20年後に30万人という前提で法律ができた
担い手不足という言葉は使い古されているが、国がどの程度の減少を前提に制度を設計しているかまで知られているとは限らない。手がかりになるのが、2024年に成立した法律の説明資料だ。
農林水産省はスマート農業技術活用促進法の背景として、今後20年で基幹的農業従事者が現在のおよそ4分の1にあたる約30万人まで減る見通しを示している。法律は2024年6月14日に公布され、同年10月1日に施行された。
この見通しが重いのは、減少を食い止める前提ではなく、減ることを織り込んだうえで生産水準をどう保つかという問いから出発している点にある。人を増やして元に戻すのではなく、少ない人数で同じ面積を扱えるようにする、という組み立てだ。
実際の足元の数字も、その方向を裏づけている。2025年農林業センサス結果の概要(確定値)では基幹的農業従事者は103万6千人で、5年前から24.0パーセント減った。平均年齢は67.7歳、65歳以上が69.6パーセントである。
この年齢構成のまま20年が過ぎれば、30万人という数字は悲観的な想定というより算数に近い。問題は、その通りになるかどうかではなく、なったときに何が残るかのほうにある。
入口は細っていない。太ってもいない
減っているのは出口が多いからで、入口が閉じているわけではない。農林水産省が2026年4月に公表した令和6年新規就農者調査によると、新規就農者は4万3,500人で前年並みだった。このうち49歳以下は1万5千人台にとどまっている。
毎年4万人以上が入ってきているのに全体が減り続けるのは、引退する人数がそれを上回っているからだ。基幹的農業従事者は5年で32万7千人減った。単純に均せば年6万人を超える減少で、新規参入がそれに届いていない。
内訳も見ておきたい。新規就農者の多くは自営農業への就農で、法人などに雇われる形の就農と、まったくの新規参入がそれに続く。つまり入口の主流は、いまも家の農地を引き継ぐ経路にある。
裏を返せば、引き継ぐ農地を持たない人が入る道は、雇われて働くか、新規に土地と資金を用意するかに限られる。後者は初期投資が重く、年齢が上がるほど踏み切りにくい。49歳以下の層が伸び悩む理由の一つがここにある。
担い手不足を「若者が農業に興味を持たないから」と説明すると、実態を取り違える。興味の問題というより、入ってくる人数と出ていく人数の差、そして入り方の選択肢の狭さの問題である。
海と山の入口はもっと細い
漁業と林業になると、母数が小さいぶん一人あたりの重みが増す。水産庁の漁業の就業者をめぐる動向によれば、新規漁業就業者は近年おおむね年2千人前後で推移し、1,700人台に落ちる年もある。ただし、そのうち39歳以下がおよそ7割を占める。
林業では、2003年度に本格的に始まった「緑の雇用」が入口の役目を担ってきた。林野庁の林業労働力の動向によると、事業の開始前は年平均およそ2千人だった新規就業者が、開始後は年平均3,200人ほどに増えている。
| 分野 | 年間の新規就業者 | 若年層の位置づけ | 課題として挙がる点 |
|---|---|---|---|
| 農業 | 4万3,500人(令和6年) | 49歳以下は1万5千人台 | 引退者数が参入者数を上回る |
| 漁業 | おおむね2千人前後 | 39歳以下がおよそ7割 | 母数が小さく変動を受けやすい |
| 林業 | 近年は3千人台 | 「緑の雇用」経由が中心 | 3年後の定着率は69.9パーセント |
林業で注目したいのは定着率である。令和3年度に「緑の雇用」を利用して就業した人の3年後の定着率は69.9パーセントだった。林野庁は3年後の定着率を8割に引き上げることを目標に掲げている。
入れた人数と残った人数は別の話だ、という指摘は三分野に共通する。採用の数だけを成果指標にすると、辞めた理由が検証されないまま次の募集が始まってしまう。
外から来る人が支え始めている
国内の参入だけでは埋まらない部分を、外国人材が担う場面が増えた。農林水産省の農業分野における外国人の受入れについてで示されているとおり、農業は在留資格「特定技能」の対象分野になっている。
特定技能で農業に従事する外国人は、1号と2号を合わせて4万人近くに達した(2025年12月末時点の速報値)。基幹的農業従事者103万6千人と並べると3パーセント台だが、受け入れている経営体に限れば、人手の柱になっている例は珍しくない。
特定技能は、技能実習と違って転職が認められ、要件を満たせば在留の更新を重ねられる。2号に移行できれば家族の帯同も視野に入る。働きに来る人から見れば、短期の出稼ぎから生活の場へと位置づけが変わりつつある。
その変化は受け入れ側にも宿題を出す。住まい、日本語、子どもの就学、医療といった生活の基盤が整っていない地域は、制度上受け入れられても選ばれない。人手として数えるのか、地域の住民として迎えるのかで、準備すべきものがまるで違ってくる。
この論点は、国内の移住者を迎えるときの課題とほとんど同じ形をしている。移住の受け入れで積み上げてきた工夫が、そのまま使える場面は多い。
人が減る前提で組み立て直す
見通しが変わらないのであれば、設計のほうを変えるしかない。すでに現場では、その動きが数字に表れ始めている。
農業経営体は83万6千経営体まで減ったが、法人経営体は3万4千経営体と5年前から10.1パーセント増えた。1経営体当たりの経営耕地面積も3.6ヘクタールと0.5ヘクタール広がっている。個人が家族で回す形から、雇用を抱えて規模を扱う形へ、重心が移りつつあるということだ。
法人化には、通年雇用で人を採れる、休みを設計できる、技術を組織に残せるといった利点がある。新規参入者にとっても、いきなり独立するのではなく、まず雇われて経験を積むという道ができる。
機械と情報技術の活用も同じ文脈にある。スマート農業技術活用促進法は、ロボット、人工知能、モノのインターネットといった先端技術を使う生産方式の転換計画と、その技術を開発・供給する計画の二つを認定し、税制や金融の特例で後押しする仕組みになっている。
ただし機械は人手を減らす道具であって、人を呼ぶ道具ではない。担い手不足の解決には、少ない人数で回す工夫と、来た人が居続けられる条件づくりの両方がいる。林業の定着率が示しているのは、後者を省くと前者の効果も目減りするということだ。
よくある質問
担い手不足をめぐって、判断を誤りやすい点を四つ挙げておく。
Q. 新規就農者が毎年4万人以上いるのに、なぜ足りないのですか。
A. 引退する人数のほうが多いからだ。基幹的農業従事者は5年で32万7千人減っており、年あたりに均すと6万人を超える。参入が4万人台で横ばいなら、差は毎年積み上がっていく。
Q. 農地を持っていなくても就農できますか。
A. できるが、経路は主に二つになる。農業法人などに雇用されて働く形と、自分で農地と資金を用意して新規参入する形だ。前者は収入が読みやすく技術も学べる一方、後者は自由度が高いかわりに初期投資と信用づくりの負担が重い。
Q. 漁業や林業は農業より深刻ですか。
A. 比率で見ると漁業就業者は5年で20.0パーセント減り、農業と近い速さで縮んでいる。ただし漁業と林業は母数が小さいため、一つの地域で数十人が抜けるだけで操業や施業が成り立たなくなることがある。全国の減少率より、地域ごとの人数のほうが実態を映す。
Q. 地域の側が先にできることは何ですか。
A. 住まいと仕事の組み合わせを先に用意しておくことだ。繁忙期だけの仕事では生活が立たないため、複数の事業者で年間の仕事をつなぐ取り組みが各地で試されている。地域おこし協力隊の任期を入口に使う例もある。関わり方の設計から相談したい場合は、地域と人をつなぐ活動を続けているFLASPOのような窓口を頼るという選択肢もある。
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