お金の扱いを会計係ひとりに預けたまま、協賛の話が止まる
協賛や寄付を頼んだ相手から「去年の収支を見せてほしい」と言われて、その場で出せなかった経験は学生団体に多い。帳簿そのものが無いわけではなく、レシートの束と表計算のファイルはある。足りないのは、誰に何をどこまで見せると決めた取り決めのほうである。見せる範囲が決まっていないと、聞かれるたびに代表が判断することになり、答えが年ごとに変わる。
透明性という言葉は曖昧だが、法人に向けた条文を読むと中身は具体的である。特定非営利活動促進法は、作る書類、備え置く期間、見せる相手、外に出す方法を別々の条文に分けて置いている。任意団体はこの法律に縛られないが、何をどこまで開けば足りるのかを決める型としては使える。帳簿そのものの付け方はサークルの会計で扱っている。
書類を作る期限と、置いておく年数が先に決まっている
法人が毎年作るものは、第28条第1項に列挙されている。前事業年度の事業報告書、計算書類、財産目録、年間役員名簿、そして事業年度末日時点の社員のうち10人以上の氏名と住所を記載した書面である。期限は毎事業年度初めの3月以内で、まとめて「事業報告書等」と呼ばれる。
作ったあとの扱いも同じ条文にある。これらは作成の日から起算して5年が経過した日を含む事業年度の末日まで、事務所に備え置かなければならない。役員名簿と定款等は、期間の指定なしに備え置く対象とされている(同条第2項)。年間役員名簿には、前年度に役員だった者全員の氏名と住所または居所に加えて、報酬の有無まで記載する。報酬を払っていない団体でも「無し」と書いて残すところが肝心で、後から支出を疑われたときに効く。
数字の作り方そのものにも原則が置かれている。第27条は、会計簿を正規の簿記の原則に従って正しく記帳すること、計算書類と財産目録は会計簿に基づいて事業の実績と財政状態に関する真実な内容を明瞭に表示したものとすること、採用した会計処理の基準と手続は毎事業年度継続して適用しみだりに変更しないことを挙げる。学生団体で効くのは三つ目で、現金出納だけの年と立替精算を混ぜた年が交互に来ると、前年との比較ができなくなる。
見せる相手は会員だけではなく、断れる場合も限られている
第28条第3項は、社員その他の利害関係人から事業報告書等、役員名簿、定款等の閲覧請求があった場合には、正当な理由がある場合を除いて閲覧させなければならないと書いている。請求できるのは「社員その他の利害関係人」で、会員に限られていない。寄付をした人や協賛企業はここに入り得る。断れるのは正当な理由があるときだけで、面倒だからという理由は含まれない。
数字を外へ出す段には別の条文が用意されている。貸借対照表は作成後遅滞なく公告しなければならず、方法は官報、日刊新聞紙、電子公告、内閣府令で定める方法のうち定款で定めたものに限られる(第28条の2第1項)。電子公告を選んだ場合は、作成日から5年が経過した日を含む事業年度の末日まで継続して掲げ続ける義務がある(同条第4項)。所轄庁への提出も毎事業年度1回で(第29条)、提出された書類は閲覧または謄写の請求に応じて公開される(第30条)。
認定を受ける段では、閲覧に応じること自体が基準になる
寄付への税の優遇が付く認定を取ろうとすると、情報公開は努力ではなく要件に変わる。第45条第1項第5号は、事業報告書等、役員名簿、定款等について閲覧の請求があったときに、正当な理由がある場合を除いて事務所で閲覧させていることを基準として挙げている。第6号は、各事業年度において事業報告書等を第29条の規定により所轄庁に提出していることを求める。
経理の側にも条件がある。第3号ハは、公認会計士もしくは監査法人の監査を受けているか、内閣府令で定めるところにより帳簿と書類を備え付けて取引を記録し、それらを保存していることを選択的な基準として置く。同号ニは、支出した金銭で費途が明らかでないものがないことを求めている。使途不明金が一行あるだけで引っかかる書き方である。内閣府NPOホームページの統計情報では、認証を受けた法人が2026年8月末時点で48,754、そのうち認定と特例認定を合わせた数が1,315とされている。割合にすると2.7%で、情報公開まで通した団体は多数派ではない。
お金の流れ方にも線が引かれている。第45条第1項第4号ハは、実績判定期間の事業費の総額のうち特定非営利活動に係る事業費の占める割合が100分の80以上であることを求め、同号ニは受け入れた寄附金総額の100分の70以上をその事業費に充てていることを求める。集めた寄付を翌年に繰り越し続ける運営は、ここで止まる。
任意団体に移すなら、三つの書類と一つの期限に絞る
条文をそのまま持ち込むと学生の人数では回らない。移すときは、作る書類を絞り、期限を一つだけ決めるのが現実的である。法人向けの義務と、任意団体で代わりに置ける運用を並べると次のようになる。
| 法人の義務 | 根拠 | 期間 | 任意団体で置けるもの |
|---|---|---|---|
| 事業報告書・計算書類・財産目録・年間役員名簿の作成 | 第28条第1項 | 年度初め3月以内 | 総会資料として収支と役員名簿を一式にする |
| 事務所への備え置き | 第28条第1項 | 作成から5年 | 共有ドライブに年度別で残し、代表交代時も消さない |
| 利害関係人の閲覧請求への対応 | 第28条第3項 | 請求のたび | 会則に「請求があれば見せる」と一条置く |
| 貸借対照表の公告 | 第28条の2 | 作成後遅滞なく | 年次報告のページに収支の要旨を載せる |
会則に一条足すだけで、判断は代表個人から団体に移る。条文の起こし方は学生団体の会則で扱った。法人格を取るところまで進めるなら、認証の基準はNPO法人の認証とはにまとめてある。学生の活動と企業をつなぐ場づくりはFLASPOでも扱っている領域である。
よくある質問
「任意団体でも収支を公開する義務はあるのか」。法律上の義務はない。ただし大学の課外活動団体として部費や助成金を受けているなら、学内の規程で報告が求められることが多い。義務の根拠は法律ではなく、お金の出どころの側にあると考えるとよい。
「会員が閲覧を求めてきたが、個人の住所まで見せる必要があるか」。法人の場合、所轄庁が公開するときは事業報告書等や役員名簿に記載された個人の住所または居所に係る部分を除くと第30条に明記されている。任意団体でも、名簿の住所欄は伏せて役職と氏名だけ示す運用にそろえておくと揉めにくい。
「監査は誰に頼めばよいのか」。認定の基準でも、公認会計士の監査と、帳簿書類を備え付けて記録し保存することは選べる形になっている(第45条第1項第3号ハ)。学生団体なら会計以外の2人を監事役に置き、通帳の残高と帳簿の残高を突き合わせて署名を残す形で足りる。
「代表が替わると資料が消えてしまう」。備え置きの考え方をそのまま借りて、保存の年数を会則に書くのが早い。5年は長いと感じるなら3年でもよいが、年数を決めずに「適宜保存」とすると引き継ぎのたびに消える。
「公開したら批判されるのが怖い」。実際に問われるのは金額の大小ではなく、使途が説明できるかどうかである。費途が明らかでない支出をなくすこと自体が基準に置かれている点を踏まえると、先に出しておくほうが守りになる。
「どこまで細かく出せばよいのか」。法人向けの書類は事業報告書、計算書類、財産目録、役員名簿、社員のうち10人以上を記載した書面という単位で指定されている。学生団体なら、収入と支出を項目別に並べた表と残高、そして役員の一覧があれば説明の土台になる。一件ごとの領収書まで公開する必要はない。
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