浜からの発信はどこに届くか|漁師YouTuberと就業者11万4,820人

浜から人が減る速さは、統計のほうが先に示す

港に行くと、係留されたまま動いていない船が目につく。乗る人がいないからだ。水産庁の令和7年度水産白書によると、令和6年の漁業就業者数は11万4,820人で、前年から5.4パーセント減った。ここで言う漁業就業者は「満15歳以上で過去1年間に漁業の海上作業に30日以上従事した者」を指す。趣味の釣りや陸上の加工業は入らず、海に出て働いた人だけを数えた値である。

減り方は一時的な揺れではない。5年に一度の漁業センサスと、その間を埋める漁業構造動態調査を並べると、右肩下がりの線が途切れずに続いている。この傾向のなかで、漁師の側がカメラを回すようになったのは不思議なことではない。獲れた魚を説明する相手が地元の市場だけでは足りなくなり、売り先と働き手の両方を外から探す必要が出てきた。動画はそのどちらにも効く経路として選ばれている。

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どの年代の画面に届くのかを先に確かめる

発信を始めるとき、最初に決めたいのは相手の年代だ。総務省情報通信政策研究所の令和7年度「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(13歳から79歳までの男女1,800人を対象、調査期間は令和7年12月1日から7日)では、全年代のYouTube利用率は81.5パーセントだった。年代別に見ると10代95.0パーセント、20代96.3パーセント、30代94.0パーセント、40代91.6パーセントと、50代未満では9割を超えている。

年代 YouTubeの利用率
10代 95.0%
20代 96.3%
30代 94.0%
40代 91.6%
50代 84.9%
60代 72.6%
70代 48.5%
全年代 81.5%
総務省情報通信政策研究所「令和7年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書(概要)」をもとに作成

同じ調査では、オンデマンド型の動画共有サービス全体の利用率が84.7パーセントで最も高く、TikTokは36.7パーセント、10代では67.9パーセントだった。短い縦型の動画で関心を引き、長い動画で仕事の中身を見せるという二段構えが成り立つのは、この年代差があるからだ。働き手を探すなら10代から30代、販路を探すなら購買力のある40代から60代と、置き場所を分けて考えられる。

新規就業者1,754人という細い流れ

発信の目的が担い手の確保なら、その流入量の実数を知っておくべきだ。水産庁の推計では、令和6年度の新規漁業就業者数は1,754人で、前年度の1,733人から1.2パーセント増えた。近年は1,700人程度で横ばいが続いている。全体が11万人規模で毎年数千人ずつ減るのに対し、入ってくる人は年に1,700人台にとどまる。この差が、就業者数の減少が止まらない理由である。

内訳を見ると、就業形態で性格が分かれる。令和6年度は雇用就業者が1,071人で前年度の1,150人から6.9パーセント減り、独立・自営を目指す人は591人で前年度の576人から2.6パーセント増えた。新規就業者のうち39歳以下は約6割から7割で推移しており、若い層が入口を占めている。動画を見て関心を持つ層と、実際に新規就業している層の年代はおおむね重なっていることになる。

関心を就業につなげる受け皿も用意されている。一般社団法人全国漁業就業者確保育成センターが運営する漁業就労の情報提供サイト「漁師.jp」は、求人や就業相談会の情報を集約している。動画の説明欄からこうした窓口に送る設計にしておけば、視聴が問い合わせに変わる確率は上がる。

発信はすでに国の施策の中に置かれている

個人が勝手に始めた流行と見られがちだが、水産業の情報発信は政策の一部でもある。水産庁が事務局を務める「海の宝!水産女子の元気プロジェクト」は平成30年から活動しており、令和8年3月現在で水産に関わる女性145名と賛同企業12社が参加している。水産業に携わる女性の知恵と企業の技術を結び付け、情報を社会に広く発信することで業界の魅力を高める、という組み立てだ。

このプロジェクトが発信を重視する背景には、見えにくい担い手の存在がある。水産白書によれば、漁業就業者に占める女性の割合は約10パーセントだが、漁獲物の仕分けや選別、カキの殻むきといった水揚げ後の陸上作業では約34パーセント、水産加工業では約58パーセントを占める。海上の作業だけを映していると、産業の半分近くを担う人たちが画面から消えてしまう。

意思決定の場はさらに偏っている。令和6年の全国の漁協では、正組合員に占める女性の割合が5.7パーセント、女性役員は全体の0.5パーセントにとどまる。令和8年3月に閣議決定された第6次男女共同参画基本計画には、農山漁村における地域の意思決定過程への女性の参画拡大が盛り込まれた。誰が映っていないかを意識した発信は、この偏りを外に伝える手段にもなる。

視聴が「関わり」に変わる地点はどこか

再生回数は、そのままでは地域の数字にならない。国土交通省が2023年度の「地域との関わりについてのアンケート」をもとに行った推計では、全国の18歳以上のうち約22パーセント、およそ2,263万人が関係人口に当たる。うち訪問を伴わない非訪問系は約4パーセント、379万人である。ふるさと納税やクラウドファンディング、地場産品の購入、情報発信、オンライン交流を継続している人たちがここに入る。

訪問を伴う層の内訳では、地域での消費活動や趣味活動を楽しむ趣味・消費型が約38パーセント(約711万人)で最も多く、地域の産業創出やプロジェクトに関わる直接寄与型が約23パーセント(約437万人)だった。動画の視聴者が最初に動くのは、たいてい趣味・消費型の入口である。産地直送の魚を一度買う、港のイベントに行ってみる、という小さな行動が先に立つ。

そこから先へ進めるには、次の一手を用意しておく必要がある。定期便の案内、漁業体験の受付、就業相談会の日程といった具体的な行き先が動画の外にないと、関心は視聴のまま終わる。学生のうちから地域と関わる経路を探している人には、FLASPOのような若い世代と地域をつなぐ取り組みも入口になる。

よくある質問

漁師YouTuberが何人いるのか、公的な統計はありますか。ない。発信者の人数や収益を集計した官公庁の調査は公表されていない。確かめられるのは、漁業就業者数や新規就業者数といった産業側の数値と、動画サービスの利用率という視聴側の数値までである。

動画で売上や就業者が増えたと言えますか。因果関係を示した公的データは見つからない。11万4,820人という就業者数と1,754人という新規就業者数は、発信の有無とは別に集計された値だ。個々の浜で効果があったとしても、全国統計の水準で確認できる段階にはない。

始めるなら、どの年代に向けて作ればよいですか。目的で分かれる。担い手を探すなら利用率が9割を超える10代から40代、販路を広げるなら72.6パーセントの60代までが現実的な射程になる。70代は48.5パーセントで、動画以外の経路を併せたほうが届く。

漁船に乗る仕事には資格が必要ですか。20トン以上の船舶で漁業を営む場合は、漁船の総トン数等に応じて船長や機関長などとして乗り組むために必要な海技資格の種別と人数が定められている。海技資格は国土交通大臣が行う海技士国家試験に合格して取得する。小型船のみで操業する場合は要件が異なるため、求人ごとの条件を確認したい。

女性が漁業に入る余地はありますか。海上作業では就業者の約10パーセントだが、陸上作業は約34パーセント、水産加工業は約58パーセントを女性が占めている。海に出る仕事に限らず、加工や販売、発信まで含めれば関わり方は広い。水産庁のプロジェクトも、その幅を見せることを狙っている。

出典と関連記事

本文の数値は次の資料によった。水産庁「令和7年度水産白書 第1部第2章(3)漁業の就業者をめぐる動向」、総務省情報通信政策研究所「令和7年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書(概要)」、国土交通省「関係人口の分類と推計値」。

あわせて、漁業に外から関わる、農業YouTuberは何を埋めているのか、SNS発信で地域に人は来るのかも参考になる。


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