募集票に「観光」と書かれているとき
観光のミッションで募集される協力隊の仕事は、役場の観光担当の席に座ってパンフレットを作ることから、民間の観光協会で着地型の体験商品を組み立てることまで幅が広い。同じ「観光振興」という四文字が、町によって全く違う作業を指す。応募の前に見分けるなら、委嘱元がどこか、活動の拠点が庁舎か現場か、そして任期後に引き継ぐ相手が決まっているかの三点を確かめるのが早い。
制度の輪郭も押さえておきたい。活動期間はおおむね1年以上3年以下で、令和8年度からは地場産業等の起業・事業承継に関して最大5年とする特例が新設された。自治体に対する特別交付税措置は、隊員の活動に要する経費が1人あたり550万円を上限とし、その内訳は報償費等350万円とその他活動経費200万円である。この200万円が、現地調査の旅費や撮影、販促物の制作といった観光の仕事に直結する財布になる(総務省「地域おこし協力隊について」)。令和6年度の隊員数は7,910人、取組自治体は1,176団体で、受け入れが可能な1,461団体のおよそ8割にあたる。
出口は雇われる側とつくる側に割れる
観光に関わった隊員が任期後どこへ行き着くのかは、総務省の定住状況等の調査から読める。直近5年間に任期終了し、活動地と同じ市町村内に定住した4,477人のうち、観光業(旅行業・宿泊業等)に就業したのが153名、観光業(ツアー案内、日本文化体験等)で起業したのが122名である。両者を足した275名は、同じ母数の中では大きな塊にあたる。
| 区分 | 人数 | 仕事の形 |
|---|---|---|
| 就業・観光業(旅行業・宿泊業等) | 153名 | 既にある会社や協会に雇われる |
| 起業・観光業(ツアー案内、日本文化体験等) | 122名 | 案内と体験を自分の商品にする |
| 起業・宿泊業(ゲストハウス、農家民宿等) | 187名 | 建物を抱えて泊める |
| 起業・飲食サービス業(古民家カフェ等) | 279名 | 客単価と回転で立てる |
| 事業承継 | 55名 | 民宿や工房の看板を引き継ぐ |
注目したいのは153名と122名の差が小さいことである。観光の分野では、雇われる受け皿と自分で立てる道がほぼ同じ太さで並んでいる。宿泊業の187名を観光の周辺として数えるなら、つくる側の厚みはさらに増す。建物を持つかどうかで資金の重さが変わるので、宿を選ぶ場合の法律の分かれ目は任期のあとに宿を開くならで整理した。
同じ観光地でも残る割合は揃わない
観光の仕事があれば人が残る、という単純な話にはならない。直近5年間に任期終了した隊員8,034人のうち、同じ地域に定住したのは5,539人で68.9パーセント。都道府県別に開くと、長野県が77.1パーセント、北海道が76.8パーセント、静岡県が76.2パーセントと高い一方、沖縄県は57.8パーセント、秋田県は55.0パーセントにとどまる。観光客の多さと定住率は、そのままでは重ならない。
理由の一端は季節の偏りにある。繁忙期と閑散期の差が大きい土地では、任期中に組み立てた仕事が通年の収入にならず、任期が切れた途端に生活が立たなくなる。逆に長野や北海道のように滞在型の需要が長い月数にわたって続く地域では、宿や案内の仕事が年間を通した雇用になりやすい。応募先を選ぶときは、入込客数より稼働している月数を見たほうが実態に近い。全体として4人に1人近くが地域を離れている事情は任期を終えた協力隊の23%はどこへ行ったかで扱っている。
DMOという受け皿の形を知っておく
観光のミッションで入ると、観光地域づくり法人、いわゆるDMOと組む場面が出てくる。観光庁の登録制度では、地方ブロック単位の広域連携DMO、単一都道府県全域の都道府県DMO、単一市区町村全域または複数市区町村にまたがる地域DMOの三区分が設けられている。町役場の隊員が日常的に関わるのは地域DMOにあたることが多い(観光庁「観光地域づくり法人の登録制度に関するガイドライン」)。
登録には五つの観点の要件がある。観光地経営戦略の策定と指標の設定、戦略に基づく取組の具体化と検証、多様な関係者との体制構築と合意形成、組織の確立と強化、そして安定的な財源の確保である。登録の有効期間は3年で、更新を受けるには期間中に申請しなければならない。更新の要件として研修の受講も定められており、経営層は毎年1名以上、中核・実務人材は更新登録申請までに3名以上が指定の研修を受ける必要がある。
この要件を隊員の側から読み替えると、データを集めて指標に落とし、関係者に共有して計画を直す作業が常時発生しているということである。写真を撮って発信するだけの役割を想定して入ると、求められる仕事との落差に戸惑う。逆に、宿泊や飲食の売上を数字で追う経験は任期後の履歴として残りやすい。
任期の前に試せる入り口がある
観光の現場は繁忙期に行かないと実情が分からない。制度の側にも短く試す仕組みが用意されている。地域おこし協力隊インターンは、令和6年度の参加者が1,047人にのぼり、前年度の393人から大きく増えた。このうち150人が協力隊に任用されている(翌年度の任用見込みを含む)。参加者のおよそ7人に1人が本採用へ進んでいる計算になる。
自治体側の経費も特別交付税で手当てされており、「おためし地域おこし協力隊」は1団体あたり100万円、インターンのプログラム作成等は1団体あたり100万円が上限である。制度として短期の受け入れが織り込まれているので、募集要項にインターンの記載がない町でも相談の余地はある。学生のうちに現場の忙しさを一度体験しておきたいなら、FLASPOのような地域と関わる機会を重ねながら、繁忙期の町を自分の目で確かめておくと、応募する町の選び方が変わる。
なお、隊員数は10,000人を目標に掲げられている。受け入れの枠は当面広がる見込みで、観光の分野は募集でも目にしやすい。選べる立場にあるうちに、任される仕事の中身まで踏み込んで聞いておきたい。
よくある質問
観光ミッションの隊員は全国に何人いるか。活動分野ごとの隊員数は公表されていない。公表されているのは任期終了後の進路で、観光業に就業した153名と観光業で起業した122名がそこから読める。任期中の分野別内訳を探しても国の資料には行き着かないので、募集の段階では自治体ごとの要項を見るしかない。
観光協会に配属されるのと役場に配属されるのでは何が違うか。委嘱元が自治体である点は変わらないが、日々の指示系統と任期後の受け皿が変わる。協会や法人の現場に入ると、売上と予約の数字に触れる機会が多くなる。役場勤務は制度や補助金の流れが見える代わりに、商品づくりの実務からは距離ができやすい。
観光の仕事は任期後に食べていけるのか。就業153名と起業122名という数字は、食べている人がいることを示す一方で、全体の母数から見れば限られた人数でもある。季節による収入の波を均す副業や、宿泊と飲食を組み合わせる形で年間の収入を作っている例が多い。単一の商品だけで通年を埋めるのは難しい。
DMOで働くには資格が要るか。登録制度の要件に個人の資格の規定はない。ただし更新登録の要件として、経営層は毎年1名以上、中核・実務人材は申請までに3名以上が観光庁の指定する研修を受けることになっている。組織の中で研修の対象者になれるかどうかが、実質的な育成の道筋になる。
応募前に現地を見る方法はあるか。おためし地域おこし協力隊とインターンの二つが制度として用意されている。インターンの参加者は令和6年度で1,047人、うち150人が任用に進んだ。自治体側の経費も措置されているため、受け入れの実績がない町でも担当課に相談してみる価値はある。
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