指定から3年たって、国が区域方針を書き換えた
未来の都市を先につくるという構想は、掲げた時点では評価できない。スーパーシティ型国家戦略特区は令和4年4月に、つくば市と大阪府・市の2区域が指定された。内閣府は指定から約3年が経った時点で進捗と成果を振り返り、2025年6月に区域方針の改定案をまとめている(内閣府「スーパーシティ区域方針の変更(案)」2025年6月)。
改定の手続きは3段階だった。国家戦略特区ワーキンググループのヒアリングが令和7年4月23日と5月15日、国家戦略特別区域会議が5月29日に開かれ、その議論を踏まえて方針を書き換える形になっている。つまり、やりますと宣言した内容がそのまま残ったわけではない。
同じ時期に指定された枠がもう一つある。デジタル田園健康特区として、石川県加賀市、長野県茅野市、岡山県吉備中央町が選ばれている。区域会議はつくば市、大阪府・市、そして加賀市・茅野市・吉備中央町の3つが動いており、それぞれが区域計画をつくって規制の特例措置を使う(内閣府「スーパーシティ・デジタル田園健康特区」)。
両区域の目標に書かれている年は2030年である。2030年頃に実現される未来社会を先行実現するという書き方なので、2025年の時点は折り返し地点にあたる。
つくばで実装に届いたのは、医療と移動の2つだった
つくば市の構想は「つくばスーパーサイエンスシティ構想」と名づけられている。改定案に並ぶ成果のうち、実際にサービスとして動き出したものは少ない。休日・夜間の小児デジタル急患センターが令和6年度に実装され、AIオンデマンドタクシーが令和7年4月に実装された。この2つが、実証から先へ進んだ例として挙げられている。
その裏側には規制改革の提案がある。小児の急患センターは、診療報酬の時間外対応加算2における施設基準の新設という形で、令和6年4月に全国措置化された。移動の側では、パーソナルモビリティの最高速度引上げを令和3年度に提案し、パーソナルモビリティポート整備の場所に係る解釈拡大を令和6年度に提案している。
インターネット投票は、まだ公職選挙では使えていない。市長2期目の行政運営のなかで全国のネット6社が取材に来るほど注目された項目だが、実際に動いたのは移動期日前投票所の柔軟な告示が令和5年9月に全国措置化されたところまでだ。改定案のスケジュール表では、住民意向の確認などで活用しつつ、特例が認められ次第すみやかに公職選挙で実施すると書かれている。条件つきの予定である。
データの側では、寄せられた市民の声や都市データをデータ連携基盤に集め、生成AIで要約・可視化する仕組みが令和6年度に構築された。あわせて、パーソナルデータの利活用に関するプライバシー影響評価の仕組みを全国に先駆けて市民参加型で設計し、令和6年度にとりまとめている。先端サービスと同時に、個人情報の扱いを制度化しようとしている点が特徴だ。
大阪は万博を期限に使い、その後の設計を残した
大阪のテーマは「データで拡げる健康といのち」である。進め方は期限の置き方に表れている。2025年の大阪・関西万博をマイルストーンに据え、夢洲とうめきた2期という2つのグリーンフィールドで取組を組んだ。夢洲では2023年度から建設工事が本格化し、工事現場の内外の移動や作業員の安全・健康管理を先端サービスで支えている。うめきた2期は2024年9月に先行まちびらきを行った。
データ連携基盤は「ORDEN」の名で2023年3月から稼働している。総合行政ポータルサイトやデータカタログ機能を基盤上に展開し、市町村への展開も進めるという位置づけだ。改定案では、府と市町村のワンポータル化や、ハッカソンによるユースケース創出が課題として並んでいる。
万博が終わった後の課題は、2つのフィールドの外側にある。改定案は、夢洲・うめきた2期以外のエリアや企業を大阪府・市が募集・選定し、エリアと企業のマッチングや規制改革提案の共同検討を行う仕組みを示している。この仕組みの本格稼働は令和8年度以降とされており、まだ動いていない。
もう一つ残されたのが、データ連携基盤を複数の自治体で共同利用する話だ。開発・運用コストの低減という利点を整理して共同利用を進め、そのためのスキームを設計・構築するという段階である。基盤をつくった区域が、次はほかの自治体に使わせる側へ回ろうとしている。
全国に広がるまでに1年から3年かかっている
特区の価値は、その区域で何ができたかより、そこで外した規制が全国に広がったかで測れる。改定案に挙げられた主な規制改革のうち、全国措置化に至ったものを時期で並べると次のようになる。提案の年度と措置化の時期を見ると、間に1年から3年が入っている。
| 規制改革の中身 | 区域 | 全国措置化 |
|---|---|---|
| AIを活用した気象予報に係る気象予報士の設置基準の緩和 | 大阪府・市 | 2022年12月 |
| 特定自動運行(レベル4の無人自動運転)の許可制度の創設 | 大阪府・市 | 2023年4月 |
| 移動期日前投票所の柔軟な告示 | つくば市 | 令和5年9月 |
| 空飛ぶクルマの社会実装に向けた制度整備 | 大阪府・市 | 2024年3月 |
| 時間外対応加算2における施設基準の新設 | つくば市 | 令和6年4月 |
5件のうち3件が大阪側から出ている。気象予報士の設置基準緩和は、AIで予報を出す事業者が人を常駐させなくてもよくなる話で、区域の外の企業にも効く。自動運転と空飛ぶクルマは、万博という具体的な使い道があったことが制度整備を押した面がある。
一方で、全国措置化に届いていない項目も残っている。パーソナルモビリティの最高速度引上げは令和3年度の提案だが、改定案の時点でも公道実証の段で止まり、特例が認められ次第すみやかに実装すると書かれている。先に動いた事業と後に残った事業の差は、2年から4年という時間になって表れている。地域のデジタル化がどこで止まるかという観点では、スマートシティ55事業の調査と並べて読むと、特区という枠の有無が何を変えるのかが見えてくる。
大学と学生の関わりは、協議会の会員名簿に表れている
つくば市の構想は、大学や研究機関の研究開発の成果や多様な人材を生かすことを明文で掲げている。その器が、令和元年に設立されたつくばスマートシティ協議会だ。令和6年に一般社団法人化し、会員は57機関である。筑波大学や産業技術総合研究所をはじめ、多くの研究・教育機関と企業が加入している。
区域方針の政策課題にも、大学・研究機関・産業界等と連携した科学技術・イノベーション拠点の創出という項目が置かれている。実施が見込まれる事業の欄には、大学の土地・建物や研究機関の施設等を活用したイノベーションの推進が明記され、研究開発推進施設整備や財産処分の特例が結びつけられている。大学の設備そのものが制度の対象になっている形だ。
人の側では、外国人研究者による創業活動の促進が雇用・労働の項目に入っている。外国人創業活動支援、開業ワンストップ、外国人雇用相談の3つの特例が並び、ロボットを活用した障害者の雇用機会の拡大も同じ欄にある。構想が掲げる「誰一人取り残さない」という言葉は、高齢者・こども・外国人・障害者という4つの対象として具体化されている。
学生の立場から見ると、関わる入口は2つある。協議会の会員である大学の研究室を通じた実証への参加と、生成AIで市民の声を可視化する仕組みのように住民として声を出す側だ。自治体と大学の連携がどこですれ違うかについては、自治体の96%と大学の40%という数字の差が参考になる。地域での仕事やインターンを探す段では、FLASPOのような支援の情報も併せて見ておくとよい。
よくある質問
スーパーシティとスマートシティはどう違うのか。スマートシティが個別分野のデジタル化を指すのに対し、スーパーシティは国家戦略特区の枠組みで、複数分野の先端的サービス、分野をまたぐデータ連携、そのために必要な規制・制度改革の3つを一体で進める点が違う。規制を外す権限が制度に組み込まれているかどうかが分かれ目になる。
指定されている区域はいくつあるのか。スーパーシティ型はつくば市と大阪府・市の2区域で、令和4年4月に指定された。デジタル田園健康特区が加賀市・茅野市・吉備中央町の3市町村で、区域会議はあわせて3つ動いている。新しい区域の追加指定は、改定案の時点では示されていない。
いつまで続く取組なのか。つくば市の改定案では、2022年のシード・アーリーステージ、2025年からのミドルステージ、2028年のレイターステージという3段階が描かれ、2030年にスーパーサイエンスシティの実現を置いている。内閣府の予算事業としての調査・実証は令和4年度から令和8年度までの期間で組まれている。
住んでいる地域が対象外でも関係があるのか。全国措置化された5件を見れば分かるように、区域で外した規制はその後ほかの地域にも効く。自治体のデジタル化の進み方を知りたい人は、地方創生DXの重点項目と生成AI導入30%のように全国の数字を扱った資料と合わせて見ると、特区の位置づけが掴みやすい。
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