自治体の募集要項に「地域活性化起業人制度を活用します」と書かれていても、その原資がどこから来て、どういう名前で自治体に入るのかは書かれていない。企業から人を受け入れる自治体に国が出すお金は、補助金ではなく特別交付税である。名前が違うだけの話に見えて、使い方の自由度も、金額が決まる順番も、振込先も、補助金とは別物になる。総務省の要綱とQ&A、そして地方交付税法の条文から、お金の形をたどる。
自治体の口座に入るのは補助金ではない
補助金なら、国が事業を審査して採択し、使い道を限って交付する。地域活性化起業人はその形を取らない。総務省の推進要綱は財政支援を「特別交付税措置を講じる」と書くだけで、国が事業を選ぶ手続きを置いていない。
特別交付税は地方交付税の一種である。地方交付税法第6条は、所得税と法人税の33.1パーセント、酒税の50パーセント、消費税の19.5パーセント、地方法人税の全額をもって交付税とすると定める。第6条の2はその総額を分け、普通交付税に94パーセント、特別交付税に6パーセントを割り振る。総務省の制度概要はこれを「国が地方に代わって徴収する地方税」と呼び、地方の固有財源だと位置づけている。
性格の違いが効いてくるのは使い道である。同法第3条第2項は「国は、交付税の交付に当つては、地方自治の本旨を尊重し、条件をつけ、又はその使途を制限してはならない」と定める。つまり措置された額は一般財源として自治体の歳入に入り、企業人の受入れ以外に使っても法律上は咎められない。交付の時期も決まっている。第15条第2項により特別交付税の額は毎年度2回に分けて決定され、1回目は12月中、2回目は3月中である。1回目は総額のおおむね3分の1以内にとどめる定めがあり、残りは年度末に寄る。要綱のQ&Aも「制度の活用開始時期に関わらず、特別交付税は年度末に措置されます」と書いている。
610万円という上限は令和8年度に20万円上がった
金額の話に入る。企業派遣型で1人を1年受け入れたときに自治体が措置を受けられる上限は、受入期間中の経費について6,100千円である。令和8年度の地方財政措置の見通しは、この枠を「590万円から610万円」へ引き上げたと明記している。令和7年度までは590万円だったので、1人あたり20万円ぶん枠が広がったことになる。
枠は3つに分かれている。受入れの前に要する経費は1団体あたり100万円を上限に措置率0.5、受入れの期間中に要する経費は企業派遣型なら1人610万円、本人が発案して自治体が実施した事業の経費は1人100万円を上限に措置率0.5である。副業型とシニア型は期間中の枠の形が違い、報償費等で100万円、旅費で100万円と別々に上限が立つ。合計すれば1人200万円だが、報償費の余りを旅費に回すことはできない。
| 区分 | 受入前 | 受入期間中 | 発案した事業 |
|---|---|---|---|
| 企業派遣型 | 100万円/団体(措置率0.5) | 610万円/人 | 100万円/人(措置率0.5) |
| 副業型 | 100万円/団体(措置率0.5) | 報償費等100万円+旅費100万円/人 | 100万円/人(措置率0.5) |
| シニア型 | 100万円/団体(措置率0.5) | 報償費等100万円+旅費100万円/人 | 100万円/人(措置率0.5) |
同じ引き上げは地域力創造アドバイザーの対象経費でも行われ、こちらも590万円から610万円になった。外部人材を使う制度の枠が横並びで動いた年と読める。
数えるのは一般財源の部分だけ
上限額だけを見ると610万円がそのまま入ってくるように読めるが、要綱の書き方はもう一段細かい。措置額は「受入自治体が支出した対象経費のうち一般財源の合計額」とされ、その合計が上限を超えたときに上限で止まる。国庫補助金や別の交付金を充てた部分は一般財源ではないので、ここから落ちる。自治体が自分の財布から出した額が分母になる仕組みである。
年度の途中から受け入れた場合は月割になる。基準日は月の初日で、受入期間が1年に満たない年度も同じ扱いになる。さらに、受入自治体の区域内で従事するという要件を満たさない月があった場合も、原則として月割で上限を計算する。1年まるごと在籍していないと610万円の枠は開かない。
旅費の扱いだけは例外で、副業型とシニア型の旅費は「実際に支出した経費を対象とする」とあり、月割にはならない。発案・提案した事業の経費には食料費が入らず、備品の購入・買取も除かれる。受入れ前の経費では、年度当初から受け入れる場合に受入れを疎明する資料の提出が条件になる。枠の名前だけを見て予算を組むと、この手前の条件で落ちる。
国から企業へ直接振り込まれることはない
派遣元の企業から見ると、負担金が国から届くのか自治体から届くのかは重要な違いである。要綱のQ&Aは「特別交付税は市町村に措置されるものですので、総務省から、派遣元企業に直接お支払いすることはありません」と答えている。国の金は自治体に入り、企業への負担金は自治体の歳出として払われる。
本人の給与も国が決めるものではない。同じQ&Aは、企業派遣型の給与は「派遣元企業と受入自治体との協定書により定めていただくもの」と整理している。610万円という枠は自治体が受け取れる額の天井であって、本人の年収の基準ではない。派遣が決まるまでの流れと協定の中身は別稿にまとめた。
事前の許可も要らない。Q&Aは「制度の活用を総務省が許可するものではありませんので、事前に総務省に制度活用の許可を取る必要はありません」と書く。採択を待つ補助金と違い、自治体と企業が協定を結べば動き出せる。審査の代わりに置かれているのが、算定の段で条件に合う人数を数える作業である。
人数を数える段で落ちる人がいる
算定対象の規定には、受入れそのものは成立しているのに措置の対象外になる場合が並んでいる。まず、同じ派遣元企業から複数名が来ている場合、受入自治体1団体あたり2名までしか数えない。3人目は制度上の企業人であっても金額に反映されない。
次に、受入自治体から従前より給与等を支払われている者は除かれる。すでに自治体が雇っている人を制度に乗せ替えることはできない。派遣期間中の主たる勤務地が受入自治体の区域内にない者も対象から外れる。期間の条件もあり、派遣された者が入れ替わった場合、その人の派遣が継続した6月以上でなければ対象にならない。「企業等」の範囲は株式会社その他総務大臣が認める法人で、一般社団法人やNPO法人も入るが、単なる会員は含まれない。所属元の会社が引き受ける範囲も、この線引きと地続きである。
制度を使える自治体は1,433市町村に限られ、三大都市圏外の政令市・中核市・県庁所在市にある企業の社員を使う類型ではさらに1,375市町村に絞られる。令和7年度の状況では企業派遣型904人・副業型299人・シニア型12人の計1,215人、受入自治体は538団体だった。対象の1,433市町村に対して、実際に使っているのは4割に届かない。学生がこうした制度の数字から地域の仕事を見るときは、FLASPOのように地域とつながる実務の側から入る道もある。
よくある質問
措置された610万円は必ず企業人のために使われるのか。法律上はそう決まっていない。地方交付税法第3条第2項が使途の制限を禁じているため、措置額は一般財源として扱われる。実務では協定に沿って負担金が支払われるが、国が後から使い道を追いかける仕組みにはなっていない。
年度の途中に始めると損をするのか。上限額が月割になるだけで、措置を受けられなくなるわけではない。6月以上継続して派遣される形であれば、年度をまたぐ受入れも対象になる。1月から6月までの6か月という例がQ&Aに挙げられている。
副業型の200万円は報償費として受け取れるのか。受け取れない。報償費等の上限100万円と旅費の上限100万円は別に立っており、旅費は実際に支出した額が対象になる。報酬として本人に渡る部分は100万円の側である。
自治体はいつお金を受け取るのか。特別交付税の額の決定は12月と3月の2回で、1回目は年度の総額のおおむね3分の1以内に抑えられる。年度の半ばに支出が先に出て、措置は年度末に寄るという時間差が構造として残る。
補助金に比べて自治体の手間は軽いのか。申請と採択がないぶん入口は軽いが、算定資料の提出は要る。地方交付税法第5条は、市町村長が特別交付税の額の算定に用いる資料を都道府県知事に提出し、都道府県知事が審査して総務大臣に送付すると定めている。審査の場所が入口から出口に移っていると考えるのが近い。
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