地元の産品が若い世代から離れている、という話はよく聞く。ところが国の調査を開くと、その前提のほうが揺らぐ。郷土料理や地域の味を受け継ぐことを「大切だ」と答えた割合は、20代から30代のほうが全世代の平均より高い。離れているのは気持ちではなく、触れる場所のほうらしい。どこで切れているのかを、数字の並びから追ってみる。
「大切だ」と答える割合は、若い世代のほうが高い
農林水産省が令和7年3月に公表した食育に関する意識調査報告書は、全国の2,365人に食生活のことを尋ねている。その中に、郷土料理や伝統料理など地域や家庭で受け継がれてきた料理や味、食べ方や作法を受け継ぐことは大切だと思うか、という問いがある。
全世代では86.1パーセントがそう思うと答えた。20歳から39歳に絞ると89.0パーセントで、平均を2.9ポイント上回る。逆に最も低かったのは70歳以上の男性で75.8パーセントだった。世代が下がるほど関心が薄れるという図式は、この設問では成り立っていない。
もっとも、大切だと思うことと、実際にそうしていることは別である。同じ調査は行動のほうも聞いている。
受け継いでいる割合は、世代でほとんど変わらない
受け継いでいるかを尋ねた設問では、全世代の64.7パーセントが受け継いでいると答えた。20歳から39歳では62.5パーセントで、差は2.2ポイントしかない。行動の面でも、若い世代がとりたてて落ち込んでいるわけではなかった。
目立つのは世代よりも性別の差である。男性の20代は57.0パーセント、30代は55.6パーセントで、同じ年代の女性の68.4パーセント、67.2パーセントを10ポイント以上下回る。意識と行動の二つを並べると、次のようになる。
| 区分 | 受け継ぐことは大切 | 実際に受け継いでいる | 差 |
|---|---|---|---|
| 全世代 | 86.1% | 64.7% | 21.4ポイント |
| 20〜39歳 | 89.0% | 62.5% | 26.5ポイント |
| 男性20〜39歳 | 84.5% | 56.2% | 28.3ポイント |
| 女性20〜39歳 | 92.8% | 67.7% | 25.1ポイント |
| 女性60〜69歳 | 88.4% | 76.8% | 11.6ポイント |
右端の列が問題の在りかを示している。若い世代は思いと行いの間が26.5ポイント空いており、60代の女性の11.6ポイントの倍以上になる。気持ちが足りないのではなく、気持ちを行いに変える場面が足りていない。
買う場面になると、差はもっと開く
同じ調査には、日頃から環境に配慮した農林水産物や食品を選んでいるかという設問もある。有機農産物や、包装が過剰でない商品などを指す問いだ。選んでいると答えた割合は全世代で61.3パーセント、20歳から39歳では45.5パーセントで、15.8ポイントの開きがあった。
この設問が特産品と結びつくのは、選ばれている中身のほうにある。環境に配慮した食品として実際に何を選んでいるかを尋ねた項目には、近隣の地域で生産・加工されたものという選択肢が含まれる。産地を近くに保つことは、この調査の枠組みでは環境への配慮の一部として数えられている。
内訳を見ると、男性の20代が37.2パーセント、30代が37.0パーセント、女性の20代が39.8パーセントで、いずれも4割を割っている。最も高いのは60代の女性の77.6パーセントだった。ここでは世代の差がはっきり出ている。
受け継ぐことへの意識では平均を上回り、選ぶ行動では平均を大きく下回る。この二つを並べると、若い世代にとって足りていないのは動機ではなく、店頭で選べる状態のほうだと読める。なお国は第4次食育推進基本計画で、環境に配慮した食品を選ぶ人の割合を令和7年度に75パーセント以上とする目標を掲げている。
接点が家庭に寄りすぎている
では、どうすれば受け継がれるのか。この点も調査は尋ねている。必要なこととして挙がった割合が最も高かったのは「親等から家庭で教わること」の88.5パーセントで、以下は「子供の頃に学校で教わること」と「ふだん食べているもののうち、どれが郷土料理や伝統料理かを知る機会を増やすこと」がともに46.0パーセントで並ぶ。
その下は地域コミュニティで教わることが21.5パーセント、食に関するイベント等で教わることが18.1パーセント、出版物やテレビ、ウェブサイト等のメディアで教わることが17.7パーセントと続く。家庭を挙げた人が9割近いのに対し、地域や催しは2割前後にとどまる。
最も低かったのは、結婚や出産等の人生の節目で教わることの13.9パーセントだった。かつては世帯を持つ時期に味が引き継がれたはずだが、そこに期待している人は7人に1人にとどまる。
進学や就職で実家を離れた世代にとって、1位の経路は使えなくなっている。世帯の形が変われば、家庭だけに載せた伝え方は届く範囲が狭くなる。3位に並んだ「どれが郷土料理かを知る機会」が46.0パーセントを集めた事実は、産地の側が名前と背景を示す余地がまだ残っていることを意味する。
産地から若い世代に向かうときの順番
届ける経路の数字も押さえておきたい。経済産業省の令和6年度電子商取引に関する市場調査によれば、2024年の食品・飲料・酒類のBtoC-EC市場規模は3兆1,163億円で、EC化率は4.52パーセントだった。総務省のふるさと納税に関する現況調査では、令和7年度のふるさと納税の受入件数が約5,963万件に達している。画面から食べものが動く量は、確実に増えている。
この経路に乗せるとき、産地が先にすべきことは値付けでも撮影でもない。何が特産品なのかを、産地の外の人が読んで分かる言葉に直すことだ。調査で46.0パーセントが「どれが郷土料理か知る機会」を挙げたのは、まさにここが欠けているという申告に近い。
その言い換えを地域の中だけで進めると、身内に通じる言葉のまま止まりやすい。外から若い書き手を招いて一緒に作る形を取れば、伝わらない言葉が先に見つかる。地域と若者をつなぐFLASPOのような仕組みは、その接点のひとつになる。背景から理解したいなら食文化とは?ユネスコ無形文化遺産「和食」の定義と若者の関わり方、参加の形を知りたいなら地域活性化とは?地方創生との違い・若者参加型の成功事例10選、産品そのものを眺めるなら【47都道府県】特産品一覧|地方別の有名グルメと入手方法を総まとめが入口になる。
よくある質問
若い世代は地域の産品に関心がないのですか。調査の数字はその見方を支持していません。20歳から39歳のうち89.0パーセントが、受け継ぐことは大切だと答えています。全世代の86.1パーセントより高い水準です。関心の有無ではなく、触れる機会の量が論点になります。
男性の若い世代だけ数値が低いのはなぜですか。調査は理由までは示していません。分かるのは、受け継いでいると答えた割合が男性の20代で57.0パーセント、同じ年代の女性で68.4パーセントという差です。台所に立つ頻度の違いが背景にあると考えるのが自然ですが、確かめられているのはあくまで割合の差までです。
学校での食育は効いているのでしょうか。必要なこととして子供の頃に学校で教わることを挙げた人は46.0パーセントで、家庭に次ぐ2番目でした。期待は大きい一方、家庭の88.5パーセントとは開きがあります。学校だけで補える規模ではないという読み方もできます。
自治体や産地は何から着手すべきですか。どれが地域の産品なのかを外の人に分かる形で示すところからです。46.0パーセントが知る機会の不足を挙げています。新しい催しを立ち上げる前に、すでに売っているものの説明書きを見直すほうが費用もかかりません。
通販に力を入れれば若い世代に届きますか。届く確率は上がりますが、それだけでは足りません。食品のEC化率は4.52パーセントで、物販の中では低い水準にあります。画面に並べるだけでなく、なぜその産地なのかを読める状態にして初めて選ばれます。
出典
農林水産省「食育に関する意識調査報告書」(令和7年3月、有効回収数2,365人、食育に関する意識調査)/経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」(2025年8月26日公表)/総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和8年度実施)」
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