説明会を待たなくても、行ごとの数字は手に入る
地元の銀行を受けようと決めたあと、比べる材料が採用ページと先輩の話しかないように見えることがある。実際には、どの銀行にも毎年つくる義務のある公表資料がある。銀行法第二十一条は、銀行に対して事業年度ごとに「業務及び財産の状況に関する説明書類」を作成し、営業所に備え置いて公衆の縦覧に供することを求めている。中間事業年度の分も同じ扱いで、年に二度出てくる。
この書類は電磁的記録で作ることもでき、その場合は営業所で不特定多数の人が情報を受け取れる状態に置けば、備え置いたものとみなされる。条文の第四項がその措置を定めている。だから各行のサイトに「ディスクロージャー誌」という名前のPDFが並んでいる。根拠は銀行法の条文そのもので、広報の判断で出している資料ではない。
子会社を持つ銀行は、自行と子会社等を連結した説明書類も作る。第二十一条第二項がそれにあたる。持株会社の傘下に入っている行だと、単体と連結で数字が変わるため、どちらを見ているのかを先に確かめる必要がある。銀行そのものの輪郭は地方銀行とはの記事で押さえられる。
載せる項目は内閣府令が決めている
中身が行ごとにばらばらなら比較には使えない。そこを揃えているのが銀行法施行規則の第十九条の二である。この条文は、法第二十一条第一項でいう内閣府令で定める事項を列挙しており、主要な業務の状況を示す指標として直近の五事業年度分を並べるよう指示している。信託業務を営む行だけが書く項目を除くと、全行に共通するのは次の十二の数字になる。
| 公表が必要な指標 | 何が読めるか | 比べるときの使い道 |
|---|---|---|
| 経常収益/経常利益・経常損失 | 本業の規模と採算 | 同じ県の他行と幅を比べる |
| 当期純利益・当期純損失 | 最終的な損益 | 単年の振れを五年で平す |
| 資本金/発行済株式の総数/純資産額 | 資本の厚み | 再編の話が出たときの体力 |
| 総資産額/預金残高/貸出金残高/有価証券残高 | 集めた金をどこへ回しているか | 貸出に回す比率の行ごとの差 |
| 単体自己資本比率 | 健全性の下支え | 規制上の基準との距離 |
| 配当性向 | 利益の配り方 | 株主構成の説明とあわせて読む |
| 従業員数 | 人の規模 | 採用の規模感を推し量る |
中間の説明書類では一部の項目を省けることも同じ条文に書いてある。年度末の版と中間版で載っている量が違うので、比較に使うなら年度末の版をそろえて並べたほうが早い。
五年分が並んでいることに意味がある
規則が求めているのは単年ではなく直近五事業年度である。就活で効くのはこの並びのほうだ。たとえば従業員数が五年でどちらへ動いているかは、採用計画の背景として説明会の数字より素直に出る。預金残高が増えているのに貸出金残高が動いていない行と、どちらも伸びている行では、入ったあとに任される仕事の重心も変わってくる。
注意したいのは、数字から断定できる範囲が狭いことである。利益が落ちた年に何があったかは、同じ書類の「事業の概況」や損益計算書の注記まで読まないと分からない。五年の並びは、面接で聞くべき問いを絞るための道具として使うのがいい。どの年に何が起きたのかを尋ねる学生は、業界用語を並べる学生よりも話が続く。
自己資本比率の欄も、数字だけを拾うと読み違える。規則がいう単体自己資本比率は、銀行法第十四条の二第一号に規定する基準にかかる算式によって得られる比率と定義されている。算式そのものは条文ではなく告示の側で決まるため、適用される基準が同じ行どうしで並べる必要がある。どの基準で算定した比率なのかは、たいてい同じページの注記に書いてある。
規模の比較に入る前に、分母の確認も要る。地方銀行と第二地方銀行は加盟する業界団体が別で、同じ県の中に両方がある地域も多い。会員行の一覧は全国地方銀行協会の公開ページで確かめられる。二つの入口の違いは地方就職と若手の記事でも扱っている。
地域貢献の書き方には行ごとの差が出る
同じ規則の第四号は、業務の運営に関する事項として、リスク管理の体制、法令遵守の体制、そして「中小企業の経営の改善及び地域の活性化のための取組の状況」を挙げている。前の二つは書き方が似通うが、三つ目は各行が自分の取り組みを自分の言葉で説明する欄になる。取引先の事業承継に何人の体制で当たっているのか、創業の支援をどの枠組みで行っているのか、具体名の入り方が行によってかなり違う。
志望動機を組むときに、ここは使い勝手がよい。採用ページの文言は学生向けに整えられているが、この欄は取引先と預金者に向けて書かれている。同じ取り組みが別の言葉で説明されているので、両方を並べると、その行が外に向けて何を成果と呼んでいるのかが見える。制度が銀行の仕事をどう広げたかは地銀のコンサル化の記事で整理した。
第四号には、苦情や紛争をどう扱うかの記載も含まれる。指定された銀行業務の紛争解決機関があればその商号を、ない場合は自行で講じている苦情処理と紛争解決の措置の内容を書く。顧客対応の仕組みがどこまで外部に開かれているかが分かる欄で、窓口の仕事を志望するなら目を通しておきたい。
地域に関わる仕事を就職の前に一度見ておきたいなら、学生のうちに現場へ入る方法もある。FLASPOが置いている場も、そうした助走のための入口にあたる。
株主と営業所の欄が、その行の立ち位置を示す
同じ第十九条の二の第一号は、概況と組織に関する事項として、持株数の多い順に十以上の株主の氏名、各株主の持株数、発行済株式の総数に占める割合を載せるよう定めている。取締役と監査役の氏名と役職名、会計監査人、そして営業所の名称と所在地も同じ号に入っている。
筆頭株主が持株会社になっていれば、その行は経営統合を済ませたグループの一員である。採用も人事もグループ単位で動く可能性が高く、転勤の範囲の見方が変わる。逆に地元の事業会社や共済団体が上位に並ぶ行は、独立して経営している度合いが大きい。株主の欄は、ニュースの再編報道より先に関係図を教えてくれる。
同じ号には、その銀行を所属銀行とする銀行代理業者の商号と、代理業を営む営業所の名称を載せる定めもある。自前の店舗以外の経路でどれだけ取引を広げているかが、ここから分かる。店舗を減らしながら代理業者を増やしている行では、窓口の仕事の中身が数年で入れ替わっている可能性がある。
営業所の一覧は、配属されうる場所の全体像として読める。県内に何店あるか、県外に拠点があるか、どの市町村には店がないか。この三つを地図に落としてみると、転居を伴う異動がどれくらい起こりうるかの見当がつく。勤務地の話は内定後に確かめる学生が多いが、資料の側は先に出ている。
よくある質問
ディスクロージャー誌はどこで手に入るのか。各行のサイトに掲載されているほか、銀行法第二十一条第一項により営業所にも備え置かれている。電磁的記録で作られている場合は、営業所で電磁的方法により提供できる状態にしておけば、備え置きと縦覧を行ったものとみなされる。
有価証券報告書とは何が違うのか。根拠になる法律が別で、こちらは金融商品取引法に基づく開示である。上場していない銀行では出ていないこともある。説明書類のほうは、上場しているかどうかにかかわらず銀行であれば作成の義務がある。両方ある行では、記載の重なる部分と片方にしかない部分を見分けて使うことになる。
数字を読む自信がない場合はどうするか。十二の指標のうち、まず従業員数と貸出金残高の五年分だけを三行ほど並べるところから始めるとよい。業界全体の傾向を覚える前に、受ける行の形を自分の手で写すほうが面接での受け答えに結びつく。指標の意味を確かめたいときは地方銀行ランキングの見方の記事が参考になる。
公表資料だけで行を決めてよいのか。決める材料としては足りない。説明書類は過去の実績と体制の記録であって、職場の空気や育成の実態は書かれていない。その部分は面接やインターンで確かめるしかない。資料の役目は、限られた面談の時間を何に使うかを先に決めておくことにある。
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