目標の立て方から見ていく
移住の施策を「失敗した」と名指しした官公庁の資料は、探しても出てこない。政策の評価は事業ごとの実績報告や効果検証という形で出るため、代わりに確かめられるのは、立てた目標と出た数字の開きと、その開きに対して制度をどう作り直したかである。移住施策でこの跡をたどりやすいのが、移住支援金の実績だ。
出発点は令和元年に示された「わくわく地方生活実現政策パッケージ」にある。ここでの現状認識は厳しい。若者を中心に地方から東京圏へ毎年10万人を超える転出超過があり、地方の若者は15年間で532万人減って3割減少、15歳以上の就業者も地方では15年間で228万人減る一方、東京圏では160万人増えている。
このパッケージが並べた柱は七つあり、一つめが「UIJターンによる起業・就業者創出」で、6年間で6万人という数が置かれた。二つめは女性・高齢者等の新規就業者の掘り起こしで6年間で24万人、四つめには地域おこし協力隊の拡充として6年後に8千人という数が入っている。つまり移住支援金は単独の制度として生まれたのではなく、6万人という枠の中に置かれた手段の一つだった。ここを押さえておかないと、後で出てくる実績の読み方を外す。
初年度の受給者は123人だった
制度が動き出した令和元年度、移住支援金を受け取った人は123人である。申請件数は71件。6年間で6万人という枠に対して、初年度の数はこの規模だった。
| 年度 | 移住者数(人) | 移住支援金申請件数(件) |
|---|---|---|
| 令和元年度 | 123 | 71 |
| 令和2年度 | 563 | 290 |
| 令和3年度 | 2,381 | 1,184 |
| 令和4年度 | 5,108 | 2,495 |
| 令和5年度 | 7,782 | 3,542 |
| 令和6年度 | 7,826 | 3,623 |
出典:内閣官房地域未来戦略本部事務局・内閣府地方創生推進事務局「地方創生移住支援事業について」(令和8年1月)。
同じ資料は、伸びた理由を制度の側に置いている。自治体で移住推進の取組が広がったことに加え、感染症の拡大を契機としたテレワークの普及と、子育て世帯加算などの制度の拡充を挙げている。言い換えると、初年度に数が出なかったのは移住したい人がいなかったからではなく、受け取れる条件の側が狭かったということになる。テレワークで移住前の仕事を続ける形が対象に入ったのは令和3年度からで、そこから実績は前年の4倍を超える2,381人へ動いた。
令和5年度から令和6年度の変化にも目を向けたい。7,782人から7,826人で、増加は44人である。前年度まで続いた倍々の伸びは、ここで平らになっている。
誰が受け取れる制度なのか
条件を読むと、対象がかなり絞られていることが分かる。移住前の10年間で通算5年以上、かつ直近1年以上、東京23区内に住んでいたか、東京圏のうち条件不利地域を除く地域から23区へ通勤していた人が対象になる。東京圏とは東京・埼玉・千葉・神奈川を指し、条件不利地域はここから除かれる。移住先は東京圏外か、東京圏のうち条件不利地域の市町村である。
移住して何をするかにも指定がある。地域の中小企業や農林水産業等への就業、地域課題の解決を目的とした起業、テレワークによる移住前の業務の継続という三つの経路が挙げられており、就業の場合は都道府県のマッチングサイトに掲載された求人へ就く必要がある。起業の場合は地方創生起業支援事業の交付決定を1年以内に受けていることが条件になり、テレワークの経路は移住先の自治体が実施していなければ使えない。
| 区分 | 金額 |
|---|---|
| 世帯で移住する場合 | 最大100万円 |
| 単身で移住する場合 | 最大60万円 |
| 18歳未満の子を帯同する場合 | 子ども1人あたり最大100万円を加算 |
| 国と都道府県の負担 | 補助率1/2 |
お金の流れは、国が都道府県へ交付金を交付し、移住者には市町村から支援金が支給される形になっている。申請は移住して就業等をしたあと、移住先の市町村に対して行う。支援金の額だけを見て動けるものではなく、要件の組み合わせを先に確かめる必要がある点は、移住支援金と結婚新生活支援を要件から読むでも整理されている。
実施していない自治体がどこかを見る
受け取れるかどうかは、移住先の自治体がこの事業をやっているかで決まる。令和7年度の第1回申請時点で、移住支援事業を実施しているのは44道府県1,318市町村である。事業対象の市町村1,584のうち1,318なので、活用率は83.3%になる。この母数には未実施の東京都・神奈川県・大阪府も含まれている。
関連する事業では実施の広がりに差がある。地方就職学生支援事業は38道府県533市町村、起業支援事業は43道府県、新規就業等支援事業は25道府県という状況で、事業の種類によって受けられる地域の数が倍以上ちがう。移住支援金があっても起業支援の側が動いていない県では、起業の経路を選びにくいということになる。
令和7年度には学生向けの拡充も入っている。東京都内に本部がある大学等に在学する学生が地方へ就職する際、就職活動等の交通費の2分の1と、地方へ移住する際の移転費が支援の対象になり、令和7年度からは学部生に加えて院生も対象になった。企業に加えて農林水産業等の家業に就く場合も申請できる。学生のうちから地域と関わる回路を作っておく意味では、FLASPOが扱ってきた地域での活動の延長線上に、この制度が置かれている。
目標と実績が同じ物差しではない
ここで最初の6万人に戻る。表に出ている移住者数を令和元年度から令和6年度まで単純に足すと23,783人になる。6万人という数と並べたくなるが、この比較はそのままでは成り立たない。パッケージの6万人は「UIJターンによる起業・就業者創出」全体に掛かった数であり、移住支援金を受け取った人だけを数えたものではないためだ。起業支援事業や新規就業等支援事業の分を含む枠なので、分母と分子の定義がずれている。
それでも分かることがある。2024年の東京圏の転入超過数は11.9万人で、転入超過の大半を10代後半と20代が占めている。出典は総務省の住民基本台帳人口移動報告の日本人移動者の値である。移住支援金が年に動かしている7,826人という数は、この11.9万人に対して1割に届かない規模にある。是正の対象として置かれた流れと、手段の大きさが釣り合っていない。
関心の側は別の動きを見せている。43都道府県1政令市が相談員やブースを置くふるさと回帰支援センターへの移住相談件数は、2024年に過去最多の61,720件となり、前年比で4.1%増えた。相談が6万件を超える一方で、支援金の受給は年8千人に届かない。この差をどう読むかで、制度の評価は変わってくる。要件に合う人が少ないのか、相談の多くがもともと支援金を使う前提ではないのか、公表資料はそこまでは分けて示していない。補助金を軸にした施策が続きにくくなる理由を扱った補助金頼みの地方創生はなぜ続かないのかと合わせて読むと、金額の大小とは別の論点が見えてくる。
よくある質問
移住支援金の実績が伸びたのは制度が良くなったからなのか。公表資料が挙げている要因は三つで、自治体側の取組の広がり、テレワークの普及、子育て世帯加算などの制度の拡充である。このうち後の二つは制度と環境の変化にあたる。初年度の123人という数は、需要の不在ではなく要件の狭さを示していたと読める。
東京都に住んでいれば誰でも対象になるのか。ならない。移住前の10年間で通算5年以上かつ直近1年以上、東京23区に在住していたか、条件不利地域を除く東京圏から23区へ通勤していたことが要件である。23区の外に長く住んでいた場合は、通勤の実績が必要になる。
どの自治体でも申請できるのか。できない。令和7年度の第1回申請時点で移住支援事業を実施しているのは44道府県1,318市町村で、東京都・神奈川県・大阪府は未実施である。移住先を決める前に、その市町村が事業を実施しているかを確かめる順番になる。
6年間で6万人の目標は達成されたのか。移住支援金の受給者を足した23,783人をそのまま当てることはできない。6万人はUIJターンによる起業・就業者創出という広い枠に掛かった数で、移住支援金はその中の一手段である。公表資料は枠全体の達成状況を一つの数字では示していないため、事業ごとの実績を個別に見ていく形になる。
子どもがいる世帯はいくら受け取れるのか。世帯での移住は最大100万円で、18歳未満の子を帯同する場合は子ども1人あたり最大100万円が加算される。単身の場合は最大60万円である。いずれも上限額であり、実際の額は移住先の市町村の制度によって決まる。
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