全員が賛成したはずの企画が、三か月後に蒸し返される
「あのとき反対しなかっただろう」と言われて黙る場面は、学生団体の運営でよく起きる。原因は人の記憶ではなく、決めた瞬間の条件が残っていないことにある。グループチャットのスタンプで賛否を取り、見ていなかった人が後から異議を出し、反対の数も出席していた人数も誰も数えていない。この状態では、決まったのかどうかを後から確かめる手がかりがない。
決め方を整えるというと、会議を増やす話に聞こえる。実際は逆で、議題ごとに必要な手続きの重さを決めておけば、軽い議題は会議を開かずに片づく。特定非営利活動促進法は、法人の意思決定について場所と要件と手続きを条文で切り分けている。任意団体を直接縛るものではないが、重さの配分を考えるときの下敷きとして使える。会則そのものの書き方は学生団体の会則で扱った。
重い議題にだけ、高い賛成の数が置かれている
法律が要件を上げているのは、後から戻せない決定である。会則に相当する定款の変更には、社員総数の2分の1以上が出席し、その出席者の4分の3以上の多数が必要になる(第25条第2項)。解散はさらに重く、出席者ではなく総社員の4分の3以上の賛成がなければ決議できない(第31条の2)。一方で日々の業務は、定款に特別の定めがなければ理事の過半数で決してよい(第17条)。
この差は、取り返しのつく決定と、つかない決定を分けている。来月の企画を一つ変えるのは翌月に戻せるが、会則の条文や団体の存続はそうはいかない。学生団体に移すなら、まず自分たちの議題を「戻せるか」で二つに分けるところから始めるとよい。要件を一覧にすると次のようになる。
| 議題 | 決める場所 | 必要な賛成 | 条文 |
|---|---|---|---|
| 日々の業務 | 理事会に相当する場 | 理事の過半数 | 第17条 |
| 総会に委任されていない事項 | 社員総会 | 定款の定めによる | 第14条の5 |
| 定款(会則)の変更 | 社員総会 | 社員総数の2分の1以上が出席し、出席者の4分の3以上 | 第25条第2項 |
| 解散 | 社員総会 | 総社員の4分の3以上 | 第31条の2 |
| 臨時の総会を開くこと | 総会の招集請求 | 総社員の5分の1以上の請求 | 第14条の3第2項 |
| 全員が書面で同意した事項 | 会議を開かずに可決 | 社員全員の同意 | 第14条の9 |
表の数をそのまま会則に書き写す必要はない。十人の団体で四分の三を求めると八人の賛成が要る計算になり、現実には会則の変更ができなくなる。重い議題には高い数、軽い議題には低い数という配分の形だけを借りて、自分たちの規模で成立する数に置き換える。
通知は五日前、通知した議題しか決められない
要件の数より先に効いてくるのは、議題を事前に知らせているかどうかである。法人の社員総会では、招集の通知は総会の日より少なくとも5日前に、その総会の目的である事項を示して行わなければならない(第14条の4)。さらに、総会ではあらかじめ通知した事項についてのみ決議ができる(第14条の6)。定款に別段の定めがあればこの縛りは外せるが、既定は「予告していないことは決められない」である。
学生団体の会議で揉めるのは、ほぼこの点である。議題を三つ告知して集まった場で四つ目が出てきて、その場にいる人だけで決まる。欠席した人は議題の存在を知らないまま結論を受け取ることになり、三か月後の蒸し返しにつながる。五日という数は短いので、学期中の予定と照らしても無理がない。
運用としては、告知の文面に議題と、その議題で決めたいことを一行ずつ書く。「予算について」では足りず、「夏合宿の予算を十二万円に増やすかどうか」まで書く。その場で出た新しい話題は、次回の議題として持ち越す扱いにしておけば、追加の議題をめぐる判断が人によって変わらない。
一人一票を崩すと、決めた根拠が消える
票の重さについて、法律は先に平等を置いている。各社員の表決権は平等とする(第14条の7第1項)。認定を受けるための基準にも、各社員の表決権が平等であることが条件として並ぶ(第45条第1項第3号ロ)。在籍年数や会費の額で票数を変える形は、ここで否定されている。
例外は一つだけ置かれている。団体と特定の社員との関係について議決する場合、その社員は表決権を持たない(第14条の8)。報酬を決める、備品を特定のメンバーから買う、立替金の扱いを決めるといった場面で、当事者が自分の案に票を入れる形を避ける趣旨である。学生団体では、就職活動の推薦枠や交通費の支給基準を決めるときに同じ構図が出てくる。
学年が上の人の意見が通りやすいこと自体は、票の数とは別の問題である。ただ、票を平等にしたうえで通ったのか、最初から重みが違っていたのかは、記録に残る形が変わる。平等を前提に置き、当事者を外すという二つの決まりだけで、決定の根拠はかなり説明しやすくなる。役割の分け方は学生団体の組織図と合わせて考えたい。
集まれない人の票を、二つの方法で拾う
全員が同じ時間に集まれないのは、学生団体では前提に近い。法人の制度は、この状況を二通りで処理している。一つは総会に出席しない社員が書面で、または代理人によって表決する方法である(第14条の7第2項)。定款で定めれば、書面に代えて電磁的方法で表決することもできる(同条第3項)。これらは定款に別段の定めがある場合には適用されない(同条第4項)ので、使うかどうかを会則の側で決める必要がある。
もう一つは、会議そのものを開かない形である。理事または社員が提案した事項について、社員の全員が書面か電磁的記録で同意の意思表示をしたときは、その提案を可決する決議があったものとみなされる(第14条の9)。全員の同意が条件なので、一人でも返事をしなければ成立しない。逆に言えば、反対がない議題は会議を待たずに確定できる。
学生団体に当てると、オンラインのフォームで賛否を集める運用がこの二つのどちらに当たるかを決めておくことになる。欠席者の票として数えるなら、議題と期限を明記して記録に残す。全員の同意で会議を省くなら、未回答を同意とみなさない。どちらの扱いなのかが曖昧なまま集めた賛否が、後から覆る原因になる。学生の活動を支える仕組みづくりはFLASPOでも扱っている。
よくある質問
法人ではない学生団体も、五日前の通知が必要なのか。法律上の義務はない。第14条の4は法人の社員総会に向けた規定である。ただし通知の期限を会則に書いておかないと、急な招集を断る根拠がなくなる。
グループチャットでの賛否は有効か。会則に書面表決や電磁的方法の定めがあり、議題と期限が明示されていれば、記録として扱える。何も書いていない状態で集めた反応は、決議ではなく意見の集まりとして扱うほうが安全である。
未回答を賛成とみなしてよいか。会議を開かずに可決する方法は全員の同意を条件にしているので、無回答を同意に数えることはできない。期限までに回答がない場合は、次の会議に持ち越す扱いを決めておく。
定足数は何人にすればよいか。法人の定款変更では社員総数の2分の1以上の出席が条件になっている。学生団体では、幽霊会員を含めた名簿で半数を求めると成立しなくなるため、在籍の条件を先に整えてから数を決めるとよい。
代表が一人で決めてよい範囲はどこまでか。法人では、定款で委任した範囲を除いてすべてが総会の決議事項になる(第14条の5)。委任の範囲を会則に書いていなければ、代表の判断で進めた決定が後から覆る余地が残る。
決めたことはどこに残すのか。日付、議題、出席した人数、賛成と反対の数の四つを一か所に書き続けるだけで足りる。様式より継続が重要で、代が替わっても同じ場所に残ることが条件になる。
出典:e-Gov法令検索「特定非営利活動促進法」(平成10年法律第7号)/内閣府NPOホームページ「NPOの基礎知識」
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