総額を答えられない数字、という前提から始める
関係人口で地域にいくらのお金が落ちているのか。自治体の資料でもゼミの発表でも、この問いは早い段階で出てくる。ところが国の統計をあたっても、全国の関係人口が生む経済効果の総額という数字は出てこない。
理由は測り方にある。観光であれば、旅行者が何人来て1回あたりいくら使ったかを調査で押さえられる。関係人口は訪問を伴わない関わりを含むうえ、ふるさと納税から副業、オンラインでの交流までお金の通り道がばらけている。同じ人が複数の地域に関わっていることも珍しくない。足し算の対象がそろわないのだ。
定義の広さも効いている。国土交通省の整理では、関係人口には地域や地域の人々との深い関わりを実現する暮らし方である二地域居住等を行う人も含まれる。週末だけ別の家で過ごす人と、年に一度だけ地場産品を買う人が、同じ言葉の中に入っている。一人あたりの金額を平均で語ろうとすると、この幅がそのまま誤差になって返ってくる。
民間企業や個人の分析が独自の試算を出していることはある。ただ前提の置き方で桁が変わるため、そのまま引くのは危うい。ここでは、国が公表している数字だけを材料にして、どこまで言えてどこから言えないのかを切り分けていく。関係人口という言葉の定義そのものは関係人口とは?総務省・国交省の定義の違いの記事で整理されている。
国が持っているのは人数と型の内訳である
公的な出発点は国土交通省の調査になる。令和5年9月から10月に全国の18歳以上の男女約12万人を対象にアンケートを行い、有効回答11万8,963人をもとに拡大推計した。2025年6月27日に公表された結果では、2023年時点の関係人口は約2,263万人。18歳以上の居住者約1億275万人の約22パーセントにあたる。
内訳は訪問系が約1,884万人で約18パーセント、訪問を伴わない非訪問系が約379万人で約4パーセントだった。訪問系をさらに関わりの深さで分けた結果は次のとおりである。
| 型(訪問系・複数回答) | 推計人数 | 訪問系に占める割合 | お金の動き方 |
|---|---|---|---|
| 趣味・消費型 | 約711万人 | 約38% | 現地での飲食や買い物 |
| 参加・交流型 | 約485万人 | 約26% | 体験プログラムの参加費など |
| 直接寄与型 | 約437万人 | 約23% | 出店や事業づくりの収支 |
| 就労型(テレワーク) | 約145万人 | 約8% | 滞在費と現地での生活費 |
| 就労型(現地就労) | 約105万人 | 約6% | 賃金として地域から出る |
注意したいのは、型ごとにお金の向きが違うことだ。趣味・消費型は地域にお金を置いていくが、現地就労型は地域から賃金を受け取る。人数を足して一つの金額にできない事情が、この表の右端にそのまま出ている。
観光庁の135万円は、何と何を比べた数字か
金額に変える手がかりとして、行政がよく使う換算がある。観光庁が令和6年10月の資料で示した「観光交流人口増大の経済効果」だ。2023年の定住人口を1億2,435万人、1人当たりの年間消費額を135万円とし、定住人口が1人減った分を旅行者の消費で埋めるには何人分が必要かを計算している。
| 何で埋めるか | 1人1回当たりの金額 | 定住人口1人分に必要な人数 |
|---|---|---|
| 訪日外国人旅行者 | 21万2,764円 | 6人分 |
| 国内旅行者(宿泊) | 6万3,253円 | 21人分 |
| 国内旅行者(日帰り) | 1万9,027円 | 71人分 |
この換算は、人口が減る地域が交流で取り戻せる規模をつかむために作られている。ここで押さえておきたいのは、135万円が家計調査にもとづく消費額であって、地域の売上や所得そのものではないという点だ。また、この物差しは交流人口を前提に組まれており、関係人口にそのまま当てはめることを国は想定していない。借りてくる物差しだという自覚を持って使う必要がある。
それでも使い道はある。たとえば訪問系の1,884万人が年に2回ずつ日帰りで地域を訪れ、1回あたり日帰り旅行者と同じ1万9,027円を使ったと仮に置いてみる。単純に掛け合わせると約7,170億円になり、定住人口に換算すれば約53万人分にあたる。これは筆者が前提を置いて計算した仮の数字であって、国の推計ではない。ただ、桁の感覚をつかむには足りる。
訪問日数を入れると、見え方が変わる
先ほどの仮計算で一番あやしいのは「年に2回」という置き方である。実際の頻度は調査で分かっている。訪問系の年間訪問日数は、2日から7日が約49パーセントで最も多く、8日以上が約31パーセント、1日以下は約20パーセントだった。
つまり3割の人は年に8日以上その地域にいる。日帰り旅行者の単価で計算していた前提は、この層には低すぎる。宿泊を伴えば1回あたり6万3,253円の方が近く、滞在が長引けば生活費に近い出方になる。逆に1日以下の2割については、日帰り単価でも高く見積もりすぎている可能性がある。
型による差もはっきりしている。就労型は現地就労もテレワークも、8日以上訪問する人が約半数を占め、他の型より滞在が長い。働くために来ているのだから当然ではあるが、経済効果を語るなら、人数の多い趣味・消費型と、滞在の長い就労型を分けて見ないと平均が意味を失う。関係人口を増やしたい地域が、どの型を狙うかで費用対効果が変わるということでもある。
訪問しない379万人のお金はどこを通るか
非訪問系の約379万人は、旅行の単価ではまったく捉えられない。国土交通省の整理では、ふるさと納税、クラウドファンディング、地場産品の購入、特定の地域の仕事の請け負い、情報発信、オンライン交流などを継続的に行っている人がここに入る。
このうち金額が制度として記録されるのは、ふるさと納税と地場産品の購入だ。ふるさと納税は総務省が寄附額と件数を毎年公表しているので、関係人口の経済的な部分を追うなら最も当たりやすい入口になる。ただし寄附額のうちどれだけが地域に残るかは別の話で、返礼品の調達費や送料が差し引かれる。寄附と地域に残る分の関係は寄附はどこまで関わりになるかの記事で費用の内訳から追っている。
仕事の請け負いや情報発信は、金額としてどこにも集計されない。地域の側から見れば、無償の発信が後の来訪や購入につながることもあり、効果の出方に時間差がある。短期の金額だけで評価すると、この層の価値は見落とされる。自治体がふるさと納税を関わりに変えようとしている例は関係人口のふるさと納税事例にまとめてある。学生が地域に関わる入口を探すなら、FLASPOのような窓口から現地の受け皿を見ていくのが早い。
よくある質問
関係人口の経済効果に公式な金額はあるのか。国土交通省も観光庁も、関係人口に限った全国の経済効果額は公表していない。公的に確かな数字は人数と型の内訳、訪問日数の分布までである。
レポートや発表で金額を出したいときはどうするか。前提を明示した試算として示すのがよい。使った単価の出典、掛け合わせた人数、置いた訪問回数を書き添えれば、読み手が妥当性を判断できる。出典のない総額を一つ書くより、前提つきの幅を示した方が信用される。
135万円と2,263万人を掛けてよいか。掛けてはいけない。135万円は定住人口1人が1年に使う消費額であって、関係人口1人が地域で使う額ではない。掛け算すると、関係人口の全員がその地域に住んでいるのと同じ扱いになってしまう。
民間の試算で数兆円という数字を見たが使えるか。前提を確かめられるなら参考値として引ける。ただし母数の取り方や単価の根拠が公開されていない場合は、出典として扱わず、そういう試算があるという紹介にとどめるのが安全だ。
交流人口との違いは金額で説明できるか。単価だけを見れば観光客と重なる部分が大きく、金額では区別しにくい。違いが出るのは継続性の方である。同じ相手が何年も関わり続けるかどうかは、1回あたりの消費額には表れない。年単位で同じ人が戻ってくる割合を地域が記録しておくと、観光とは別の指標になる。
地域の側が効果を測るなら何から始めるか。自前で取れる数字から始めるのが現実的だ。体験プログラムの参加費、直売所の売上、宿泊の延べ数、ふるさと納税の寄附件数。これらは地域が自分で持っている記録で、全国推計を待たずに前年と比べられる。
出典
国土交通省「全国の「関係人口」は18歳以上の2割強!」(令和7年6月27日報道発表)/国土交通省国土政策局「関係人口の分類と推計値」/観光庁観光地域振興課「我が国観光産業の現状と今後の展望」(令和6年10月10日)
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