出発点になる「満額」は月70,608円
ねんきん定期便の見込額を見て、桁が思っていたより小さいと感じた人は多いだろう。金額を読む土台になるのは老齢基礎年金の満額である。厚生労働省が令和8年1月23日に公表した年金額改定の資料では、令和8年度の老齢基礎年金(満額・1人分)は月額70,608円で、令和7年度の69,308円から1,300円増えた。昭和31年4月1日以前に生まれた人は月額70,408円となる。
満額という言葉には条件が付く。20歳から60歳になるまでの40年間、つまり480か月の保険料をすべて納めた場合の額である。年額では847,300円で、計算式は847,300円に「保険料納付済月数と免除期間を所定の割合で換算した月数の合計」を掛け、480で割る形になる。全額免除の期間は2分の1、4分の3納付の期間は8分の7といった換算が使われる。
この分母が効くので、未納や学生納付特例の扱いで額は素直に目減りする。日本年金機構の計算例では、納付済400か月、全額免除40か月、4分の3納付40か月の人は年額803,170円となる。満額との差は年4万円あまりで、受け取る期間が20年なら90万円近い開きになる。国民年金の保険料そのものは令和8年度が月17,920円、令和9年度は18,290円に改定される。
厚生年金が上に乗ると月23万円台になる前提
報道でよく見る「夫婦2人のモデル年金」は、この満額の上に厚生年金が乗った姿である。令和8年度の標準的な年金額は、夫婦2人分の老齢基礎年金を含めて月額237,279円。令和7年度の232,784円から4,495円増えた。ただしこの数字には明確な前提がある。
厚生労働省の注記では、男性の平均的な収入にあたる平均標準報酬(賞与を含む月額換算)45.5万円で40年間就業した場合の給付水準とされている。賞与込みで月45.5万円を40年続けた人の年金に、配偶者の満額の基礎年金を足した額なので、共働きでも自営でも転職で空白があっても、この形から外れる家計が多い。
厚生年金の額そのものは報酬と加入期間で決まる。報酬比例部分は、平成15年3月までの期間について平均標準報酬月額に1000分の7.125を掛け、平成15年4月以降の期間について平均標準報酬額に1000分の5.481を掛け、それぞれ加入月数を乗じて合算する。率が途中で変わるのは、賞与を含めて計算する総報酬制が平成15年4月に導入されたためで、現役時代の賞与の多寡が後から効いてくる。
経歴の型によってここまで開く
では平均的な人はいくら受け取るのか。厚生労働省は令和6年の財政検証にもとづき、個人単位の加入履歴から経歴の型ごとの年金額を概算して公表している。令和6年度に65歳になる人の加入期間と収入をもとにした、令和8年度の月額がこれである。
| 経歴の型 | 令和8年度の月額(概算) | 厚生年金の平均加入期間 | 加入期間中の平均収入 |
|---|---|---|---|
| 厚生年金期間が中心の男性 | 176,793円 | 39.8年 | 50.9万円 |
| 厚生年金期間が中心の女性 | 134,640円 | 33.4年 | 35.6万円 |
| 第3号被保険者期間が中心の女性 | 78,249円 | 6.7年 | 26.3万円 |
| 国民年金(第1号)期間が中心の男性 | 63,513円 | 7.6年 | 36.4万円 |
| 国民年金(第1号)期間が中心の女性 | 61,771円 | 6.5年 | 25.1万円 |
上と下で11万円以上の差がつく。厚生年金期間が中心の男性では内訳が基礎年金69,951円と厚生年金106,842円で、厚生年金部分が全体の6割を占める。一方で第1号被保険者期間が中心の女性は基礎年金53,119円に厚生年金8,652円が乗るだけで、基礎年金の水準がほぼそのまま生活の土台になる。
注目したいのは、第1号中心の型で基礎年金が満額に届いていないことである。男性48,896円、女性53,119円という内訳は、免除や未納の期間が反映された結果と読める。自営やフリーランスで働く期間が長いほど、保険料の納め方が老後の額に直結する。開業時の届出や社会保険の手続きはフリーランスのなり方を法令で確かめた記事で整理している。
実際に支払われている額はいくらか
推計ではなく、いま振り込まれている額の集計もある。厚生労働省の「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」では、令和6年度末現在の厚生年金保険(第1号)の老齢年金受給者の平均年金月額は151,142円だった。これは併給する老齢基礎年金を含んだ額で、令和5年度末の147,360円から3,782円増えている。
国民年金のほうは、老齢年金受給者の平均年金月額が59,431円である。令和6年度の新規裁定者では56,374円と低く、基礎のみ共済なし・旧国年の受給者に絞ると54,578円になる。満額の70,608円と比べて1万円から1万6千円ほど下に位置しており、40年間すべて納めた人が多数派ではないことを示している。
受け取り方の違いも額に出る。老齢基礎年金(25年以上)の受給者3,289万人の平均は59,521円だが、繰上げを選んだ330万人は46,448円、本来の時期の2,875万人は60,503円、繰下げた84万人は77,244円だった。繰上げと繰下げの間には3万円の開きがあり、受け取り始める時期の選択が生涯の水準を決めている。
毎年度の改定はどう決まるのか
年金額は固定ではなく、毎年度改定される。令和8年度は国民年金(基礎年金)が1.9%、厚生年金(報酬比例部分)が2.0%の引上げとなった。物価変動率は3.2%だが、物価が名目手取り賃金を上回る場合は現役世代の負担能力に合わせて名目手取り賃金変動率を使うと法律で定められており、令和8年度は2.1%が採用された。
そこからマクロ経済スライドによる調整が引かれる。令和8年度の調整率は基礎年金が0.2%、報酬比例部分は令和7年の制度改正により3分の1に緩められて0.1%。2.1%から差し引いた結果が1.9%と2.0%という改定率である。公的年金被保険者総数の変動率0.1%と平均余命の伸び率0.3%から調整率が算出される仕組みで、この調整は平成27年度以降で7回発動している。
物価が3.2%上がって年金が1.9%しか上がらない年は、実質的な目減りが起きる。将来世代の給付水準を確保するための調整という位置づけだが、受け取る側からすれば購買力が削られる。働く人の数が減り続ける構造そのものについては少子高齢化が若者世代にもたらすものを整理した記事でも触れている。
よくある質問
自分の見込額を正確に知る方法はありますか。 ねんきんネットや毎年のねんきん定期便で、これまでの加入記録にもとづく見込額を確認できる。平均や概算はあくまで型の話で、加入期間と報酬の履歴は一人ずつ違う。記録に抜けがないかを先に確かめるほうが、額の予想よりも実益が大きい。
国民年金だけの人が額を増やす手立てはありますか。 付加保険料を納めると、200円に納付済月数を掛けた額が年額に上乗せされる。60歳から65歳になるまでの任意加入で満額に近づける道もあり、免除を受けた期間の追納も反映される。学生納付特例や納付猶予の期間は、追納しなければ額に反映されない点が落とし穴である。
共働きだとモデル年金より多くなりますか。 夫婦それぞれに厚生年金が付くため、合計では標準的な年金額を上回る組み合わせもある。ただし配偶者が被扶養から外れていた期間の報酬水準や加入年数で結果は変わる。経歴の型の表で、厚生年金期間が中心の女性と第3号中心の女性の差が5万6千円あるのが目安になる。
働きながら受け取ると減りますか。 賞与込みの月収と老齢厚生年金の合計が支給停止調整額を超えると、超過分の半分が止まる。この額は令和7年度の51万円から令和8年度は65万円に引き上げられており、以前より止まりにくくなった。止まるのは厚生年金部分で、基礎年金は影響を受けない。
年金だけで暮らせる水準なのでしょうか。 平均で見ると国民年金のみの人は月6万円弱で、生活費を賄う前提には置きにくい。住居費が低い地域に移る、兼業で収入を足す、支出の固定費を組み替えるといった対応が現実的な選択肢になる。地方での暮らしや働き方の組み替えはFLASPOでも継続して取り上げている。
出典:厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」、同「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」、日本年金機構「老齢年金ガイド 令和8年度版」、同「令和8年4月分からの年金額等について」
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