終わった翌日に出てくるのは、感想であって記録ではない
打ち上げの席で「楽しかった」「集客は思ったより伸びなかった」という話が出る。そこまでは自然に起きる。問題は、その会話が翌週には誰の頭にも残っていないことだ。
一年後に同じ催しをやる人は、たいてい別の人になっている。引き継がれるのは会場の名前と去年の写真くらいで、なぜその判断をしたのか、何が効いて何が無駄だったのかは消えている。だから毎年、同じ場所で同じ失敗が起きる。
振り返りを残す作業は、記憶力の問題ではなく形式の問題である。何を書くかが決まっていれば、疲れている翌日でも埋められる。決まっていなければ、どんなに真面目な人でも感想しか書けない。
幸い、この形式は自分たちで発明しなくてよい。国は自らの事業の振り返りを法律で型にしており、記録すべき項目まで条文に並べている。借りてくるには十分な精度がある。
書く項目は、政策評価の条文がすでに並べている
行政機関が行う政策の評価に関する法律第3条第1項は、行政機関がその所掌に係る政策について、適時にその政策効果を把握し、これを基礎として必要性、効率性または有効性の観点その他当該政策の特性に応じて必要な観点から自ら評価し、その結果を政策に適切に反映させなければならないと定めている。同条第2項第1号は、政策効果を政策の特性に応じた合理的な手法でできる限り定量的に把握することを求めている。
注目したいのは第10条第1項である。評価を行ったときに作る評価書に記載すべき事項が、七つ列挙されている。対象とした政策、担当した部局または機関とこれを実施した時期、評価の観点、政策効果の把握の手法およびその結果、学識経験を有する者の知見の活用に関する事項、過程で使用した資料その他の情報に関する事項、そして評価の結果である。
この七つは、催しの振り返りにそのまま置き換えられる。置き換えると、感想が出てくる余地のない表になる。
| 評価書の記載事項(第10条第1項) | 催しに置き換えると |
|---|---|
| 対象とした政策 | どの企画を振り返るのか(全体か、物販か、ステージか) |
| 担当した部局と実施した時期 | 誰が書いたか、いつ書いたか |
| 評価の観点 | 必要性・効率性・有効性のどれを見るのか |
| 効果の把握の手法と結果 | 何を数えたか(来場者数・単価・回収率)と、その数字 |
| 学識経験者の知見の活用 | 外の人(顧問・会場の担当者・協賛先)から聞いた内容 |
| 使用した資料その他の情報 | 名簿・売上の集計・アンケートの原票の置き場所 |
| 評価の結果 | 続ける・やめる・形を変えるのどれにするか |
同法第11条は、行政機関の長が少なくとも毎年一回、評価の結果の政策への反映状況について総務大臣に通知し、公表しなければならないと定めている。反映したかどうかまで追う仕組みになっているところが肝心で、振り返りの紙を作って終わりにしない仕掛けが条文の側に入っている。
数えるものを先に決めないと、何も数えられない
振り返りで最初に困るのは、手元に数字が無いことである。来場者が「だいたい200人くらい」で止まると、効率も有効性も測れない。数えるのは終わってからではなく、始まる前に決める作業になる。
数える対象を決めるときは、目的から降ろすのが早い。新しい層に届けたかったのなら、来場者の総数より初参加の割合を数える。収支を改善したかったのなら、人数より一人あたりの単価を数える。関係を続けたかったのなら、その場で次の連絡先に同意した人数を数える。
公文書等の管理に関する法律第4条は、行政機関の職員に対し、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程、ならびに事務および事業の実績を合理的に跡付け、または検証することができるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き文書を作成しなければならないと定めている。跡付けと検証という二語が、記録の目的をよく言い当てている。
跡付けができるとは、なぜその値段にしたのか、なぜその会場を選んだのかを後から辿れることである。検証できるとは、その判断が当たったかどうかを数字で確かめられることだ。この二つが揃っていない紙は、読んでも次の判断に使えない。
実務上は、企画書の段階で「終わったら数える項目」の欄を作ってしまうのが確実である。当日の受付の設計も、その欄に合わせて変わる。数えると決めた項目があれば、受付で聞く一言が自然に決まる。
アンケートは、回収率15%の世界で設計する
来場者アンケートを配ったが30枚しか戻ってこなかった、という結果は失敗ではない。国が予算と人を投じて行う標本調査でも、回収率はその程度に落ちる。
日本学生支援機構の令和6年度学生生活調査結果は、全国2,716,360人の学生から82,593人を抽出して令和6年11月に実施された。有効回答は12,659人で、回収率は15.3%である。全数に戻すための推計を行い、そのうえで結果を公表している。
この前提を先に飲んでおくと、設計が変わる。全員から集めようとせず、戻ってくる15%から何が言えるかを考える。設問を5つに絞り、紙の裏に回り込まない長さにし、その場で書ける質問だけにする。属性を細かく聞くほど、埋めずに捨てられる確率が上がる。
あわせて、戻ってきた紙の扱いも決めておく。個人情報の保護に関する法律第17条第1項は、個人情報を取り扱うに当たってその利用目的をできる限り特定しなければならないと定める。第21条第2項は、本人から直接書面に記載された個人情報を取得する場合には、あらかじめ本人に対し利用目的を明示しなければならないと定めている。用紙の冒頭に一行入れるだけで満たせる要件である。
同法第22条は、利用目的の達成に必要な範囲内で個人データを正確かつ最新の内容に保つとともに、利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努めなければならないと定めている。集計が終わった原票を部室に積んでおく状態は、この努力義務から離れていく。集計の完了日と原票の処分日を、振り返りの紙に並べて書いておくとよい。
会議は一回で終わらせ、紙は次の人に渡る形で残す
振り返りの会議を何度も開くと、参加者が減って内容が薄まる。開くのは一回でよい。そのかわり、前日までに数字と評価書の七項目のうち埋められるところを埋めておき、会議では評価の結果だけを決める。
決め方も形を持たせる。続ける、やめる、形を変えるの三つから選び、形を変える場合は変える箇所を一つに絞る。二つ以上変えると、次の回にどちらが効いたのか分からなくなる。国の評価が観点を定めてから測るのと同じ理屈である。
紙は、来年の担当者が最初に開く場所に置く。共有の保存先に年度の名前でたたみ、名簿と売上の集計とアンケートの原票の置き場所を一枚目に書く。置き場所が書かれていない記録は、半年で行方が分からなくなる。
当日の判断基準を紙にして持つ方法はイベント当日の運営|中止と縮小の基準を外部の数字に紐づけておくに、数えるものを企画の段階で決める手順はイベントの目的設定|人数と単価に分け、実数か推定かも決めるにまとめてある。名簿や通帳やアカウントを次の代に渡す順番はサークルの引き継ぎ|名簿と通帳とアカウントを渡す順番を決めるが近い。
一度の催しを終えたあとに記録を残すところまでを経験できる場は、FLASPOでも用意している。
よくある質問
反省会で人の批判が始まってしまいます。観点を先に宣言すると起きにくくなります。今日は有効性だけを見ると決めて、人ではなく数字と手順に話を向けてください。誰が悪かったかは、次の回の成果を上げません。
数字が取れなかった項目はどう書けばよいですか。取れなかったと書き、取れなかった理由を一行添えてください。空欄にすると、来年の人は数えようとしたことにすら気づけません。推測の数字で埋めるほうが害が大きいです。
アンケートは紙とウェブのどちらがよいですか。その場で回収できる紙のほうが戻りは高く、集計はウェブのほうが速いです。会場で二次元コードを出し、帰り際に紙も置くという両方の形にして、どちらが多かったかを次の回の判断材料にしてください。
来場者数はどう数えるのが正しいですか。入口で数える、チケットの枚数で数える、名簿で数えるのどれでもかまいませんが、方法を記録してください。方法が違う年の数字を並べて増減を語ると、結論が逆になることがあります。
書いた記録は公開すべきですか。協賛先や学内の窓口に出す範囲では公開したほうが次が通りやすくなります。ただし個人が特定できる記述と、アンケートの自由記述の原文はそのまま出さないでください。要約に直すか、件数だけを示す形にします。
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