農業YouTuberは何を埋めているのか|従事者98.7万人・平均67.7歳の現場

動画が増えるより先に、作る人が減っていた

農作業の様子を映した動画が珍しくなくなったのは、ここ数年の話である。同じ期間に現場の人数はどう動いたか。農林水産省の「農業労働力に関する統計」によれば、自営農業を主な仕事としている世帯員を指す基幹的農業従事者は、令和2年の農林業センサスで136.3万人、令和7年のセンサスで103.6万人だった。令和8年は標本調査である農業構造動態調査の推定値で98.7万人となっている。5年で32.7万人減り、100万人を割る水準に入った。

年齢の構成はほとんど動かない。平均年齢は令和2年が67.8歳、令和7年と令和8年がいずれも67.7歳である。そのうち65歳以上は令和2年に94.9万人、令和7年に72.1万人、令和8年に69.3万人で、98.7万人に対する69.3万人は約7割にあたる。人数が減っても高齢層の比率はほぼ保たれたまま全体が縮んでいる。動画で見る農業は若い人が多く映るが、統計上の中心は60代後半である。この落差が、発信されている農業と統計上の農業がずれて見える理由になっている。なお令和8年の値は全数調査のセンサスとは調査方法が異なる推定値なので、直接比べるときは注意が必要だと同省も注記している。

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新規就農者は10年で1万3千人近く減った

入ってくる側の数字はもっと分かりやすい。同じ統計の新規就農者数は、平成29年の5万5,700人から令和7年の4万2,900人まで、ほぼ一方向に減っている。平成30年が5万5,800人、令和元年が5万5,900人とわずかに増えた年はあるが、令和2年に5万3,700人、令和3年に5万2,300人、令和4年に4万5,800人と落ち、令和5年と令和6年は4万3,500人で並び、令和7年に4万2,900人となった。8年間の減少幅は1万2,800人である。

区分 平成29年 令和4年 令和7年
新規就農者 5万5,700人 4万5,800人 4万2,900人
うち49歳以下 2万800人 1万6,900人 1万4,400人
うち女性 1万3,200人 1万3,200人 1万500人
新規自営農業就農者 4万1,500人 3万1,400人 2万9,600人(令和6年)

注目したいのは49歳以下の行である。平成29年の2万800人から令和7年の1万4,400人へ、6,400人減った。全体に占める比率は37.3パーセントから33.6パーセントへ下がっている。若い新規就農者は、絶対数でも比率でも縮んだ。動画のコメント欄に「自分もやってみたい」が並ぶことと、実際に就農する人数が増えることの間には、まだ太い隔たりがある。体験から就農までの距離は農業体験は就農につながるのかで数字を追った。

女性の行にも動きがある。新規就農者のうち女性は平成29年に1万3,200人で、令和2年には1万4,900人まで増えたが、令和7年は1万500人まで下がった。49歳以下の女性に限ると、平成29年の5,500人から令和7年の4,000人になっている。新規自営農業就農者も平成29年の4万1,500人から令和6年の2万9,600人へ減り、3万人を割った。家の農業を継ぐ形での就農が縮んでいるぶん、外から入る経路の比重が相対的に上がっている。発信を通じて関心を持った人が辿り着く先は、親の農地ではなく雇用や研修の枠になる可能性が高い。

見る側の年齢は、農業の年齢構成と逆を向いている

誰に届いているのかを確かめておきたい。総務省の令和7年版情報通信白書は、動画共有サービスの個別の利用動向として、YouTubeの利用率が「ほぼ全世代において高く、2024年において、50代までの各世代で8割を超えており、60代でも7割以上が利用している」と記している。TikTokについては10代と20代の利用率が近年大きく伸び、2024年にはいずれも半数を超えたとある。出典は同省の「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」である。

つまり動画は60代にも届くが、半数を超える勢いで伸びているのは10代と20代の側だ。基幹的農業従事者の約7割が65歳以上という構成と重ねると、作っている人が多い年代と、動画をよく見る年代は同じではない。農業の動画が担っているのは、農業をしている人に向けた情報提供ではなく、農業をしていない人への説明である。何を撮るかの判断はここで変わる。収穫の手順を詳しく追うより、なぜその作業が必要なのかを言葉にしたほうが、届く相手に合う。発信が年代ごとにどう届くかは地域のSNS発信は誰に届くかに整理した。

発信は、関係人口の「非訪問系」に当たる

動画を見るだけ、コメントするだけでは地域と関わったことにならないと思われがちだが、国の調査はそこを数えている。国土交通省が令和7年6月27日に公表した「地域との関わりについてのアンケート」の結果では、全国の18歳以上の居住者約1億275万人のうち、約2,263万人が特定の地域と継続的かつ多様な形で関わっていると推計された。割合は2割強である。内訳は訪問系が約18パーセントの約1,884万人、非訪問系が約4パーセントの約379万人だった。

農業の動画を軸に地域とつながる形は、この非訪問系の379万人側に属する。訪問系の1,884万人に比べれば5分の1だが、移動を前提にしないため始める条件が軽い。訪問系の類型を複数回答で見ると「趣味・消費型」が最も多く、次いで「参加・交流型」「直接寄与型」と続く。動画で産地を知って産品を買う流れは趣味・消費型に、オンラインでやりとりが生まれる流れは参加・交流型に近い。調査は18歳以上の全国の居住者を対象にしたインターネットアンケートで、有効回答数は11万8,963人、実施時期は令和5年9月から10月である。非訪問系の内訳はSNSで地域を応援する人は8.0%で細かく読んだ。

学生が農家の発信に関わるとき、先に決めること

撮影を手伝う話は、地域に入った学生のところへよく回ってくる。機材と編集の技術より先に決めるべきことが3つある。1つ目は、誰の発信なのかという位置づけである。農家本人のチャンネルを手伝うのか、学生団体として発信するのか、自治体の依頼を受けるのかで、公開前に誰の承認が必要かが変わる。2つ目は、金銭や商品のやりとりがあるかどうか。産品の提供を受けて紹介する場合、その関係を表示する必要が生じる。頼まれた側が先に読んでおく条文は地域のSNSは誰の広告になるかに挙げた。

3つ目は引き継ぎである。基幹的農業従事者の平均年齢が67.7歳という現場では、チャンネルの運用を続ける担い手が学生側にしかいないことが起きる。卒業で止まる前提なら、止まったときに何が残るかを決めておく。撮影した素材を農家に渡す、告知の方法を紙でも作る、といった形だ。年代をまたいで届く運用の考え方は学生団体のYouTube運用にまとめている。活動を記録として残す順番は農業体験をガクチカにするにはが近い。地域と関わる入口を探すならFLASPOも使える。

よくある質問

「農業YouTuberは何人くらいいるのですか」。国の統計に農業YouTuberという区分はない。基幹的農業従事者や新規就農者の人数は把握できるが、発信している人の数を公的に数えた資料は見当たらない。チャンネル数を根拠にした記事を見かけても、集計の方法が示されていなければ数字として扱わないほうがよい。

「数字が令和8年と令和7年で混ざっているのはなぜですか」。調査の種類が違うためである。令和2年と令和7年は全数調査の農林業センサス、令和8年は標本調査の農業構造動態調査で、後者の値は推定値になる。農林水産省自身が直接比較する際の留意を注記している。年をまたいだ比較をするなら、同じ調査どうしで並べるのが安全だ。

「動画をきっかけに移住まで進む人はいますか」。移住の決定要因を動画だけで切り出した公的な統計は見つからない。国土交通省の調査で分かるのは、関わりを持ちたい人が挙げた改善点が時間の余裕や移動の費用であり、入口の段階と移住の段階の間に別の条件が並んでいることである。動画の役割は入口に限定して考えたほうが見立てを誤らない。

「出典はどこですか」。従事者と新規就農者の数は農業労働力に関する統計に年次の表がある。動画サービスの利用率は令和7年版情報通信白書の該当節に、関係人口の推計は国土交通省の公表資料に収められている。


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