会社に籍を置いたまま自治体で働く形がある
都市の企業に勤めている人が、退職せずに地方自治体の現場に入る。そんな働き方が制度として用意されている。総務省の地域活性化起業人等について(地域力創造グループ地域自立応援課)によれば、地方公共団体が都市部に所在する企業等の社員を一定期間受け入れ、そのノウハウや知見を活かして地域独自の魅力や価値の向上につながる業務に従事してもらう取組に対し、特別交付税措置が講じられている。
入り方は二系統ある。自治体と企業が協定を結んで社員を派遣する「企業派遣型」が平成26年度から、自治体と社員または退職した個人が契約を結ぶ「副業型」が令和6年度から、退職者を対象とする「シニア型」が令和7年度から始まった。平成26年度から令和2年度までは「地域おこし企業人」という名称で運用されていたため、自治体の古い資料では今でもこの呼び方に出会う。
自治体側の狙いは、民間企業の専門知識や業務経験、人脈、ノウハウを使って地域課題の解決を図ることにある。企業側にも、多彩な経験による人材の育成、企業や社員の社会貢献、新しい地域との関係構築という利点が置かれている。退職した個人にとっては、退職後の新たな活躍の場を見つける経路にもなる。いま何人が、どの地域に入っているかは地域活性化起業人871人の内訳で確かめられる。
送れる企業と受け入れられる自治体が決まっている
この制度は、どの企業からどの自治体へでも人が動けるわけではない。まず企業の側に二つの区分がある。一つは三大都市圏に所在する企業で、もう一つは三大都市圏外の政令市、中核市および県庁所在市に所在する企業である。後者の場合は受入可能な団体が1,375市町村に絞られ、企業が受入団体と同一の道県内に所在する場合は対象から外れる。隣町の会社から人を回す形は想定されていない。
受け入れる自治体の側も限定されている。対象となるのは三大都市圏外の市町村、および三大都市圏内の市町村のうち条件不利地域を有する市町村、定住自立圏に取り組む市町村、人口減少率が高い市町村である。これらを合わせた対象は1,433市町村とされている。全国の市町村は1,700を超えるので、都市部の自治体は原則としてこの枠の外にいる。
この「都市から条件不利地域へ」という向きは、住民票を移して3年までを過ごす別の制度と同じ考え方に立っている。違いは、身分と任期と、お金の出方だ。両者の線引きは協力隊と地域活性化起業人を分けるもので比べている。
企業派遣型は協定と勤務日数で輪郭が決まる
企業派遣型で求められる要件は二つに整理されている。自治体と企業が協定を締結すること、そして受入自治体の区域内での勤務日数が月の半分以上あることだ。任期は6か月から3年までとされている。月の半分という条件があるため、東京から時々通うという関わり方では企業派遣型にはならない。
財政措置は三段構えになっている。受入れの期間前に要する経費が1団体あたり上限100万円で措置率0.5、受入れの期間中に要する経費が1人あたり上限610万円、派遣された人が発案・提案した事業に要する経費が1人あたり上限100万円で措置率0.5である。期間中の610万円は令和8年度から引き上げられた額で、人件費相当を自治体が負担する構造を国が支える形になっている。
三つめの枠に目を留めたい。来た人が自分で考えた事業に使える枠が別に立っているということは、言われた作業をこなす前提の受け入れではないことを意味する。観光振興、自治体・地域社会のデジタル化、地域産品の開発といった活動例が資料に挙げられており、いずれも外から来た人が企画を持ち出す余地のある分野である。
副業型とシニア型は時間で区切られる
協定ではなく契約で結ぶ副業型とシニア型は、条件の作りが変わる。企業に所属する社員または所属していた個人が自治体と契約を締結し、勤務日数・時間は月4日以上かつ月20時間以上、受入自治体における滞在日数は月1日以上とされている。現地にいる時間の下限が月1日まで下がる代わりに、月あたりの作業量に下限が付く形だ。
| 項目 | 企業派遣型 | 副業型・シニア型 |
|---|---|---|
| 開始年度 | 平成26年度 | 副業型は令和6年度、シニア型は令和7年度 |
| 結び方 | 自治体と企業が協定を締結 | 自治体と社員または退職した個人が契約を締結 |
| 勤務の条件 | 区域内での勤務日数が月の半分以上 | 月4日以上かつ月20時間以上、滞在は月1日以上 |
| 任期 | 6か月から3年 | 資料に任期の定めの記載なし |
| 期間前の経費 | 上限100万円/団体(措置率0.5) | 上限100万円/団体(措置率0.5) |
| 期間中の経費 | 上限610万円/人 | 報償費等100万円/人+旅費100万円/人(合計200万円/人) |
| 発案・提案した事業の経費 | 上限100万円/人(措置率0.5) | 上限100万円/人(措置率0.5) |
出典は前掲の総務省資料。期間中の額が610万円と200万円に分かれているのは、前者が生活の基盤を移す働き方、後者が本業を持ったままの関わりという前提の違いを反映している。副業型の枠では旅費が報償費等と同額で立っているのも特徴で、移動の多い関わり方であることが額の作りに出ている。
なお、自治体と企業や個人が互いを見つける場として、総務省はマッチングプラットフォームを設けている。自治体は活用したい専門人材のニーズを、企業や副業に関心のある個人は提供できるソリューションを登録して交流する仕組みで、募集の入口が公募だけではないことを示している。
学生や若手が見ておくと得をする点
この制度は入社後しばらく経った社員を前提にしているため、学生がすぐ使える枠ではない。それでも知っておく意味は三つある。
第一に、就職先の選び方に関わる。協定を結んで社員を送り出している企業は、地域と関わる仕事の経路を社内に持っているということだ。入社後に地域で働く可能性を探すなら、制度の活用実績は調べる価値がある。第二に、受け入れ側の自治体で働く選択肢の見え方が変わる。専門人材を外から入れている自治体は、既存の職員だけで回す前提を崩しているので、若手が持ち込む提案の通りやすさも違ってくる。
第三に、関わり方の段が増えていることが分かる。住民票を移す形、月の半分を現地で過ごす形、月1日の滞在で関わる形が、同じ制度群の中に並んでいる。地域と関わる入口を探している人にとって、どの段から始めるかという選択肢が広がっている状況である。FLASPOが扱う学生のプロジェクトも、この一番手前の段に置かれた関わり方にあたる。
よくある質問
地域おこし企業人と地域活性化起業人は別の制度なのか。同じ制度の呼び名が変わったものである。平成26年度から令和2年度までは地域おこし企業人という名称で、現在は地域活性化起業人と呼ばれている。古い名称で検索すると当時の資料に当たるため、年度の確認が必要になる。
企業を辞めなくても参加できるのか。企業派遣型は在籍したまま自治体の業務に従事する形で、自治体と企業が協定を結ぶ前提になっている。副業型は社員のまま契約を結ぶ形で、シニア型は退職した個人を対象としている。いずれも企業からの転職を条件にしていない。
どの企業からでも派遣できるのか。できない。三大都市圏に所在する企業と、三大都市圏外の政令市・中核市・県庁所在市に所在する企業が対象で、後者には受入団体が1,375市町村に限られるという条件と、同一道県内は除くという条件が付く。
報酬は誰から出るのか。企業派遣型では自治体が受入れの期間中に要する経費を負担し、その負担に対して国が特別交付税措置を行う。副業型では報償費等と旅費が措置の対象になっている。社員への支払いの形は、協定や契約の内容によって異なる。
任期が終わったらどうなるのか。企業派遣型の任期は6か月から3年の範囲で、終われば元の企業の業務に戻るのが基本の形である。受け入れた自治体との関係をその後も続けるかどうかは、制度ではなく当事者の選択に委ねられている。
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