、挙がったもののなかでは「仕事(家事・育児等)が忙しくて時間がないこと」が大きい。野菜を十分に食べることについては男性20.8%、女性18.8%がこれを選んでいる。障害として名前が挙がっているのは、知識ではなく時間である。

心の負荷の側から見ると、この構図はなじみがある。強いストレスの原因として対人関係や仕事量が上位に並ぶことは人間関係とストレスの内訳で見たとおりで、食事を整える余力はその裏側で削られていく。食事の改善を個人の意思の問題として設計すると、忙しい層から順に外れていく。

誰と食べるかという軸が、別の指標として立っている

食生活の章には、量とは別に共食の項目が置かれている。令和5年の結果では、家庭での共食頻度は「ほとんど毎日」と答えた人の割合が最も高く66.6%だった。一方で職場や学校での共食頻度は「ほとんどない」が最も高く61.4%である。日常の食卓は家庭に寄っていて、外では一人で食べている。

家庭の外に目を向けると、相手によって数字が分かれる。友人や知人との共食頻度が年に1回程度以上と答えた人は65.2%いるのに対し、地域での共食頻度が同じ水準に達している人は19.0%にとどまる。健康日本21(第三次)が地域等で共食している人の割合を30%まで増やす目標を置いているのは、この低さに対応している。

共食が指標として立っている理由を、栄養の摂取量だけで説明するのは難しい。同じ章に地域のつながりに関する状況が並び、地域の人々とのつながりが強いと思う人の割合を45%にする目標が別に置かれていることを見ると、食卓が人のつながりを測る窓として扱われているのがわかる。

地域で一緒に食べる機会が二割に届いていない状態は、場をつくる側の課題として読める。FLASPOが進める地域の居場所づくりのような取組は、ここに直接当たる位置にある。相談窓口まで届かない層にとって、食事の場は入口として軽い。制度としての窓口の並びはメンタルヘルスの基本の側で整理した。

よくある質問

食事を変えれば心の不調は改善するのか。公表資料にそう読める記述はない。睡眠ガイド2023は食習慣の乱れを睡眠休養感の低下要因の一つとして挙げているだけで、改善すれば不調が解消するとは書いていない。要因は六つ並んでおり、慢性疾患が含まれている点からも、受診の判断を食事の見直しで置き換えることはできない。

この調査はどのように行われているのか。令和5年国民健康・栄養調査は、健康増進法に基づいて国民の身体の状況、栄養素等摂取量、生活習慣の状況を明らかにするために実施されている。令和5年国民生活基礎調査で設定された単位区から層化無作為抽出した300単位区内のすべての世帯と世帯員が対象で、令和5年11月1日時点で1歳以上の人を調べている。

野菜350gという目標は、どこから出た数字か。健康日本21(第三次)の栄養・食生活分野の目標値として、野菜摂取量の平均値350gが掲げられている。実測の256.0gとの差は約94gで、小鉢に換算すると一日あたり1〜2品ぶんにあたる。20歳代が最も少ないという年代差を踏まえると、全体を一律に動かすより、少ない層に寄せたほうが効率はよい。

時間がないことが最大の妨げなら、何から着手すればよいか。睡眠ガイド2023の記述のうち、就寝直前の夜食を控えることと朝食を摂ることは、品数や調理の手間を増やさずに時刻だけを動かす変更である。摂取量の目標に近づける作業より手数が少なく、睡眠と覚醒のリズムを整える効果が資料上は明示されている。着手の順番としては、量の前に時刻を置くほうが現実的である。


アイデアコンテストプラットフォーム「FLASPO」

FLASPO

アイデア1つで、地域や企業とつながれる。

FLASPOは、全国の自治体・企業が開催する若者向けアイデアコンテストのプラットフォームです。
地域や企業が抱える課題に対して、あなたのアイデアで解決策を提案できます。

賞金やユニークな地域体験が獲得できるコンテストも多数。誰でも参加無料・オンライン完結で挑戦できます。

コンテストを探す▶︎

FLASPOで募集中のコンテスト

自治体や企業が出したお題に、学生・若者がオンラインでアイデアを応募できます。募集中のものも、これまでのお題と結果も、一覧で見られます。