所属元の会社は何を引き受けるのか|地域活性化起業人の承諾と労災

自治体の席に座っても、籍は会社に残る

役場の執務室に机をもらい、名刺にも町の課名が入る。それでも給与明細を出しているのは、東京や大阪の本社である。地域活性化起業人のうち「企業派遣型」と呼ばれる形は、社員の身分を動かさないまま、勤務地だけを地方へ移す仕組みになっている。

総務省の地域活性化起業人制度推進要綱は、派遣の形態や派遣期間中の勤務条件を「派遣元企業と受入自治体が合意した上で決定する」と定めている。つまり取り決めの当事者は会社と自治体であって、働く本人が自治体と雇用契約を結ぶわけではない。給与の扱いも協定書で定めるものとされ、国の特別交付税は市町村に措置されるため、会社へ直接振り込まれることはない。

そのかわり、場所の要件は細かい。派遣期間中の主たる勤務地が受入自治体の区域内にあり、各月の開庁日の半分以上をその区域内で働くことが求められる。期間は6月以上3年以内で、どれだけ短くても半年は切れない。令和7年度の実績は企業派遣型で904人・477団体・475社となっており、1社から1人ずつ出ている例が大半を占める。

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副業型は、勤め先の承諾がないと始まらない

週末だけ地方の仕事に関わりたい、という動機で入れる類型もある。副業型は、本人と受入自治体が直接契約を結ぶ形だが、手続きの途中に会社が一度登場する。

要綱は、副業型になろうとする者が「事前に勤務する企業等から、副業型地域活性化起業人として活動する旨及び副業形態等の承諾等を得ること」と書いている。Q&Aではこの承諾書等を受入自治体へ提出する段取りまで示されており、マッチング、契約書案の作成、承諾の取得、契約締結、副業の開始という順に進む。承諾が取れなければ、自治体の側がいくら乗り気でも手続きが止まる。

関わり方の下限も決まっている。月4日以上かつ月20時間以上に相当する業務に従事し、受入自治体での滞在日数が月1日以上あること。遠隔でほとんどを済ませる形は想定されていない。総務省が公表している令和7年度の事例集は、副業型の一覧で派遣元企業の欄を「所属企業」と表記している。籍は勤め先にあり、自治体はその人の時間の一部を借りているという関係が、見出しの言葉にそのまま出ている。

シニア型は、辞めた会社の経歴が要件になる

令和7年度から人数が公表されるようになった三つめの類型は、どこにも所属していない人を対象にしている。シニア型は、企業に在職した経験を持つ退職者が、個人として自治体の業務に関わる形である。

ここで効いてくるのは現在の所属ではなく、過去の勤務先と現住所の組み合わせだ。三大都市圏に所在する企業等に在職した経験があり、いま三大都市圏内に住んでいること。あるいは三大都市圏外の指定都市・中核市・県庁所在市の企業に在職し、いま三大都市圏内またはそれらの市に住んでいること。受入自治体の区域内に現に住んでいる人は対象外になる。

退職からの経過年数は「おおむね5年以内」とされ、受入自治体は退職証明書などで確認することが想定されている。5年を過ぎた人が直ちに外れるわけではないが、その場合は在職時の職務内容やスキルを確認し、適任と判断した理由を説明できるようにしておくことが求められる。年齢の上限は置かれていない。令和7年度のシニア型は12人・10団体で、始まったばかりの規模である。

所属先は株式会社でなくてもよい

「企業人材派遣制度」という旧称から、対象は民間企業の正社員だけだと受け取られやすい。実際の線引きはもう少し広い。

要綱は算定対象の「企業等」を「株式会社その他総務大臣が認める法人」と定義している。Q&Aはこれを受けて、一般社団法人やNPO法人も企業等に該当すると明記した。ただし条件が付く。定款等に基づきその法人で主たる活動に直接従事している者が対象であって、名前を連ねているだけの会員は対象にならない。事例集にも一般社団法人や特定非営利活動法人からの派遣が並んでいる。

勤務先が本社でなくてもよい。三大都市圏に本社機能を持つ企業に所属していれば、三大都市圏外の支店や支社に勤めている人を受け入れられる。逆に本社が三大都市圏外にある場合でも、三大都市圏の支社・支店が人事採用権を持ち、自治体と協定を締結できるなど一部の本社機能を備えていれば、その支社・支店と自治体が協定を結ぶことで使える。所属の判定は看板ではなく、権限がどこにあるかで決まる。

類型 籍の置き場所 取り決めの相手 最低限の関わり 期間中の措置上限
企業派遣型 派遣元企業の社員のまま 派遣元企業と受入自治体 開庁日の半分以上を区域内で勤務 年間610万円/人
副業型 勤め先に所属したまま(承諾が必要) 本人と受入自治体 月4日以上かつ月20時間以上、滞在は月1日以上 報償費等100万円+旅費100万円/人
シニア型 退職済みで所属なし 本人と受入自治体 月4日以上かつ月20時間以上、滞在は月1日以上 報償費等100万円+旅費100万円/人

所属が重なると、制度の枠から外れる

使える範囲を狭めている規定は、人数ではなく関係の重複に向けられている。同じ人が同時期に派遣されたり副業したりできる市町村は1つだけで、企業派遣型と副業型を掛け持ちすることもできない。

期間にも天井がある。同一の派遣元企業から同一の受入自治体が連続して受け入れる場合、制度の対象は3年が上限で、前回の終了から1年を経過すれば同じ会社からでも再び対象になる。同じ人物を同じ自治体が受け入れる場合は、通算で3年が上限だ。特別交付税の算定では、同一の派遣元企業から複数名が派遣されているとき、受入自治体1団体あたり2名までが対象になる。

入り口の段階で外れる人もいる。入社後3月未満の者、企業等からの派遣の際に現に受入自治体の区域で勤務している者、自治体から従前より給与等を支払われている者は、算定の対象にならない。労災保険の負担は原則として協議で決めることとされ、Q&Aは「地域活性化起業人の身分によって、各種災害補償の対応可否が変動する」と注意している。さらに受入自治体は、派遣元企業と請負契約を結ぶ蓋然性の高い業務に従事させないよう配慮することが求められる。使えない組み合わせの整理や協定と勤務日数の決まり方も合わせて読むと、所属の線引きがどこで効いているか見えてくる。

よくある質問

自治体の職員になるのですか

企業派遣型では、派遣元企業と受入自治体の協定に基づいて働くため、自治体と雇用契約を結ぶ形にはなりません。副業型とシニア型は本人と自治体が契約等を結びますが、こちらも職員として採用される仕組みではありません。災害補償の扱いは身分によって変わるので、協定や契約を結ぶ段階で確認しておく必要があります。

副業型を始めるのに会社の許可は必ず必要ですか

必要です。要綱は活動する旨と副業形態等の承諾を事前に勤務先から得ることを求めており、受入自治体へ承諾書等を提出する流れになっています。就業規則で副業が認められていない場合は、その整理が先になります。

どのくらいの自治体が使っているのですか

令和7年度は合計1,215人・538団体で、前年度から344人増えました。内訳は企業派遣型904人、副業型299人、シニア型12人です。年度ごとの推移は人数の内訳をまとめた記事で追えます。

受け入れる自治体の側に条件はありますか

三大都市圏外の市町村か、三大都市圏内で条件不利地域を有する市町村、定住自立圏に取り組む市町村、人口減少率が11%以上の市町村が対象です。三大都市圏外の指定都市等の企業から受け入れる場合は、受入側がそれらの市以外であることや、企業と同一道県内でないことも条件になります。

学生のうちから関われますか

この制度は企業等に勤めている人と退職者を対象にしているため、在学中は対象になりません。学生の立場で地域の課題に関わる道筋は、FLASPOが扱っているプロジェクト型の枠や、自治体のインターンの方が近いところにあります。制度の名前と中身を照らし合わせてから、自分が入れる入口を選ぶのが早いでしょう。

所属の線を確かめる作業は、細かいようで制度の使い勝手そのものを決めている。籍がどこにあり、誰と取り決めを交わし、どの月にどれだけ地域にいるか。この三つが揃っているかどうかで、同じ働き方が対象になるかならないかが分かれる。総務省の制度ページには要綱とQ&A、チェックリスト、受入可能団体の一覧が置かれているので、自分の勤め先と行きたい地域を当てはめて読むところから始めたい。


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