SDGsと企業|取り組む会社が増えても前向きが減る理由

SDGsと企業|取り組む会社が増えても前向きが減る理由

二つの数字が逆を向いている

企業のSDGsは伸びているのか、止まっているのか。同じ調査の中に、答えの違う数字が並んでいる。帝国データバンクが2026年7月に公表したSDGsに関する企業の意識調査は、全国2万2,572社を対象とした7回目の集計で、ここに両方の動きが同時に出ている。

伸びているほうから見る。「意味および重要性を理解し、取り組んでいる」と答えた企業は30.3%で、2020年の調査開始以降でいちばん高い。実際に手を動かしている会社は、ゆっくりではあるが毎年積み上がってきた。

止まっているほうはその隣にある。取り組んでいる層と「取り組みたいと思っている」層を足した前向きな企業は52.6%で、2年続けて下がった。いずれかの目標に力を入れていると答えた割合も、前年の73.2%から72.0%へ落ちている。

減ったのは予備軍のほうだ。数年前まで「これから考える」と答えていた会社が、やる側とやらない側に分かれつつある。言葉が目新しかった時期が終わり、態度を保留しておく理由がなくなった、と読むのが自然だろう。

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規模によって見えている景色が違う

全体の平均値は、大きな会社と小さな会社の事情を混ぜてしまう。中小企業基盤整備機構が2024年7月にまとめた中小企業のSDGs推進に関する実態調査を重ねると、その差がはっきりする。

この調査で「現在すでに取り組んでいる」と答えた中小企業は17.0%だった。「今後は取り組んでいく予定」の17.6%を足しても34.6%にとどまる。ただし前回調査の33.8%、前々回の30.6%からは着実に上がっており、方向としては増えている。

注目したいのは進み具合の内訳である。取り組みの段階を聞くと「理解を進めている段階」が36.4%でいちばん多く、「自社で取り組む優先課題を検討・決定している段階」が25.1%で続いた。つまり中小企業の主戦場は、成果を出す手前の、社内で腹落ちさせる工程にある。

この段階は外から見えにくい。報告書も専用サイトも持たない会社が多く、取り組んでいないように映る。実際には廃棄物の削減や働き方の見直しを進めていても、それをSDGsの言葉で説明していないだけ、という例は珍しくない。

先に動いたのは開示のルールだった

企業の姿勢が揺れている一方で、制度のほうは明確に前へ進んだ。金融審議会が2026年1月に出したサステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ報告は、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の基準を有価証券報告書で使うことを、プライム市場の上場企業に段階的に義務づける道筋を示している。

始まりは2026年4月1日以後に開始する事業年度、つまり2027年3月期だ。最初の対象は時価総額の大きな企業に限られ、そこから範囲が広がっていく。任意の情報発信だった領域が、決算書類と同じ扱いになるという点が大きい。

時期 対象の目安 位置づけ
2027年3月期 時価総額3兆円以上のプライム上場企業 適用開始
2028年3月期 時価総額1兆円以上 対象拡大
2029年3月期 時価総額5,000億円以上1兆円未満 対象拡大
2030年代を目途 プライム市場の全上場企業 最終的な姿として提案

上場していない会社には関係がない話に見えるかもしれない。ところが温室効果ガスの排出量は、自社の分だけでなく調達先の分まで含めて集計される。大手が開示を求められれば、その部品や原料を納めている地方の企業に数値の提出依頼が届く。制度の入口は上場企業でも、実務の波は取引の連なりをたどって広がっていく。

報告の中身を第三者が確かめる保証の仕組みも、同じワーキング・グループで議論されてきた。財務諸表に監査があるように、排出量や人的資本の数値にも外部の点検を入れるという考え方である。数字を出す側から見れば、根拠となる記録を残す作業がここから始まる。

つまずきの正体は「何から始めるか」

では、動けていない会社は何に引っかかっているのか。中小機構が2023年に行った同系列の調査では、課題として「取り組むことによるメリットがわからない」が18.8%、「何から取り組めばよいのかわからない」が18.1%で上位に並んだ。反対意識ではなく、入口が見えないという困りごとである。

この二つは同じ場所から来ている。17の目標は世界全体を覆うように作られているため、従業員20人の製造業が自分の仕事と結びつけようとすると、抽象度が高すぎて手がかりがない。目標の一覧を眺めることから始めると、たいてい行き止まりになる。

順序を逆にしたほうが早い。すでにやっていることを書き出し、あとから番号を当てる。不良品を減らす工夫は目標12に、育児中の社員の時間調整は目標5と8に、地元の高校からの受け入れは目標4につながる。新しく何かを足す前に、手元の取り組みに名前がつく。

名前がつくと、外部への説明が一気に楽になる。金融機関の面談、自治体の登録制度、取引先の調査票は、いずれも同じ枠組みで質問してくる。棚卸しの一枚が、そのまま複数の場面で使える資料になる。

棚卸しを一度で終わらせないことも大切だ。年に一度、決算の時期に合わせて見直すと、前年からの変化が自然に記録として残る。担当者が交代しても引き継げる形にしておけば、取り組みが個人の熱意に依存しなくなる。

地域の企業にとっての現実的な効き目

地方の中小企業にとって、この話がいちばん効くのは採用の場面だろう。求人票に書ける内容が変わるだけでなく、学生が会社の方向性を判断する材料になる。商社とSDGsの関わりのように業界単位で語られることが多いが、規模の小さな会社ほど、具体的な現場の話が強みになる。

資金の面でも接点がある。地域金融機関は融資先の非財務情報を集める必要に迫られており、地方銀行の中小企業支援にも評価や伴走の仕組みが組み込まれつつある。取り組みを整理しておくことは、条件交渉の材料を一つ増やすことでもある。

混同されやすい隣接語との整理も済ませておきたい。投資家向けの評価軸であるESGと、社会全体の共通目標であるSDGsは出発点が異なる。この違いはコンサルとSDGs、ESGとの違いで扱われている論点で、社内文書を書くときの前提になる。

そして最後は人である。若い世代と地域企業をつなぐ実践を積み重ねてきたFLASPOのような場を使えば、学生の目線から自社の取り組みを検証してもらうこともできる。社内だけで完結させないほうが、言葉は具体的になる。

よくある質問

中小企業も報告書を作らなければいけないのか。制度として求められているのは上場企業であり、非上場の中小企業に開示義務はない。ただし取引先から排出量や労働環境の情報を求められる場面は増えるため、聞かれたときに答えられる状態を作っておく意味はある。

取り組むと売上は増えるのか。直接の因果を示した統計は見当たらない。効き目が出やすいのは採用と取引先の維持で、応募者の質や、大手との継続的な関係に表れることが多い。短期の売上効果を期待して始めると、続かなくなる。

17の目標すべてに関わるべきか。その必要はない。中小機構の調査でも、優先課題を絞り込む段階に多くの企業が滞留していた。本業と結びつく二つか三つに限り、残りは扱わないと決めるほうが、社内の理解は進む。

どこに相談すればよいか。経済産業省の各地方局や自治体が支援窓口や登録制度を用意しており、商工会議所でも相談を受け付けている。認証や宣言の制度は自治体ごとに条件が違うため、本社のある地域の制度から確認するのが早い。

担当者を専任で置く必要はあるか。数人規模の会社で専任を置くのは難しく、実際には総務や経営企画が兼務している例がほとんどである。重要なのは肩書きより、社内の情報が一か所に集まる経路を決めておくことだ。


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