農業体験から地酒へつなぐ|GI清酒23地域と国内産米だけという条件

田んぼと蔵は同じ地域にあるのに別々に売られている

夏に田植えの手伝いで訪れた集落に、冬は仕込みを見に行く。地図の上では同じ場所なのに、体験として募集されるときは「農業体験」と「酒蔵見学」に分かれていて、参加した本人も米と酒がつながっている実感を持たないまま帰ることが多い。

両者をつなぐ手がかりは、意外なところに制度として用意されている。お酒の産地名を名乗るための国の仕組みに、原料の米の産地を条件として書き込んだものがあるからだ。ここを押さえると、田んぼを見た後に蔵へ行く意味が言葉で説明できるようになる。

地酒そのものを地域との関わり方として見る話や、体験の人気の並びは地酒の町と関わると人気の農業体験はどれかで扱っている。この記事は、米と酒を一続きで考えるための制度の側を見る。

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「日本酒」と名乗る条件に米の産地が入っている

酒類の地理的表示は、お酒にその産地ならではの特性が確立されている場合に、産地からの申立てに基づいて国税庁長官の指定を受け、産地名を独占的に名乗れるようにする仕組みだ。もともとはぶどう酒と蒸留酒が対象だったが、平成27年の見直しですべての酒類が対象になった。

この仕組みの中に「日本酒」という指定がある。産地の範囲は日本国全体で、国税庁の地理的表示マップには、原料の米に国内産米のみを使い、かつ日本国内で製造された清酒のみが「日本酒」を名乗ることができると書かれている。銘柄の話ではなく、米の産地と製造地の条件である。

制度の出発点は国内の事情ではなかった。WTOが発足する際に、ぶどう酒と蒸留酒の地理的表示の保護が加盟国の義務とされたため、平成6年に国税庁が制度を作ったという経緯がある。清酒が対象に入ったのは後からで、酒の種類ごとに歴史の長さが違う。

つまり、国内の田んぼで育った米であることが、この表示の前提に置かれている。米の生産と酒の製造が切れてしまうと表示の条件が崩れるという関係が、制度の文面に現れている。田植えの体験と蔵の見学を並べて組む理由は、情緒ではなく条件の話として立てられる。

産地名を名乗れる清酒は23地域

全国を一つの産地とする「日本酒」とは別に、もっと狭い範囲の指定もある。清酒では23地域が指定されていて、県の全域を範囲にするものと、市町単位の狭い範囲のものが混在している。石川県白山市の「白山」のように20年前から指定されている地域もあれば、ここ2年で加わった地域もある。

名称 産地の範囲 指定年月日
白山 石川県白山市 平成17年12月22日
日本酒 日本国 平成27年12月25日
山形 山形県 平成28年12月16日
灘五郷 兵庫県神戸市灘区・東灘区、芦屋市、西宮市 平成30年6月28日
はりま 兵庫県姫路市ほか22市町 令和2年3月16日
新潟 新潟県 令和4年2月7日
南会津 福島県南会津郡南会津町 令和6年8月30日
伊丹 兵庫県伊丹市 令和6年11月29日
喜多方 福島県喜多方市及び耶麻郡西会津町 令和6年12月20日
青森 青森県 令和7年6月20日
京都 京都府 令和7年10月1日
鳥取 鳥取県 令和7年10月1日
福岡 福岡県 令和7年10月1日
国税庁「酒類の地理的表示一覧」より、清酒の指定を指定年月日の順に抜粋(清酒の指定は23地域)

並べてみると、令和6年と令和7年に集中して新しい指定が出ていることがわかる。福島県の南会津と喜多方、兵庫県の伊丹、そして青森、京都、鳥取、福岡。訪ねる先を選ぶときは、この指定年月日が新しい地域ほど、受け入れの仕組みを作っている途中である可能性が高い。

農産物の側にも似た仕組みがあり、こちらは農林水産省が所管している。食べ物の地理的表示と地域の体験のつながりは農業体験で伝統野菜に関わるに整理した。酒と農産物で所管する省庁が違うため、同じ地域でも窓口が別になる点は覚えておきたい。

蔵の数には三つの数え方がある

地域の蔵が減っているという話はよく聞くが、数字を引くときに迷うのは、国の統計に似た項目が並んでいることだ。令和6年度の統計年報では、清酒について免許場数が1,679場、製造場数が1,514場、製造者数が1,602者と、三つの数が別々に載っている。

違いは数える対象にある。免許場数は製造免許を受けた場所の数で、このうち試験のための免許場が122場含まれる。製造場数は実際に製造が行われた場所、製造者数は免許を持つ事業者の数だ。「蔵の数」として引用する前に、どれを指しているのかを確かめないと、他の資料と噛み合わなくなる。

量の側は減り続けている。清酒の販売数量は令和元年度の450,968キロリットルから令和6年度の380,228キロリットルへ、6年で約16パーセント減った。

年度 清酒の販売(消費)数量
令和元年度 450,968キロリットル
令和2年度 416,949キロリットル
令和3年度 407,713キロリットル
令和4年度 402,833キロリットル
令和5年度 391,230キロリットル
令和6年度 380,228キロリットル
国税庁「令和6年度統計年報 3 間接税 酒税」より作成。沖縄県分を含まない

産地名を付けた酒の出荷は増えている

全体の数量が縮んでいる一方で、逆を向いている数字がある。国税庁が公表した令和6年度の地理的表示の使用状況等によれば、地理的表示を付けた清酒の出荷数量は、令和元年度の4,098キロリットルから令和6年度の21,822キロリットルへ増えた。5年で5倍を超えている。

伸びの中身は偏っている。令和6年度の内訳で最も多いのは新潟の14,760キロリットルで、灘五郷が2,677キロリットル、山形が1,926キロリットル、岩手が981キロリットル。新潟が令和4年度に指定を受けてから数量が一気に積み上がった形で、産地の規模がそのまま出荷の規模に表れている。

この数字が体験と関わるのは、産地が外向きに自分を説明し始めている局面だという点だ。出荷が増えている地域は、表示の管理や広報に人手を割いている。学生が関わる余地があるのはそこで、収穫期の作業と仕込みの時期を分けて二度訪れる形にすると、米から酒までを一人の体験の中でつなげられる。地域側の募集を探すならFLASPOで農業と食品の分野を続けて見ておくと、季節ごとの出し先が見つけやすい。

清酒以外の区分でも同じ構図が見える。蒸留酒では壱岐、球磨、琉球、薩摩、東京島酒が指定され、令和6年度の出荷は合計66,059キロリットル。ぶどう酒は山梨、北海道、山形、長野、大阪で合計2,364キロリットル、その他の酒類では和歌山梅酒が308キロリットルだった。原料が米か麦かさつまいもかぶどうかで、関わる農地の姿も変わる。

よくある質問

地酒という言葉に法律上の定義はあるのか。国の制度にあるのは地理的表示で、「地酒」という区分は置かれていない。産地名を独占的に名乗れるかどうかで線が引かれているので、産地を手がかりに探すなら地理的表示の一覧を見るのが確実だ。

指定された地域に行けば必ず蔵を見学できるのか。指定は表示の制度で、見学の受け入れを約束するものではない。仕込みの時期は衛生上の理由で立ち入りを断る蔵もあるため、訪問の可否は蔵ごとに確認する必要がある。

米づくりの体験と酒づくりの体験は同じ時期にできるのか。時期がずれる。田植えは春、収穫は秋で、清酒の仕込みは寒い時季に行われるのが一般的だ。一度の滞在で両方を見るのは難しく、同じ地域に季節を変えて通う形になる。

造られた量と売られた量はなぜ違うのか。統計では製成数量と販売数量が別に集計されている。令和6年度の清酒の製成数量は315,549キロリットルで、販売数量の380,228キロリットルとは一致しない。前年度までに造って手持ちになっていた分が売られることがあるため、二つの数は別の意味を持つ。

23地域という数はこれから増えるのか。国税庁は指定に対する意見募集を随時行っており、令和7年10月にも新たに3地域が加わった。最新の状況は酒類の地理的表示一覧で確認できる。


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