若い世代の自己評価は、項目ごとにきれいに割れている
若者はコミュ力が高いのか低いのか。この問いに一言で答えられないことが、公的な調査を開くとすぐ分かる。内閣府が令和5年3月に公表したこども・若者の意識と生活に関する調査の報告書には、15歳から39歳の7,035人に他の人と付き合うときの様子を尋ねた結果が載っている。令和4年11月10日から25日まで、層化二段無作為抽出法で選んだ対象に郵送法で実施された調査である。
7項目を「あてはまる」と「どちらかといえば、あてはまる」の合計で見ると、高いところと低いところの差が27ポイント以上ある。同じ回答者が、場面ごとにまったく違う自己評価を出している。
| 他者との付き合い方 | あてはまる(計) | あてはまらない(計) |
|---|---|---|
| その場に合った行動がとれる | 80.8% | 18.8% |
| 表情やしぐさで相手の思っていることがわかる | 76.1% | 23.4% |
| 表情が豊かである | 66.9% | 32.6% |
| 親しい人に頼まれてもやりたくないことは断る | 53.8% | 45.7% |
| 誰とでもすぐ仲良くなれる | 52.8% | 46.9% |
残る2項目も参考になる。「気持ちを抑えようとしても、顔に出てしまう」はあてはまる側が62.2%、「人にぶつかっても、あやまらないことがある」はあてはまらない側が85.6%で、7項目の中で最も偏りが大きかった。最低限の作法は共有されていて、崩れているのは別の場所だと読める。
並べ替えると性質がはっきりする。場を読む、表情を読む、表情を出すという受け身寄りの項目は7割から8割に届く。これに対して、初対面の相手に自分から踏み込む項目と、頼まれごとを断る項目は5割台で止まり、あてはまらない側がほぼ半分を占めている。
「すぐ仲良くなれる」は、年齢が上がるほど下がっていく
若い世代ほど人づきあいが苦手だという語り口は広く流通している。ところが同じ調査の年齢別の結果は、その向きと逆だった。「誰とでもすぐ仲良くなれる」にあてはまると答えた割合は、年齢が低い層ほど高くなる傾向を示している。
具体的には、15歳から19歳が58.8%で、35歳から39歳は47.4%まで下がる。しかも35歳から39歳では、あてはまらないと答えた割合が52.3%となり、あてはまる側の47.4%を上回って逆転している。男女で見ると男性52.5%、女性53.2%でほとんど差がない。
この逆転を能力の衰えとして読むのは無理がある。職場では相手を選べず、関係の目的もはっきりしているため、すぐ仲良くなる必要が薄い。設問が測っているのは、距離を詰める速さであって、関係を保つ質ではない。
学校に通っている間は、席が隣になるだけで関係が始まる。卒業するとその仕組みが外れ、会う頻度そのものが落ちていく。10代と20代で会う回数がどう変わるかは友人関係と若者で年代別に追っていて、自己評価の下がり方と重なって読める。
困難の原因として最も多く挙がったのが人づきあいだった
自己評価が5割台という数字は、本人にとってどれくらい重い問題なのか。同じ報告書に、社会生活や日常生活を円滑に送る上での困難を経験したと答えた3,172人に、その原因を尋ねた結果がある。
自分自身についての原因では、「人づきあいが苦手」が47.7%で第1位だった。以下、「何事も否定的に考えてしまう」32.5%、「悩みや不安などが相談できない」27.4%、「精神的な病気」27.2%、「勉強が苦手」13.7%と続く。困難を抱えた人のほぼ半数が、原因の1つとして人との関わりを挙げたことになる。
この3,172人という母数は、困難を経験したと答えた人に限られている点に注意が必要になる。15歳から39歳の全体に対する割合ではないので、若者の半数が人づきあいを苦にしているという読み方はできない。
年齢別では、「人づきあいが苦手」と「何事も否定的に考えてしまう」は、おおむね年齢が低い層ほど多く挙げられている。前の節で見た自己評価の傾向とは向きが逆で、同じ年齢層が、仲良くなれると答えながら苦手意識も強く持っている。矛盾ではなく、関係を始める力と関係を続ける負担が別物だということだろう。
気を付けている側の数字は、若い層のほうが高い
やり取りの作法という切り口で見ると、若い世代の印象はさらに変わる。文化庁の令和6年度「国語に関する世論調査」は、全国の満16歳以上6,000人を対象に行われ、3,498人から回答を得た調査である。SNSを利用していると答えた割合は全体で74.8%だが、年齢別では40代以下が9割台、50代が8割台、60代が約7割、70歳以上が約4割となっている。
ここで目を引くのは、言葉の使い方で気を使っている点のうち「インターネットで、感情的な発言・反応をしない」が、年齢が上がるに従って割合が低くなるという結果である。裏返せば、この項目を挙げた割合は若い層のほうが高い。炎上を遠くから眺める世代と、それが日常の背景になっている世代の差が出ている。
戸惑いの中身にも偏りがある。「自分のうわさや個人情報が広まらないか心配になる」と「仲間外れにされないか心配になる」は20代以下で他の年齢層より高く、「目にする情報に断片的なものが多い」は20代で高い。使い慣れているから気にならないのではなく、使い慣れているぶん具体的に警戒している。
「若者のコミュ力が落ちた」を確かめる手立てがない
では世代として本当に低下しているのか。この問いに公的な統計で答えるのは難しい。文化庁の調査は令和2年度から郵送法で実施されており、令和元年度以前は面接聴取法だった。調査自体が、方法の異なる過去の結果は参考値であり比較には注意が必要だと明記している。
内閣府の調査のほうも、ある時点で各年齢層を同時に測った横断調査である。そこに現れた差は、世代ごとの違いなのか、年齢を重ねることで起きる変化なのか、この1回の結果からは切り分けられない。35歳から39歳で「すぐ仲良くなれる」が下がるのは、その世代の性質ではなく生活環境の変化だと読むこともできる。
確かめられるのは、低下したかどうかではなく、今どの項目が弱いかである。そして弱い項目は社会人基礎力の6つの能力要素のどれに当たるかで対処が変わる。要素ごとの中身はコミュ力の種類で整理してあり、選考の場で何が見られるかという前提は新卒就活と若者に通じる。
世代論から離れたほうが、手の打ちどころははっきりする。初対面の相手に自分から踏み込む経験と、断る経験を増やせる場所を選べばよい。FLASPOが扱うような地域との関わりは、年齢も立場も混ざった相手と段取りを組むことになるため、5割台で止まっていた2項目をそのまま練習できる。
よくある質問
Q. 若者のコミュ力は本当に下がっているのか。A. 時系列で比べられる公的統計が見当たらない。文化庁の調査は令和2年度に調査方法が変わり、それ以前の結果は参考値とされている。低下したと断定する資料は、根拠の年度と調査方法を確かめたほうがいい。
Q. 同世代とは話せるのに年上が苦手なのはなぜか。A. 相手が変わると、場の格に合わせた言葉遣いと、共通の前提が薄い相手への言い換えが同時に必要になる。これは慣れの問題であって、能力そのものの欠落とは別に扱える。
Q. 人づきあいが苦手だと将来どう影響するか。A. 内閣府の調査では、困難を経験した人の47.7%が原因の1つとしてこれを挙げている。ただし原因として挙がった割合であって、将来の結果を予測した数字ではない。重く受け止めすぎる必要はない。
Q. SNSばかり使うと対面の力は落ちるのか。A. 文化庁の調査にそれを示す結果はない。分かっているのは、文字のやり取りで相手の考えや感情が分かりにくいと感じる割合が45.0%あることと、その戸惑いが年齢が上がるほど低くなることである。
Q. どの項目から手を付けるのが早いか。A. 調査で5割台にとどまったのは、初対面で距離を詰める項目と、頼まれごとを断る項目だった。多くの人が同じ場所でつまずいているのだから、ここを狙うと周囲との差がつきやすい。
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