成績が一つの数値にまとまると、見られる場面が増える
一科目ごとの評語は、学期が終われば学生本人しか見ない。ところが評語を数値に換えて平均を取ると、奨学金の選定や履修できる単位数の上限、進路の選抜といった別の手続きの入口で参照されるようになる。成績表の見た目は変わらないのに、効き方が変わる。
文部科学省はこの仕組みを、授業科目ごとの成績評価を例えば五段階で評価し、それぞれに四、三、二、一、〇のように数値を付与し、この単位あたりの平均を出して、その一定水準を卒業等の要件とする制度と説明している。平均の取り方が単位あたりである点が肝で、単位数の大きい科目の評語ほど重く響く。
導入はほぼ行き渡った。文部科学省の令和三年度調査によれば、学部段階でこの制度を導入している大学は七百三十七大学で全体の約九十八パーセント、そのうち学部全体で導入しているのは七百三十二大学だった。平成二十九年度は六百八十八大学だったので、四年で五十近く増えている。
用途の内訳を見ると、重みの置き方が分かる
同じ調査は、具体的な運用方法も大学数で押さえている。多い順に並べると、学生の進路よりも手前のところで使われている実態が浮かぶ。
| 運用方法 | 大学数(令和3年度) | 割合 | 平成29年度 |
|---|---|---|---|
| 奨学金や授業料免除対象者の選定基準 | 668 | 88.8% | 542 |
| 学生に対する個別の学修指導 | 645 | 85.8% | 581 |
| 履修上限単位数の設定 | 394 | 52.4% | 245 |
| 退学勧告の基準 | 272 | 36.2% | 154 |
| 各教員間もしくは各授業科目間の成績評価基準の平準化 | 167 | 22.2% | 91 |
| 大学院入試の選抜基準 | 161 | 21.4% | 135 |
| 履修者に求められる成績水準(ベンチマーク) | 144 | 19.1% | 74 |
| 早期卒業や大学院への早期入学の基準 | 133 | 17.7% | 110 |
| 進級判定の基準 | 109 | 14.5% | 73 |
| 卒業判定の基準 | 80 | 10.6% | 66 |
最上段と最下段の差が大きい。卒業の可否を直接決める基準として使っている大学は八十大学、一割ほどにとどまる一方、お金の配分と日々の指導では九割近くが参照している。卒業できるかどうかより、在学中に受け取れるものと取れる科目数のほうが先に動く。
伸び方にも偏りがある。退学勧告の基準として使う大学は百五十四から二百七十二へ、履修上限の設定に使う大学は二百四十五から三百九十四へと、どちらも四年で大きく増えた。平準化やベンチマークのように教員側の運用を揃える使い方も倍近くになっている。
授業料減免の適格認定では、基準が条文に書かれている
お金に直結する場面では、判断の目安が大学ごとではなく省令の別表に置かれている。大学等における修学の支援に関する法律施行規則の別表第二が、授業料等の減免を受けている学生に対する適格認定の学業成績の基準を、警告と停止と廃止の三区分で定めている。
警告の区分に挙げられているのは三つで、修得した単位数の合計数が標準単位数の七割以下であること、この平均値が学部等における下位四分の一の範囲に属すること、履修科目の授業への出席率が八割以下であることその他の学修意欲が低い状況にあると認められることだ。該当すると、設置者から学業成績が不振である旨の警告が行われる。
廃止の区分はさらに重い。修業年限で卒業または修了できないことが確定したこと、修得した単位数の合計数が標準単位数の六割以下であること、出席率が六割以下であることその他の学修意欲が著しく低い状況にあると認められること、そして警告の区分に連続して該当することが並ぶ。連続して該当した場合に停止となる定めも同じ表にある。
比較の土台となる標準単位数の定義も備考に書かれている。卒業または修了の要件として修得することを定める単位数を修業年限の年数で除し、在学した期間の年数を掛けた数か、履修科目として登録することができる単位数の上限を合計した数の、いずれか少ない数となる。平均値を比べる母集団としての学部等についても、相対的に比較することが公平かつ適正であると大学が認める組織という条件が付いている。
下位四分の一に入っても直ちに警告とならない例外も置かれている。修業年限を満了するまでに職業に密接に関連する資格等を取得する能力につき高い水準を満たすと見込まれる場合と、里親に委託されていた者や児童養護施設に入所していた者で出席率が高いことその他の学修意欲が高い状況にあると認められる場合だ。
取れる科目数と在学の継続に、先に効いてくる
履修上限の設定に使う大学が半数を超えている事実は、計画の立て方に直接響く。前の学期の数値が低いと、次の学期に登録できる単位数が削られ、不足を取り戻す速度そのものが落ちる。遅れが遅れを生む形になるため、後半での挽回を前提にした組み方は成り立ちにくい。
逆向きの規定も用意されている。大学設置基準第二十七条の二第二項は、所定の単位を優れた成績をもつて修得した学生については、同条第一項に定める上限を超えて履修科目の登録を認めることができるとしている。上限を外せる学生と削られる学生が、同じ数値で分かれる構造だ。
在学の継続に関わる使い方も広がった。退学勧告の基準として参照する大学は三分の一を超えている。勧告は退学の決定ではなく面談と指導の起点になるのが通例だが、基準に触れた段階で学修状況の確認が入る点は変わらない。該当する水準を学期の初めに知っておくほうが、学期末に知るよりも対処の幅が広い。
数値そのものの比べにくさも把握しておく
自分の位置を知る手がかりは、意外に公表されていない。令和三年度の調査では、学部または学科単位で平均値や分布状況を公表している大学は二百二大学で二十六・九パーセント、大学全体の平均値や分布状況は百二大学で十三・六パーセント、教員または授業科目ごとは四十四大学で五・九パーセントだった。下位四分の一という基準が示されていても、境目の数値が見えない大学は多い。
分母の作り方も大学の定めによる。再履修した科目の評語をどう扱うか、履修を取り消した科目を分母に残すか、不合格の評語を〇として算入するかで、同じ成績表から違う数値が出る。他大学の学生と数値を並べて優劣を論じる意味は薄い。
基準の明示は制度の側で担保されている。設置基準第二十五条の二第二項は、学修の成果に係る評価及び卒業の認定に当たって、客観性及び厳格性を確保するため基準をあらかじめ学生に明示することを大学に求めている。算出の規則は履修要項か学則に載っているので、自分の大学の定義を一度読んでおきたい。
学期ごとに確かめる三つの数字
まず自分の大学における算出の規則を読む。評語に対応する点数、分母に含める科目、再履修と取消の扱いの三点が分かれば、学期末の数値は自分で見積もれるようになる。見積もれると、学期の途中で取消を使うかどうかの判断ができる。
次に警告の水準を控える。減免を受けている場合は標準単位数の七割と六割、出席率の八割と六割が節目になる。奨学金の継続基準や学部の進級条件も同時に確認しておくと、どの数字に触れると何が止まるのかが一枚で見える。
最後に履修上限との関係を見る。上限が数値に連動する大学では、学期の成績がそのまま次の学期の登録可能数に変わる。学費や生活費の計画まで含めて考える段階では、FLASPOのような学生向けの情報も合わせて見ておくと、減免が止まった場合の負担まで織り込める。
登録そのものの段取りは大学の履修登録の流れに、制度上の制約の一覧は履修登録の注意点にまとめている。数値を上げる工夫より、基準に触れない組み方を先に押さえるほうが確実だ。
よくある質問
履修を取り消した科目は平均値に影響するか。取消が成立した科目を分母から外す大学と、期限後の取消を不合格として算入する大学がある。取消の受付期間と扱いは学則に書かれているため、期間の最終日を手帳に書き写しておくのが確実だ。
下位四分の一に入ると授業料の減免はすぐ止まるのか。止まらない。別表第二の警告の区分に該当すると学業成績が不振である旨の警告が行われ、連続して該当した場合に停止または廃止へ進む定めになっている。資格取得の見込みなどによる例外も同じ表に置かれている。
就職活動で数値の提出を求められることはあるか。成績証明書の提出を求める企業はあり、証明書に数値が記載される大学もある。ただし調査で選抜基準として挙がっているのは大学院入試で二十一・四パーセントであり、学部段階の採用についての数字ではない。
一年次の成績は後から取り返せるか。平均は単位あたりで計算されるため、履修単位数が積み上がるほど一科目の影響は薄まる。ただし履修上限が数値に連動する大学では取り返す速度自体が落ちるので、早い学期の成績が後半の選択肢を決めやすい。履修登録でよくある失敗例も先に読んでおくと、落としやすい型が分かる。
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