冷蔵庫に入れるものを画面から買う人は、まだ多数派ではない。国の調査によれば、物販のうちネットを通る割合は分野によって10倍以上の開きがあり、食品はその下のほうにいる。産地が通信販売に手を出すかどうかを考えるとき、この「まだ通っていない」という事実は、不利な条件にも、空いている棚にも読める。どちらに読むかで、最初に用意するものが変わる。
食品のネット販売は3兆円を超え、それでも4.52パーセント
経済産業省の令和6年度電子商取引に関する市場調査によると、2024年の国内BtoC-EC市場規模は26兆1,225億円だった。このうち物販系分野は15兆2,194億円で、商取引全体に占める割合、つまりEC化率は9.78パーセントとなっている。食品・飲料・酒類はその中で最大の3兆1,163億円を占め、前年比6.36パーセント増と伸びてもいる。
ところが同じ分類のEC化率は4.52パーセントにとどまる。金額では首位でありながら、比率では下から数えたほうが早い。この二つの数字が同居しているところに、産地にとっての判断材料がある。分類ごとに並べると差がはっきりする。
| 物販の分類 | 2024年の市場規模 | EC化率 |
|---|---|---|
| 食品、飲料、酒類 | 3兆1,163億円 | 4.52% |
| 衣類・服装雑貨等 | 2兆7,980億円 | 23.38% |
| 生活家電、AV機器、PC・周辺機器等 | 2兆7,443億円 | 43.03% |
| 生活雑貨、家具、インテリア | 2兆5,616億円 | 32.58% |
| 書籍、映像・音楽ソフト | 1兆8,708億円 | 56.45% |
| 化粧品、医薬品 | 1兆150億円 | 8.82% |
| 自動車、自動二輪車、パーツ等 | 3,336億円 | 4.16% |
書籍の56.45パーセントと食品の4.52パーセントは、同じ物販でありながら12倍以上離れている。棚に並ぶものの性質が違うのだから当然ともいえるが、差の大きさは覚えておいて損がない。
比率が低いのは、売れないからではない
本や家電がネットに移りやすいのは、どこで買っても中身が同じで、送っても傷まず、重さのわりに単価が高いからだ。食品はその三つとも逆をいく。同じ産地の同じ品種でも収穫日で味が動き、鮮度は時間とともに落ち、1箱の中身は数千円にしかならないのに冷蔵便の運賃がかかる。
この構造を数字で確かめる方法はひとつある。1箱あたりの売価から、送料、箱代、決済手数料、モールの手数料を引いて手取りを出し、同じ量を地元の直売所に出した場合と並べてみることだ。差が出ないなら、通信販売は売上を増やす手段ではなく、売り先を分散させる手段として位置づけたほうが判断を誤らない。
個人どうしの取引にも目を向けておきたい。同じ調査では2024年のCtoC-EC市場規模を2兆5,269億円と推計しており、前年より1.82パーセント増えている。フリマアプリで規格外の野菜や自家製の加工品が動く流れは、統計の上でも確認できる。産地が最初の一歩を踏み出す場所として、この経路を選ぶ人もいる。
逆に言えば、比率が低いということは、まだ多くの人が食品を店で買っているということでもある。競争相手が少ない棚に、遅れて入る余地が残っている読み方も成り立つ。
1兆3,314億円が、別の入口から産地に流れている
注文を受けて産品を送る仕事は、通信販売という名前だけで動いているわけではない。総務省のふるさと納税に関する現況調査によれば、令和7年度のふるさと納税の受入額は約1兆3,314億円、受入件数は約5,963万件だった。1件あたりに直すと22,328円になる。
産地の作業場から見れば、寄附であろうと注文であろうと、箱に詰めて伝票を貼る手間は変わらない。違うのは、集客と決済を自治体とポータルが引き受けてくれる点と、返礼品の内容や割合に制度上の制約がかかる点である。
もうひとつ押さえておきたいのが季節の偏りだ。寄附は年末に集中するため、その時期に箱を詰められる人手があるかどうかで、登録してよい品目数が決まる。人手の見積もりを先にせず品目だけ増やすと、繁忙期に発送が滞る。
海外へ向いた窓口も、同じ調査の中にある
令和6年度電子商取引に関する市場調査は、日本・米国・中国の3か国間の越境取引も推計している。2024年に中国の消費者が日本の事業者から買った金額は2兆6,372億円で、前年比8.5パーセント増だった。同じ中国の消費者が米国の事業者から買った額は3兆1,397億円である。
この規模は、個々の産地が直接取りにいける数字ではない。ただ、越境の受け皿となるモールや代行事業者は、この市場を前提に手数料と物流を組み立てている。乾物や調味料、菓子のように常温で日持ちする品を持っている産地なら、国内向けの棚を作るついでに検討する価値はある。
注意すべきは、輸出には相手国の食品表示や検疫の規則が絡むことだ。国内向けのラベルをそのまま貼れる保証はないため、代行事業者を使う場合でも、どちらが表示の責任を負うかを契約の段階で確かめておきたい。
始める前に決めておく三つのこと
農林水産省の6次産業化の動向によれば、令和6年度の農産物直売所の年間販売金額は1兆1,344億円だった。店頭で売る道がこれだけの規模で存在している以上、通信販売は「棚を足す」判断として考えるのが現実的である。足すときに先に決めておきたいのは、次の三つだ。
ひとつめは、送料を誰が負担するかである。送料無料と書けば売れやすいが、その分は売価に乗る。1箱の中身を増やして単価を上げるのか、送料別で安く見せるのかは、扱う品の日持ちと箱の大きさで答えが変わる。
ふたつめは、出す期間を区切ることだ。年中注文を受けられる体制がないなら、旬の3か月だけ開けて残りは閉じるほうが、評価も作業も安定する。みっつめは、写真と説明を誰が書くかである。ここを後回しにすると、良い品でも画面の上では選ばれない。
産地の側に書き手や撮り手がいない場合、外から若い人の手を借りる方法もある。地域と若者をつなぐFLASPOのような仕組みは、その入口のひとつになる。送り方の全体像を先に押さえたいなら産地直送とは?通常流通との違いや人気ECおすすめ10選を解説、買う側がどう選んでいるかを知りたいなら【2026年】お取り寄せグルメの選び方と人気ランキングおすすめ10選、扱う品の幅を眺めるなら【47都道府県】特産品一覧|地方別の有名グルメと入手方法を総まとめが手がかりになる。
よくある質問
食品のEC化率が低いのは伸びていないからですか。いいえ。食品・飲料・酒類の市場規模は2023年の2兆9,299億円から2024年は3兆1,163億円へ、前年比6.36パーセント増えています。EC化率も4.29パーセントから4.52パーセントに上がっており、金額も比率も伸びた上での4.52パーセントです。
自社サイトとモールはどちらから始めるべきですか。国の調査には両者を分けた統計がないため、規模から答えは出せません。判断材料になるのは手数料と集客の負担です。モールは手数料が高いかわりに人が来ます。自社サイトは手数料が低いかわりに、来てもらう仕掛けを自前で用意することになります。
ふるさと納税の返礼品と通常の通信販売は両立しますか。作業としては両立しますが、発送の山が重なるかどうかを先に見てください。寄附は年末に偏ります。同じ時期に自社の注文も取ると、収穫と発送と梱包が一度に来ます。片方の受付を止める期間をあらかじめ決めておくのが安全です。
越境ECはどのくらいの品数から考えるべきですか。品数より、常温で長く日持ちする品があるかどうかが先です。冷凍や冷蔵を海外に送る費用は高く、少量では合いません。まず常温品で試し、通関と返品の手順を覚えてから広げる順番になります。
生鮮品は通信販売に向きませんか。向き不向きというより、クレームの起きやすさが違います。到着時の状態を写真で送ってもらう窓口を用意し、再送か返金かの基準を先に決めておけば扱えます。基準がないまま始めると、個別の対応に時間を取られて採算が崩れます。
出典
経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」(2025年8月26日公表、電子商取引実態調査)/総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果(令和8年度実施)」/農林水産省「6次産業化の動向」(6次産業化総合調査、令和6年度)
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