若い世代は環境問題に敏感だ、という語られ方をよく耳にする。ところが調査の結果を並べていくと、その像はきれいに一つへ収まらない。強い不安を抱えているという数字も、関心が他の年代より低いという数字も、どちらも同じ時期の調査から出てくる。矛盾しているように見えるこの食い違いを、公表されているデータを手がかりに解きほぐしてみたい。
世界の同世代が抱えている不安の大きさ
出発点として引かれることが多いのが、2021年に医学雑誌ランセットに掲載された国際調査である。10か国の16歳から25歳、合わせて1万人に気候変動への感情を尋ねた大規模な調査だった。
結果は重い。回答者の59%が気候変動について「極度に心配している」または「とても心配している」と答え、少なくとも多少は心配していると答えた人は84%にのぼった。不安や怒り、無力感、罪悪感といった感情を抱えている人が半数を超え、45%以上が日常生活や活動に悪影響が及んでいると感じていた。
こうした状態は気候不安と呼ばれるようになった。将来の見通しが暗いために進路や出産の判断まで影響を受ける、という訴えも報告されている。単なる関心の高さではなく、心理的な負荷として現れている点がこの調査の要点だった。
ただし対象となった10か国の顔ぶれには、洪水や熱波の被害が既に暮らしを直撃している国が含まれている。日本の若者に同じ数字がそのまま当てはまるかというと、そこには距離がある。
日本の世論調査が映す温度差
国内の基礎データは内閣府の世論調査が担っている。全国の18歳以上3,000人を対象にした令和5年7月の調査では、地球環境問題に「関心がある」と答えた人が89.4%を占めた。数字だけ見れば関心は極めて高い。
ところが言葉の理解度になると様相が変わる。脱炭素社会について「言葉の意味を知っている」は43.8%にとどまり、「言葉だけは知っている」が40.0%だった。関心があると答えることと、中身を説明できることの間には開きがある。
年代差が顕著に出たのはIPCCの報告書に関する設問だった。「知っている」と答えた割合は60歳代と70歳以上で高く、「知らない」と答えた割合は18〜29歳から40歳代にかけて高い。気候科学の土台になる文書の認知では、若い層のほうが低い側に位置していた。
同じ調査は令和7年9月にも行われ、3,000人のうち1,766人が回答している。回収率58.9%という数字は、この種の調査としては標準的な水準にあたる。国内の意識を経年で追える数少ない資料として、継続して公表されている点に価値がある。設問ごとの集計は内閣府の気候変動に関する世論調査で公開されている。
声の大きさと運動の規模
意識を測るもう一つの物差しが、実際に街に出た人数である。日本で最初の気候マーチが開かれたのは2019年2月22日の東京だった。同じ年の3月15日には京都でも行われ、参加者はおよそ100人。新聞やテレビが取り上げ、若者が動き始めたという文脈で紹介された。
その後、活動は全国およそ40の地域へ広がった。もっとも参加人数の面では伸び悩みが指摘されている。国内のデモは100人の壁をなかなか越えず、数千人から数万人が集まる欧州の光景とは規模が大きく異なる。
研究者からは、日本の若者の気候変動に関する理解は総じて限定的で、政治的な行動や運動に加わろうとする人は相対的に少ないという見方も示されている。関心の総量が少ないというより、関心が街頭という形式に向かいにくい、と読むほうが実態に近いのかもしれない。
日本では署名や寄付、進学先や就職先の選択といった、日常の延長線上にある手段が好まれる傾向がある。行動が見えにくい分だけ、外からは「関心が薄い」と映りやすい構図がある。
関心と行動のあいだにある距離
気持ちと行動の落差は、別の統計にもはっきり出ている。消費者庁が2024年11月に公表した消費生活意識調査では、エシカル消費という言葉を知っていた人は27.4%。実際にそれにつながる行動を実践している割合は36.1%で、中心は30代から40代の子育て世帯だった。認知度の推移は消費者庁のエシカル消費に関する意識調査にまとまっている。
地域活動への参加も似た形を描く。総務省の令和3年社会生活基本調査によれば、ボランティア活動の行動者率がもっとも高いのは65〜69歳の23.4%で、もっとも低いのは25〜29歳の10.1%だった。時間と可処分所得の制約がそのまま反映された形である。年齢階級別の数値は総務省統計局の結果概要で確認できる。
| 調査 | 指標 | 数値 |
|---|---|---|
| ランセット掲載の国際調査(16〜25歳) | 極度に/とても心配している | 59% |
| 内閣府 気候変動に関する世論調査 | 地球環境問題に関心がある | 89.4% |
| 同上 | 脱炭素社会の意味を知っている | 43.8% |
| 消費者庁 消費生活意識調査 | エシカル消費を知っている | 27.4% |
| 総務省 社会生活基本調査 | ボランティア行動者率(25〜29歳) | 10.1% |
並べてみると、抽象度の高い問いほど賛同が集まり、具体的な知識や実践を尋ねるほど数字が落ちるという傾向が読み取れる。若者に限った現象ではないが、時間も資金も乏しい世代ほど落差が大きく出やすい。
世代差をどう読むか
第一生命経済研究所の分析は、日本人の環境意識は国際的に見て高いとは言えず、なかでも若い層は低い傾向にあると指摘している。学校でSDGsを学んだ世代なのに、という感覚とは逆向きの結果である。
手がかりになりそうなのが、学んだ経験と自分ごと化の違いだ。授業で扱われる環境問題は知識として整理される一方、暮らしの選択と結びつく機会は多くない。電気代を自分で払い、住まいの断熱や車の有無を選ぶ立場になって初めて、エネルギーの話が自分の家計と重なる。
もっとも、同じ研究所は別の報告で、環境意識の高い層への世代交代が進むことを背景に、社会全体の意識は上昇していくとの見方も示している。いまの20代が持っている感覚は、可処分所得と決定権を得たときに数字として立ち上がってくる可能性がある。
進路や就職の場面では、その萌芽が見えはじめている。企業選びで事業の社会的な意味を重く見る学生は増え、地方就職と若者の価値観の変化や商社とSDGsの関わりを扱った記事でも、その変化の一端が扱われている。
よくある質問
若い世代の関心が低いという調査結果は信頼できるのか。設問の立て方で答えは動く。関心の有無を尋ねれば9割近くが関心ありと答え、専門用語の理解を尋ねれば年長層が上回る。どの問いに対する数字なのかを確かめることが先になる。
気候不安を感じたときはどうすればよいか。ニュースから距離を置く時間をつくったうえで、自分が動かせる範囲の小さな行動に絞るとよいとされる。無力感は情報量と行動可能性の落差から生まれやすいため、手の届く対象を定めるだけで負荷は軽くなる。
学校で習うことと社会に出てから必要な知識は違うのか。教科書が扱うのは仕組みと原則で、実際に求められるのは電気料金の内訳や住まいの選び方といった判断材料である。両者は対立せず、後者を知ると前者の意味が遅れて理解できる。
環境意識が高い国と低い国の差は何から生まれるのか。気象災害の頻度や電気料金の水準、報道量といった要因が重なって形づくられると説明されることが多い。被害が身近にある国ほど危機として語られやすく、遠い将来の話に感じられる国では関心が持続しにくい。
関心を行動に変える入口はどこにあるか。地域の活動に一度参加してみる方法がとりやすい。学生でも関わりやすい場についてはFLASPOのような地域とつながるサービスが手がかりになる。
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