「若い人がいないから、そろそろ最後かもしれない」。地域の行事に通うと、こうした言葉を聞くことがある。感覚としては伝わるが、何がどれだけ足りないのかは見えてこない。都道府県が保存団体に直接聞いた調査があり、そこを読むと不足の内訳が分かれてくる。順番を間違えずに関わるために、数字から確かめたい。
半分以上が、すでに続けられる状態になかった
山梨県文化財保護審議会の無形文化財及び民俗文化財部会は、令和7年9月10日に県内の民俗芸能の現況をまとめた報告を公表した。報告書の概要によれば、調査対象405件のうち実施と整理されたのは186件で46%にとどまり、219件すなわち54%が存続の危機または既に休止の状態と整理された。
調査の方法も押さえておきたい。市町村を通じて各保存団体の代表者に調査票を配り、令和6年9月から12月に回答を集めている。対象は平成24年3月公表の緊急調査で扱った386件に、新たに19件を加えた405件である。つまり十数年ぶりに同じ対象を追った比較可能な記録で、担い手の側が自分たちの状態を答えた数字だという点に意味がある。
種別の偏りも出ている。同じ概要では獅子舞が最も多く全体の36%、次いで神楽が24%で、この二つで60%を占める。つまり山梨の民俗芸能は、特定の形式に厚く積み上がっている。どの形式に関わるかで、必要な人数も練習の期間も変わってくる。
報告は背景として、少子高齢化と過疎化に加えて、新型コロナウイルスの流行による祭礼行事の自粛を挙げている。人数の減少が長い年月をかけて進んだ一方で、数年の中断が技の受け渡しを断ち切った形である。中断の前と後で、同じ行事でも規模や手順が変わっている場合がある。
不足と呼ばれているものは、四つに分かれる
報告の概要は、継承を阻む要因を人の問題だけで説明していない。挙げられているのは、担い手の不足、技の継承に関する問題、継承を阻む社会的要因、そしてコロナ禍の影響の四つである。担い手の不足としては高齢化による指導者や後継者の不足と、子どもの減少や芸能に触れる機会の減少が並ぶ。
| 区分 | 挙がっている中身 | 外から手を当てられるか |
|---|---|---|
| 担い手の不足 | 指導者・後継者の不足、子どもの減少 | 人数は補えるが指導者は代われない |
| 技の継承 | 指導者と裏方の減少、譜面や映像の保存 | 記録の作成は関わりやすい |
| 社会的要因 | 財源不足、資材調達、保存団体への負担集中、練習時間の減少、発表の場の減少 | 事務と広報の分担で軽くできる |
| コロナ禍の影響 | 行事の簡略化、技術継承の弱体化、継承意欲の低下 | 外からの関心が支えになる場合がある |
この分解が効くのは、学生が貢献できる場所がはっきりするからだ。舞い手や囃子の技は短期間では身につかないが、裏方の減少、負担の集中、発表の場の不足は人手と段取りで動く部分が大きい。報告が提言した六つの施策にも、担い手の確保と並んで発表の場の創出、記録作成への支援、保存団体との連携やネットワーク構築が入っている。
指定を受けているものは、ごく一部にすぎない
文化財として国の指定を受けていれば守られる、という理解は正確ではない。国が重要無形民俗文化財として指定しているのは限られた件数で、文化庁の令和8年1月23日の答申では新たに5件を指定し、官報告示後は342件となる予定とされている。全国の行事の総数と比べれば、ごく一部である。
山梨の調査が405件を県内だけで数えていることを思い出すと、規模の差が分かる。国の指定に入らない行事は、県や市町村の指定にとどまるか、どの指定も受けていない。指定の有無は補助や記録の手厚さに影響するため、同じ「担い手不足」でも使える支援が違ってくる。
関わりたい行事を見つけたら、まず指定の区分を確かめるのが実務的な出発点になる。国指定か県指定か市町村指定か、あるいは無指定か。それによって窓口が文化庁の事業になるのか、県の文化財担当になるのか、市町村の生涯学習課になるのかが変わる。相談先を間違えると、良い企画でも持ち込み先がないまま止まる。
本番の一日ではなく、前後の数か月に入る
祭りの当日に人を増やすという発想だと、見物客が一人増えるだけで終わる。保存団体が実際に抱えているのは、当日までの準備と当日以降の後片付け、そして次回に向けた事務である。道具の手入れ、会場の設営、参加者への連絡、収支の整理、記録の保存。どれも技術の継承とは別に、人数と段取りで回る作業だ。
記録の作成は、学生が最も入りやすい領域に入る。報告の概要も、譜面や映像としての保存を課題に挙げていた。動きの順序、掛け声の言い回し、道具の置き方を映像と文字で残しておけば、数年後に人が入れ替わっても再現の手がかりになる。撮影そのものは難しくないが、どの角度から何を残すかは当事者に聞かないと決まらない。
発表の場をつくるのも現実的な貢献になる。大学の催しに招く、学内で上演の機会をつくる、地域外の人が来る日程に合わせて公開するといった形だ。参考として学園祭と若者では学生が集まる場の規模を扱っている。既にある場に行事を持ち込めれば、保存団体が新しい場を立ち上げる負担を背負わずに済む。
日程の合わせ方も現実的な論点になる。行事は農事暦や旧暦に沿って決まることが多く、学期の区切りとはずれる。試験期間に重なる行事であれば、当日に行けなくても準備の時期に入るという組み方ができる。
一度の訪問で終わらせない受け皿を探す
単発の参加が重なっても、担い手の不足は埋まらない。毎年同じ時期に誰かが来る状態をつくるには、個人ではなく組織の間で約束を結んでおく必要がある。その相手として現実的なのが、地域の暮らしを分野をまたいで回している組織である。総務省地域力創造グループの資料では、令和7年度の調査で全国に8,587の地域運営組織があり、形成されている市区町村は903団体とされている。
同じ資料は、山形県川西町のきらりよしじまネットワークで地域の若者およそ30人が事務局に入り、住民の話し合いの運営とアイデアの集約を担っている例を紹介している。行事の保存団体と地域の運営組織が重なっている地域なら、話を通す先はひとつで足りることもある。
担い手の減少は行事に限った話ではなく、地域の生業にも及んでいる。背景の整理としては一次産業の担い手不足や大学生が地域活性化でできることが参考になる。関わり方を自分の学びとしてどう位置づけるかは、FLASPOが扱う領域とも重なってくる。
よくある質問
舞や囃子を覚えないと参加できないのか。多くの場合そうではない。前述のとおり裏方や事務の人手が不足しており、そこは経験がなくても担える。技を受け継ぐ役を任されるのは、何年も通って信頼ができた後の話になる。最初から演者を志望すると、かえって断られやすい。
どこに連絡すればよいのか。行事の指定区分によって窓口が変わる。市町村の文化財や生涯学習の担当課に、保存団体への取り次ぎを相談するのが通りやすい。保存団体の連絡先が公開されていないことも多く、個人で押しかけるより行政を経由したほうが話が早い。
映像を撮って公開してよいのか。行事には非公開の場面や撮影を避ける作法があることがある。許可を取る相手は保存団体と、場合によっては神社や寺院の側にもなる。公開の範囲と期間を先に決めて文書にしておけば、後から持ち上がる行き違いを防げる。
一人でも関わりはじめられるのか。可能だが続きにくい。一人で入ると、その人の都合が変わった時点で関係が切れる。大学の団体や研究室のように複数で入り、次の学年に引き継げる形にしておくと、保存団体の側も計画に組み込める。
休止している行事を再開させることはできるのか。外からの提案だけでは難しい。道具の有無、記録の残り方、覚えている人の人数で条件が変わるためである。まず記録と聞き取りで何がどこまで残っているかを確かめる段階が入る。再開の判断は地域の側にあり、学生が担えるのはその判断材料をそろえるところまでだと考えたほうがよい。
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