窓口を二つ回ると、助言の中身が食い違う
地域で子どもの放課後の居場所をつくろうと決めた人が、商工会の相談窓口と市民活動センターの両方を訪ねたとする。前者では月々の収支と返済の見込みを問われ、後者では会員の集め方と総会の運び方を説明される。やろうとしていることは一つなのに、返ってくる助言の中身がかみ合わない。
食い違いの正体は、二つの言葉が別の次元を指しているところにある。NPOは組織の器を指す言葉で、ソーシャルビジネスは事業の性質を指す言葉だ。器と性質を同じ平面に並べてどちらが良いかを論じようとすると、答えの出ない問いになる。
切り分けの手がかりは、条文のあるなしに置くと見えてくる。特定非営利活動促進法は第一条で、市民が行う自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進し、公益の増進に寄与することを法律の目的に掲げている。対してソーシャルビジネスという語は、この法律にもほかの法律にも出てこない。
一方は法人格の名前、もう一方は事業の性質の名前
NPO法人の正式な呼び名は特定非営利活動法人である。同法第二条第一項は、別表に掲げる活動に該当する活動であって、不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与することを目的とするものを特定非営利活動と定め、それを主たる目的とする団体に法人格を与える仕組みを置いた。器の輪郭は、ここで条文によって与えられている。
中身の側に輪郭を与えているのは法令ではない。経済産業省の研究会が2008年に置いた社会性・事業性・革新性という三つの要件が、いまも実務上の目安として流通している。政策文書が線を引いているぶん、どの法人格でも当てはまりうるのが特徴だ。要件の中身はソーシャルビジネスの定義で分解した。
この構図からは二つのことが出てくる。株式会社の形をしたソーシャルビジネスがありうる一方で、三要件のどれかを欠いたNPO法人もありうる。定義のある言葉と定義のない言葉が対になっているという構図は、この分野にたびたび現れる。
利益と財産の行き先に、法律が線を引いている
器の違いがもっとも鮮明に出るのは、儲けが出たあとの扱いである。NPO法人は特定非営利活動に係る事業のほかに「その他の事業」を行えるが、同法第五条は、そこで利益を生じたときはこれを当該特定非営利活動に係る事業のために使用しなければならないと定める。会計も特定非営利活動に係る事業から区分し、特別の会計として経理する義務がある。
役員への配分にも枠がある。第二条第二項は、営利を目的としないことの要件として、役員のうち報酬を受ける者の数が役員総数の三分の一以下であることを挙げている。報酬額の上限ではなく報酬を受け取れる人数の上限だという点が、読み落とされやすい。
解散したときの財産も自由にならない。第三十二条は、残余財産が定款で定めるところによりその帰属すべき者に帰属するとし、第十一条第三項は、その帰属先を特定非営利活動法人、国または地方公共団体、公益社団法人または公益財団法人、学校法人、社会福祉法人、更生保護法人のうちから選定するよう求めている。定款に定めがなく処分もされなければ、財産は国庫に入る。
| 場面 | NPO法人に置かれた縛り | 根拠 |
|---|---|---|
| その他の事業で出た利益 | 特定非営利活動に係る事業のために使用する | NPO法第5条 |
| 報酬を受ける役員の人数 | 役員総数の3分の1以下 | NPO法第2条第2項 |
| 解散後の残余財産 | 6類型の中から定款で帰属先を選定 | NPO法第11条第3項・第32条 |
| 毎年の事業報告 | 全事務所に備置き、所轄庁へ提出 | NPO法に基づく報告義務 |
株式会社にはこの四行がない。利益を株主に配当できるし、解散時の残余財産も出資者に戻る。社会課題に取り組むかどうかではなく、お金の出口をどこに閉じるかで器が分かれている。
器を立ち上げる手間は、同じではない
株式会社は発起人が一人でも設立できる。NPO法人のほうはそうはいかない。第十二条第一項第四号は、認証の基準として十人以上の社員を有することを求め、第十五条は役員として理事三人以上および監事一人以上を置くよう定める。監事は第十九条で理事や職員との兼職を禁じられているため、実際には十人を超える顔ぶれを先に集めることになる。
時間もかかる。第十条第二項により、申請を受けた所轄庁は定款や設立趣旨書などを受理した日から二週間、公衆の縦覧に供しなければならない。そのうえで第十二条第二項は、認証または不認証の決定を縦覧期間の経過日から二月以内に行うと定めている。設立の登記はその後だ。順序の実際はNPO法人の作り方でたどった。
立ち上げたあとも事務が続く。内閣府の説明によれば、毎事業年度初めの三月以内に前事業年度の事業報告書等を作成し、全ての事務所において備置き、その社員及び利害関係者に閲覧させる義務を負う。加えて毎事業年度一回、事業報告書等を所轄庁に提出する必要がある。この公開性が信用の源になる一方、小さな団体には相応の負担になる。
資金の窓口では、どちらも同じ扉の前に並ぶ
法律上の扱いが分かれていても、お金を借りる場面では両者が一つの制度に収まる。日本政策金融公庫が2026年5月25日に公表した令和7年度の実績によると、同公庫国民生活事業のソーシャルビジネス関連融資は18,032件・1,345億円だった。前年度比は件数で103.8パーセント、金額で116.7パーセントである。
この枠は三つの対象者で組み立てられている。NPO法人が671件・50億円、介護・福祉事業者が9,029件・623億円、社会的課題の解決を目的とする事業者が8,818件・710億円。法人格で区切られているのは最初の一つだけで、残りは営んでいる事業の性質によって入口が決まる作りだ。
件数の開きは大きい。NPO法人向けが671件にとどまる一方、事業の性質から入ってくる事業者は8,818件あり、13倍を超える。社会課題を事業として扱う資金需要の大半は、NPO法人という器の外側で動いているとみてよい。しかもこの枠は補助ではなく融資なので、どちらの器を選んでも最後は返済に耐える収支を問われることになる。
地域の課題を事業にする相談先や担い手の事例はFLASPOにも集まっている。器を決める前に、同じ規模で先に進んだ団体がどちらを選んだかを聞いておくと、十人の顔ぶれを集める手間と配当を出せる自由のどちらが重いかの判断が早くなる。
よくある質問
社会課題に取り組むなら、NPO法人にしたほうがよいのでしょうか。三要件のどこにも法人格の指定はないので、資金の集め方から逆算するのが現実的です。寄付や助成を主な原資にするならNPO法人、出資を受けて短期間で広げたいなら株式会社、という順で考えます。
NPO法人は利益を出してはいけないのですか。禁じられているのは利益を出すことではなく、それを構成員へ分配することです。剰余が出ても事業に回す前提であれば、黒字そのものは問題になりません。
両方を名乗ることはできますか。できます。NPO法人でありながらソーシャルビジネスの担い手でもあるという重なりは、むしろ珍しくありません。公庫の区分でも、法人格と事業の性質は別の軸として扱われています。
役員に報酬を払うと、営利法人とみなされますか。みなされません。線が引かれているのは報酬を受ける役員の人数で、役員総数の三分の一以下であれば要件を満たします。常勤の代表に給与を払う運営は、この枠の中で成り立ちます。
先に活動の負担と見返りを比べたいときは、NPOで活動するメリットを読むと、人材不足という需要側の数字から事業の余地を見積もれます。
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