コミュ力の鍛え方|8割が気を使う言葉遣いから練習の順番を決める

コミュ力の鍛え方|8割が気を使う言葉遣いから練習の順番を決める

鍛える順番は、弱い場所を決めてからでないと組めない

本を読んで会話術を覚えても、翌日の会議で何も変わらない。原因は練習の中身より手前にあって、何を鍛えるのかが決まっていない。分解の基準として使えるのが、経済産業省が整理した社会人基礎力である。3つの能力と12の能力要素のうち、日常語のコミュ力に対応する「チームで働く力」は6つの要素を抱えている。

内訳は、自分の意見をわかりやすく伝える発信力、相手の意見を丁寧に聴く傾聴力、意見の違いや相手の立場を理解する柔軟性、自分と周囲との関係性を理解する情況把握力、ルールや約束を守る規律性、ストレスの発生源に対応するストレスコントロール力である。鍛え方の手順はこの6つで別々になる。

ここを飛ばすと、得意な1つをさらに磨いて満足する結果になりやすい。会話が盛り上がった記憶は残るのに、意見が通らなかった場面は数に入らないためだ。要素ごとの定義と日常語への言い換えはコミュ力の種類で一覧にしてあるので、自己診断の下敷きとして先に通しておくと手戻りが減る。

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8割が言葉に気を使っている。その中身が練習メニューになる

独自の工夫を考えるより、多くの人が実際にやっていることを借りるほうが早い。文化庁の令和6年度「国語に関する世論調査」は、ふだん自分の言葉の使い方にどの程度気を使っているかを尋ねている。令和7年1月から3月にかけて、全国の満16歳以上6,000人を対象に郵送法で行われ、3,498人が答えた調査である。

「非常に気を使っている」8.1%と「ある程度気を使っている」72.9%を合わせた割合は80.9%だった。この8割の人に、どのように気を使っているかを重ねて聞いた結果が、そのまま練習項目の候補になる。

気を使っている点 割合 練習としての中身
改まった場で、ふさわしい言葉遣いをする 82.3% 場の格に合わせて語彙を切り替える
敬語を適切に使う 70.1% 型を覚えて迷いを減らす
差別や嫌がらせと受け取られかねない発言をしない 66.0% 言わない選択肢を持つ
年齢が離れた人に意味が通じるように発言する 57.3% 相手の語彙に言い換える
自分と違う意見や考え方を見聞きしても、感情的に反応しない 56.7% 反応の速度を落とす

年齢別の傾向も手がかりになる。「流行語や新しい言葉を使い過ぎない」と「外来語・外国語などを使い過ぎない」は年齢が上がるほど割合が高く、逆に「インターネットで、感情的な発言・反応をしない」は年齢が上がるほど低くなる。どの工夫が足りないかは世代によって偏っていて、全員が同じ項目から始める必要はない。

上の3つは覚えれば届く領域で、独学と反復が効く。下の2つは相手を見てから動かす領域なので、本番の場数がないと伸びない。順番としては、覚える系を先に片付けて迷いを減らし、空いた注意を相手の観察に回すのが筋が通る。

伝える側は足し算、聞く側は引き算で鍛える

この2つは同じ会話の中で交互に使われるため、まとめて練習できそうに見える。ところが作業の向きが逆で、同時に伸ばそうとすると互いの邪魔をする。

伝える側は手順の設計になる。結論を先に置く、一度に渡す情報を3つまでに絞る、相手が使っている言葉に言い換える。どれも事前に準備できるので、資料づくりと声に出す練習で再現性が上がっていく。

聞く側は逆に、自分の動きを減らす訓練になる。相手が言い終わる前に先を引き取らない、沈黙を数秒そのまま置く、要点を相手の言葉のまま返す。伝える練習で身についた反射がそのまま妨げになるため、意識して止める時間が必要になる。

どちらを先にするかは、失点の出方で決まる。言いたいことが伝わらずに聞き返されるなら伝える側から、話した後で相手が黙ってしまうなら聞く側からになる。自分の感触ではなく、直前の数回の会話で何が起きたかを思い出して選ぶほうが外れにくい。

両方を1つの会話で試すと、どちらも中途半端に終わる。今日は聞くだけ、次は組み立てだけと場面を分けてしまうほうが、1回あたりの学習量は大きい。

文字のやり取りは別の科目として練習する

対面では通るのに、チャットになると誤解が起きる。同じ調査が、文字のやり取りで何に戸惑うかを示している。仲間内や一対一でメッセージの送信等を行っている人のうち、「やり取りが面倒に感じることがある」が50.8%、「相手の考えや感情が分かりにくい」が45.0%、「情報が本当かどうか判断しにくい」が43.5%だった。

表情と声の調子という手がかりが落ちているのだから、対面の技術をそのまま持ち込んでも埋まらない。何を補えばよいかは、同じ調査でコミュニケーションの質を高めるために気を付けたい点として挙がった項目に出ている。

最も多かったのは「人を傷つけたり挑発したりするような言葉を使わない」の75.7%で、以下「誤解を招くような言葉を使わない」67.3%、「発信する前に十分に内容を吟味する」62.9%、「受け取った情報が正確かどうか確認する」60.6%、「相手の立場に立ってやり取りする」58.9%と続く。送信前に一度読み返す、断定を避ける、受け取った側の解釈を想像するという3つの動作に落とせば、日々の実務で回せる。

相手に合わせて言葉の難度を下げる練習をしたい場合は、国際交流のコミュニケーションで扱ったやさしい日本語の手順が使いやすい。難しい語を言い換え、一文を短く切り、結論を先に出す作業は、文字のやり取り全般の精度を上げる。

練習の場は、相手が入れ替わるところに置く

同じ相手とだけ話していると、前提の共有が進んで言葉が省略されていく。省略に慣れた状態は心地よいが、柔軟性と情況把握力の訓練にはならない。相手が入れ替わる場に身を置くほうが、負荷のかけ方として正しい。

厚生労働省の令和5年雇用動向調査結果の概況では、転職してきた人が前職を辞めた理由として「職場の人間関係が好ましくなかった」を挙げた割合が、男性9.1%、女性13.0%となっている。人との折り合いは職を変える水準の問題になりうるのだから、練習の優先度を下げる理由は乏しい。

場の選び方としては、年齢や立場が混ざる集まりが効率がいい。地域の活動、学外の企画、社会人が参加する勉強会のように、共通の前提が薄い相手と段取りを組む場面である。FLASPOが扱う地域との関わりもこの性質を持っていて、属性の違う相手に合わせて説明を組み替える機会が自然に増える。

練習の成果を点検する場として分かりやすいのは選考の面接で、限られた時間で筋道を渡す力が試される。質問の型ごとに答えを組み立てる方法は面接の答えを構造で組み立てるで整理してある。

よくある質問

Q. 毎日どれくらい練習すればよいか。A. 時間の長さより、場面を1つに絞ることが効く。今日は結論を先に言う、今日は相手の言葉で要点を返す、といった単位で1日1項目を選ぶほうが、何時間かけるかを決めるより続きやすい。

Q. 人見知りでも鍛えられるのか。A. 社会人基礎力の6要素のうち、話す技術に当たるのは発信力の1つだけである。傾聴力と規律性は口数の多さと関係しないので、そこから入る経路が残っている。

Q. 敬語を覚えるのは後回しでよいか。A. 文化庁の調査では、言葉に気を使っている人のうち70.1%が敬語を適切に使うことを挙げている。覚えれば済む領域なので先に片付けると、本番で迷う回数が減って相手の観察に注意を回せる。

Q. 練習相手がいない場合はどうするか。A. 文字のやり取りなら相手の同意は要らない。送る前に読み返して断定を1つ外す、主語を補う、結論を先頭に移す。この3つは1人で繰り返せて、しかも対面の組み立てにもそのまま効いてくる。

Q. 効果が出たかどうかはどう測るか。A. 自分の印象ではなく相手の反応で見るほうが確かである。聞き返される回数、話の途中で割られる回数、相談を持ち込まれる回数のように、数えられる手がかりを1つ決めて記録すると変化が見える。


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