戻る話が「求人があるか」で終わってしまう
地元に帰る前提で進路を考えると、調べるものがまず求人になる。実家のある県の採用情報を開き、職種と初任給を並べ、合いそうな会社がなければ帰らないという結論に進みやすい。ところが同じ場所で働いている人のなかには、雇われているのではなく自分で事業を持っている層がいる。選択肢としては並んでいるのに、調べ方が雇用の側にしか向いていないと、片方の列は最初から見えない。
とはいえ、在学中や20代前半で「起業も選べる」と言われても距離を測りにくい。そこで役に立つのが、全国と都道府県の規模を同じ調査で突き合わせられる統計である。総務省統計局の令和4年就業構造基本調査は、有業者を従業上の地位で分けたうえで、自分で事業を起こしたかどうかまで集計している。感覚ではなく人数で確かめられる。
起業した人は全国で465.8万人と数えられている
令和4年就業構造基本調査 結果の概要によると、2022年の有業者は6,706万400人だった。このうち自営業主が510万8,100人、家族従業者が101万7,600人、雇用者が6,077万2,100人である。調査は自営業主と会社などの役員について起業の有無を尋ねていて、自分で起こした人が起業者として別に数えられている。
その数は、自営業主のうち332万700人、会社などの役員のうち133万6,900人である。足すと465万7,600人で、有業者の7パーセント程度にあたる。会社を立ち上げて役員になっている人が3割近くを占めている点は、独立というと個人事業を思い浮かべる感覚とずれる。株式会社をつくって自分が役員になる形も、同じ統計のなかでは起業として数えられている。
もう一つ、別掲として置かれている区分がある。実店舗がなく雇人もいない自営業主や一人社長を指すフリーランスで、2022年は257万4,000人、有業者に占める割合は3.8パーセントだった。うち本業がフリーランスの人は209万4,000人で3.1パーセント、副業だけで行っている人が48万人である。起業と聞いて身構える前に、この区分に入る働き方から始めている人がかなりいると分かる。
雇用者の側は6,077万人で、桁が二つ違う。確率として見れば、戻って働く人の大半は雇われる側に入る。ただし比率の小ささは「ほとんど無理」を意味しない。地域によって層の厚みが変わるからで、そこは後で県別に確かめる。
自営業主は30年で4割近く減っている
いまの数字だけ見ると判断を誤る。同じ調査は30年分の推移を載せていて、自営の層は一貫して縮んでいる。平成4年の844万2,000人から令和4年の510万8,100人まで、333万人余りが消えた。減り方は4割近い。
| 年 | 自営業主 | 家族従業者 | 雇用者 |
|---|---|---|---|
| 1992年 | 844.2万人 | 471.2万人 | 5,257.5万人 |
| 2002年 | 704.1万人 | 311.4万人 | 5,473.3万人 |
| 2012年 | 591.0万人 | 134.2万人 | 5,700.9万人 |
| 2022年 | 510.8万人 | 101.8万人 | 6,077.2万人 |
家族従業者の減り方はさらに急で、471万2,000人から101万8,000人まで8割近く落ちた。商店や農家を家族で回す形が縮んだぶん、雇われて働く人が増えている。地元に戻ったときに目に入る働き方が雇用に寄っているのは、本人の観察が偏っているのではなく、実際の構成がそう変わったということである。
この流れのなかで起業の側に入るなら、周りに前例が少ない前提で情報を集めることになる。地域での開業の密度は地域起業の現状の側で開業率から見ている。
県によって自営の層の厚みは倍ほど違う
同じ調査の都道府県別の表を開くと、戻る先によって景色が変わることが分かる。高知県は有業者34万5,300人に対して自営業主が4万400人、そのうち起業者が2万5,100人である。和歌山県は有業者46万300人に対して自営業主5万3,500人、起業者2万8,600人だった。どちらも有業者に占める自営業主の割合が1割を超える。
一方で雇用の層が厚い県もある。宮城県は有業者120万1,800人に対して自営業主8万7,600人で、割合は7パーセント台にとどまる。鳥取県は有業者28万4,300人に対して自営業主2万5,300人、起業者1万4,000人だった。概要には「自営業主」の割合が高いのは和歌山県と高知県で、いずれも有業者の11.7パーセントという記述があり、最も低い層との差は2倍に近い。
業種によっても偏りがある。本業がフリーランスの人が有業者に占める割合は、学術研究・専門技術サービス業で13.5パーセント、建設業で10.7パーセント、不動産業・物品賃貸業でも10.7パーセントに達する。一方で宿泊業・飲食サービス業は0.2パーセント、医療・福祉は0.4パーセントにとどまる。同じ「ひとりで始める」でも、設備や許可の重さによって成り立ちやすさが分かれていることが読み取れる。戻る先の産業構成を見るときは、県の数字と業種の数字を重ねたほうが精度が上がる。
この差は、どちらが有利という話ではない。自営の割合が高い県は、小さな事業で生計を立てる形が残っている県であり、同時に雇われて働く選択肢が少ない県でもある。帰る先を一つに決める前に、自分の県の数字を就業構造基本調査で引いておくと、求人サイトの件数だけを根拠にした判断から離れられる。
就職してから始める道順のほうが現実的である
戻る時点で起業か就職かを決める必要はない。同じ調査で、副業がある人は304万9,000人、副業者比率は4.8パーセントとされ、5年前から59万8,000人増えている。さらに、いまは副業をしていないが増やしたいという追加就業希望者が493万4,000人、比率で7.8パーセントいる。雇われて働きながら二つ目の仕事を持つ入口は、独立よりはるかに広い。
制度の側も、就職と起業で分かれ目がある。移住にかかる支援金と起業にかかる支援金は要件が別で、戻り方によって片方しか使えないことがある。この食い違いはUターン起業に移住支援金が届かない理由で整理した。手続きの順番を先に確かめておけば、戻ってから使えないことに気づく事態は避けられる。
年齢の面でも急ぐ理由は薄い。東京圏へ入る人と戻る人の年齢がずれていることはUターンで戻る前に確かめる移住の順番に出ている。在学中にできるのは、戻る先の産業と自営の層を数字で見ておくことと、地域の人と接点を作っておくことである。学生のうちに短い関わりから始める形はFLASPOが用意している入口の考え方と重なる。
よくある質問
起業者465万7,600人には、会社を継いだ人も入りますか。
入らない。この区分は自分で事業を起こしたかどうかで分けているため、親の事業を引き継いだ場合は自営業主や役員には数えられても、起業者には含まれない。承継と起業は統計のうえで別に扱われる。
地元で就職してから独立するまでに、何年くらいかかりますか。
この調査からは年数は分からない。業種によって必要な経験も資格も違うため、平均の年数を当てにするより、目指す業種で許可や資格が要るかを先に調べるほうが確実である。
就職活動と並行して起業の準備を進めてよいのですか。
差し支えない。ただし入社後の兼業は勤め先の規程によるので、内定の段階で就業規則を確かめておく必要がある。副業を前提に動くなら、入社前に扱いを聞いておくほうが後の調整が楽になる。
自営業主の割合が高い県のほうが、起業しやすいということですか。
そうとは言えない。割合の高さは小さな事業が残っていることを示すが、同時に雇用の選択肢が限られている事情も映している。開業のしやすさを見るなら、県の支援制度と業種ごとの需要を別に確かめたほうがよい。
アイデアコンテストプラットフォーム「FLASPO」

アイデア1つで、地域や企業とつながれる。
FLASPOは、全国の自治体・企業が開催する若者向けアイデアコンテストのプラットフォームです。
地域や企業が抱える課題に対して、あなたのアイデアで解決策を提案できます。
賞金やユニークな地域体験が獲得できるコンテストも多数。誰でも参加無料・オンライン完結で挑戦できます。
