農業体験の里山は誰が守るのか|重要里地里山500か所と自然共生サイト610か所

田植えの田んぼも、薪を拾う林も、誰かが手を入れ続けている

農業体験の募集ページに並ぶ風景は、放っておいてそこにあるものではない。田が水を張り、畦が刈られ、背後の林に人の手が入っている状態が保たれているから、体験の受け入れが成り立つ。環境省は、こうした農地と二次林、二次草原が混ざった土地を里地里山と呼び、国土の約4割を占めると説明している。

問題は、その4割を同じ密度で維持できなくなってきたことだ。環境省は選定の背景として、人口減少が進むなかで全ての里地里山を従来どおり保全することは困難であり、保全の対象と将来像を明確にする必要があったと書いている。体験の場が減るかどうかは、この取捨選択の結果にかかっている。参加する側から見た位置づけは農業体験が関係人口のどこに入るかの整理と合わせて読むと見通しが立つ。

国の制度には、この土地を名指しして位置づける仕組みが二つある。10年前に線を引いた重要里地里山の選定と、いま毎年増えている自然共生サイトの認定である。名前も根拠も違うが、どちらも「手入れが続いている土地を地図の上で数える」という点で共通している。

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重要里地里山500か所は、10年前に引かれた線である

環境省が生物多様性保全上重要な里地里山として全国500箇所を選んだのは2015年12月18日のことだ。発表元は自然環境局自然環境計画課。きっかけは平成24年度に閣議決定された生物多様性国家戦略で、里地里山の保全活用の推進が重点施策の一つに掲げられたことだった。

選定の基準は三つに整理されている。多様で優れた二次的自然環境を有すること、里地里山に特有で多様な野生動植物が生息・生育すること、生態系ネットワークの形成に寄与すること。手順としては、全国規模の既存調査データと地方公共団体などへの照会で集めた地域情報から候補地を抽出し、有識者13名で構成する里地里山保全・活用検討会議が評価した。座長は東京農業大学名誉教授の進士五十八氏で、地域特性を考慮して地域ごとの分科会を開くなどの精査を経ている。

選んだ先の使い道も書かれている。多様な主体による保全活用の実行性を高める取組の促進と拡大に用いるとしたうえで、地域における農産物のブランド化や観光資源としての幅広い活用も見込むとしている。つまり500か所は、保護区のように人を遠ざける線引きではなく、人が入って使い続けることを織り込んだ線引きだった。農業体験や直売が成り立つ余地は、この時点で制度の側に書き込まれている。

いま増えているのは自然共生サイトという枠

10年前の選定が国の側から選ぶ仕組みだったのに対し、現在動いているのは土地の持ち主や活動団体が手を挙げて認定を受ける仕組みである。環境省は令和5年度に、民間の取組等によって生物多様性の保全が図られている区域を認定する制度を始めた。資料ではこれを従前制度と呼ぶ。2024年4月に地域生物多様性増進法が成立し、2025年4月に施行されて、認定は法律に基づくものへ移った。

数字は積み上がっている。令和8年6月30日の令和8年度第1回認定では、55か所の増進活動実施計画と1か所の連携増進活動実施計画、計56か所が主務大臣に認定された。従前制度での認定も含めると、令和8年6月末時点の自然共生サイトは合計610か所、11.9万haになる。

区分 か所数 面積
従前制度のまま残る法定外のサイト 187か所 6.3万ha
法定の自然共生サイト(移行分) 141か所 2.9万ha
法定の自然共生サイト(新規) 282か所 2.6万ha
法定分の計 423か所 5.5万ha
合計(令和8年6月末時点) 610か所 11.9万ha

参考として、従前制度のもとで令和6年度までに認定されたのは328か所、9.3万haだった。認定された区域は、保護地域との重複を除いてOECMとして国際データベースに登録される建てつけになっている。

認定の内訳に、体験の場がそのまま並んでいる

令和8年度第1回の56か所を生態系タイプ別に数えた表が、この制度と農業体験の距離を一番よく示している。環境省は、里山林や人工林、都市の緑地など身近な自然環境について多く認定したと総括している。

生態系タイプ 認定数
里山林 24
人工林 24
創出緑地 20
二次草原・草地 17
水田 12
低層湿原・湿地 8
畑・果樹園・牧草地 7
天然林 5
河川・湖沼 5
自然草原 2

一つのサイトが複数のタイプを持つため合計は56を超えるが、傾向は読み取れる。原生的な天然林は5にとどまり、里山林と人工林が各24、水田12、畑・果樹園・牧草地7と、人が使ってきた土地が上位に来ている。農業体験で田植えや収穫を受け入れている現場と、同じ性格の土地が認定されていると考えてよい。

類型で見ると、55か所の増進活動実施計画のうち維持タイプが47か所、回復タイプが5か所、創出タイプが3か所で、割合は維持84パーセント、回復11パーセント、創出5パーセントになる。新しく何かを作る認定は少なく、いまの手入れを続けることを計画として示した認定が大半を占める。

申請しているのは企業が半分、個人は3パーセント

誰が手を挙げているのかも公表されている。令和8年度第1回の申請主体別では企業57パーセント、NPO等の他団体29パーセント、地方公共団体9パーセント、個人3パーセント、国2パーセント。環境省は、企業からの申請が約半数で、NPO、教育機関、地方公共団体など様々な主体が参画していると書いている。

この比率は、体験の受け入れ先を探す側にとって手がかりになる。社有林や工場の緑地を認定に出した企業は、活動の継続を計画として書いているため、見学や作業体験の受け入れ窓口を持っていることがある。逆に個人の農家が単独で認定を取るのは3パーセントにとどまるので、個人の田畑での体験は自然共生サイトとは別の経路、たとえば市民農園や体験農園、農泊の仕組みから探すことになる。体験から仕事につながるかという論点は農業体験と就農の距離に、学びの文脈に置き直す見方は農業体験と食育の結びつきにそれぞれ整理がある。

学生として関わるなら、認定の有無をいきなり問い合わせるより、活動団体の年間の作業暦に自分の空く時期が合うかを先に見たほうが話が早い。維持タイプが8割という事実は、草刈りや間伐、水路の泥上げのような反復作業が活動の中心だという意味でもある。地域での関わり方を具体的に組み立てる段階ではFLASPOのような窓口で、受け入れ側の事情を含めて相談しておくと空振りが減る。

よくある質問

重要里地里山と自然共生サイトは何が違うのか。前者は2015年に環境省が全国500箇所を選んだもので、国の側が重要性を評価して線を引いた。後者は令和5年度に始まり2025年4月施行の地域生物多様性増進法に移った制度で、申請を受けて主務大臣が認定する。選ばれる側が動くか、手を挙げる側が動くかという違いである。

認定されている場所なら誰でも入れるのか。認定は生物多様性の保全が図られていることへの評価で、立ち入りの権利を作る制度ではない。土地は依然として所有者や管理者のものなので、見学や作業参加は各サイトの受け入れ方針に従う。

自分の関わっている農地を認定に出せるのか。申請主体には個人も含まれており、令和8年度第1回では3パーセントが個人からの申請だった。ただし求められるのは増進活動実施計画という形で続ける内容を示すことなので、単年度の体験イベントだけでは組み立てにくい。

体験の場として数が増えていると言えるのか。認定数は令和6年度までの328か所から令和8年6月末の610か所へ増えているが、これは保全活動が認定を受けた数であって、体験を受け入れる場の数ではない。重なる部分は里山林24や水田12といった内訳から推測できる程度で、体験の募集状況は別に確かめる必要がある。

出典は環境省の生物多様性保全上重要な里地里山の選定に関する報道発表と、地域生物多様性増進法に基づく自然共生サイトについて(令和8年度第1回)である。


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