メンタルと運動|歩数は10年で減り男性6,628歩になった

メンタルと運動|歩数は10年で減り男性6,628歩になった

国のガイドは、心への効果を一ページ目に置いている

運動が体によいという話は聞き慣れているが、心のほうはどう扱われているのか。健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023は、令和6年1月に厚生労働省の検討会がまとめた資料で、その冒頭に答えが書いてある。身体活動や運動の量が多い人は、少ない人と比べて循環器病、2型糖尿病、がん、ロコモティブシンドローム、うつ病、認知症等の発症や罹患のリスクが低いことが報告されている、という一文である。

うつ病が、糖尿病やがんと同じ並びに入っている。心の問題を別枠にせず、身体活動の効果が及ぶ対象として同列に置いた書き方になっている。

続く段落では令和2年に世界保健機関が公表した身体活動・座位行動のガイドラインを引き、身体活動を実施することによって循環器病、2型糖尿病、がんが予防され、うつや不安の症状が軽減されるとともに、思考力、学習力、総合的な幸福感を高められるとされている、と紹介している。予防ではなく症状の軽減という言い方になっている点が、他の疾患との違いである。

以降では、推奨されている量がどう書かれているか、実際にどれだけ満たされているか、座っている時間が別の軸として入った理由、そして体の中で何が起きているとされているかを順に見ていく。

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推奨されている量は、運動ではなく身体活動の側で書かれている

ガイドの用語の区別が、推奨の読み方を左右する。身体活動とは、安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費する骨格筋の収縮を伴うすべての活動を指す。運動はそのうち、健康や体力の維持や増進を目的として計画的、定期的に実施されるものだけを指す。通勤の徒歩や掃除は身体活動には入るが運動には入らない。

成人版の推奨事項は、この区別に沿って四つに分かれている。

区分 推奨されている量 具体例としての言い換え
身体活動(3メッツ以上) 週23メッツ・時以上 歩行又はそれと同等以上の強度を1日60分以上(1日約8,000歩以上に相当)
運動(3メッツ以上) 週4メッツ・時以上 息が弾み汗をかく程度の運動を週60分以上
筋力トレーニング 週2〜3日 週4メッツ・時の運動に含めてもよい
座位行動 長くなりすぎないよう注意 立位困難な人も、じっとしている時間が長くなりすぎないよう少しでも身体を動かす

量の大半は一段目が占めている。週23メッツ・時に対して運動は週4メッツ・時なので、運動をまったくしなくても歩く量で届く設計になっている。推奨事項の先頭には、個人差等を踏まえて強度や量を調整し、可能なものから取り組む、今よりも少しでも多く身体を動かすという一文が置かれている。満たすか満たさないかの二択ではない書き方である。

運動習慣者も歩数も、目標の手前で動いていない

実態の側を見ると、どちらの指標も目標に届いていない。令和5年国民健康・栄養調査の結果の概要では、運動習慣のある人の割合は男性36.2%、女性28.6%で、この10年間でみると男女とも有意な増減はみられない。ここでいう運動習慣のある人とは、1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している人である。健康日本21(第三次)の目標値は年齢調整値で40%である。

年齢階級別に割ると、低い場所がはっきりする。その割合が最も低いのは男性では30歳代で23.5%、女性では20歳代で14.5%である。働きはじめから子育て期にかかる年代が底になっている。運動の優先順位が下がる時期と、心の負荷が高い時期が重なる形になる。

歩数のほうはさらに向きが悪い。歩数の平均値は男性で6,628歩、女性で5,659歩であり、この10年間でみると男女とも有意に減少している。健康日本21(第三次)が掲げる1日の歩数の平均値は年齢調整値で7,100歩なので、目標より千歩前後少ない。20〜64歳では男性7,506歩、女性6,494歩、65歳以上では男性5,329歩、女性4,419歩である。

ガイドが示した身体活動の目安が1日約8,000歩以上なので、現役世代の平均値でもその手前にある。運動習慣の有無を問う指標が10年動かず、歩数は減っているという組み合わせは、意識の問題として説明しにくい。負荷の構造の側を見るほうが説明がつく部分があり、強いストレスの分布をこころの状態の年代別の数字で見ると、底になっている年代と重なっている。

座っている時間が、独立した軸として入った

ガイド2023で新しく入った概念が座位行動である。座ったり寝転んだりして過ごすことを指し、デスクワークやテレビ、スマートフォンの視聴などが例として挙げられている。運動をしているかどうかとは別に、座っている時間の長さが指標になった。

職場に絞った記述が、その理由を示している。労働者を対象としたこれまでの研究結果から、身体活動量が多いほど循環器系疾患のリスクが低く、抑うつなどの健康指標が良好であり、また仕事中の座位行動が多いほど健康リスクは高まることが示唆されている、とガイドはまとめている。抑うつが、座っている時間と結びつけて語られている箇所である。

この二つが別の軸であることは、対策の立て方に影響する。朝に30分走る習慣があっても、その後9時間座り続ける働き方なら、座位行動の側は改善していない。逆に運動の時間を確保できない人でも、座り続ける時間を切る方向なら動かせる余地がある。ガイドが座位行動について時間の数値ではなく、長くなりすぎないよう注意するという書き方にとどめているのは、職種によって裁量の幅が違うためだと読める。

職場における身体活動の介入については、多様な要素を用いた介入が実施されており、概ね健康指標への好ましい影響が観察されていると書かれている。一方で、標準的な介入プログラムの整理は今後の課題とされている。地域の側で体を動かす機会をつくるFLASPOのような取組は、職場の裁量が届かない部分を埋める位置にある。

体の中で何が起きているとされているか

気分が晴れるという感覚的な説明だけでなく、ガイドには発症予防や改善のメカニズムの章が置かれている。精神・神経疾患の項目では、海馬の容積の減少や、脳由来神経成長因子や神経伝達物質の血中濃度の低下が伴うとされている。これが疾患の側で起きていることの記述である。

身体活動を加えると向きが変わる、という書き方が続く。身体活動により、神経成長因子や伝達物質の血中濃度の増加や、うつ病や軽度認知症の患者での海馬の萎縮の抑制が報告されているとある。患者を対象とした報告として紹介されている点に意味があり、予防の話だけに閉じていない。

強度についての整理も別にある。中高強度の身体活動は認知機能やメンタルヘルスの向上に効果があるとされ、全身持久力や筋力の向上、心血管代謝機能や骨の健康との関連も併記されている。息が弾み汗をかく程度という具体例が推奨事項に書かれているのは、この強度帯を指している。

もう一つ、睡眠を経由する経路がある。健康づくりのための睡眠ガイド2023は睡眠休養感を低下させる要因として、運動不足や歩行速度の遅さといった運動習慣の不良を挙げており、睡眠休養感が低い人ほど抑うつの度合いが強いという日本の研究も紹介している。体を動かすことが夜の回復を介して効く筋道で、眠れているのに休めていない状態の背景としても読める。

よくある質問

メッツ・時という単位はどう計算するのか。身体活動の強度をメッツで表し、その強度に実施した時間をかけて積み上げた量である。歩行は3メッツ程度にあたるため、1日60分の歩行を週7日続けるとほぼ週23メッツ・時に相当する。日常の移動や家事も含めて積算できる単位なので、運動の時間だけで数える必要はない。

8,000歩に届かない日が続く場合、効果はないのか。推奨事項の先頭に、今よりも少しでも多く身体を動かすという一文が置かれている。基準に達しない範囲でも量が多いほうがよいという前提で書かれているので、未達を理由に取り組みを止める読み方はガイドの構成と合わない。

運動で心の不調が治るということか。ガイドの記述は発症や罹患のリスクが低い、症状が軽減されるという水準であり、治療の代替としては書かれていない。症状が出ている場合の相談先や診断の扱いは別の話になる。資料の全体は厚生労働省の身体活動・運動の推進のページに概要版も含めて置かれている。

筋力トレーニングを週2〜3日というのは、どの程度を指すのか。推奨事項では日数だけが示され、週4メッツ・時の運動に含めてもよいという注記が付いている。負荷や種目の指定はないため、自分の体重を使う運動も含めて数えられる。高齢者版では、同じ週2〜3日の推奨が多要素な運動に含めてもよいという形に書き換えられている。


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