移住をやめるときに何が起きるか|誓約書5項目と年10.95%の加算金

移住がうまくいかなかったという話は、体験談の形でいくらでも読める。ところが公的な統計を探すと、失敗した移住者を数えた欄はどこにも見当たらない。代わりに細かく書かれているのは、出ていくときに何を返すかという手続きのほうである。

数えられているのは、出ていった人ではなく入ってきた人

国の資料がつかんでいるのは、支援金を受け取った件数や転入の数である。そこから何人が去ったかは集計の対象になっていない。移住先の市町村にとっては転出者の一人として処理されるだけで、移住者だったかどうかは住民票に書かれていないからだ。

近いところを見ている調査はある。経済・財政一体改革推進委員会の会合に提出された「移住に関する一般生活者調査」は、慶應義塾大学とデロイトトーマツコンサルティングが2024年11月20日から25日にかけて行ったウェブ調査で、全国20歳から89歳の1,880名から回答を集めている。回答者は地方への関わり方で4つに分けられ、移住・居住の経験がある層が500名、短期滞在などで関わる層が380名、ふるさと納税などで支える層が500名、特定の地域ではないが関心を持つ層が500名という構成だ。

この調査が最初に示すのは、関心の低さである。現時点で特に地方に関心はないと答えた人が56.1パーセント、特定の地域に興味・関心があるという人は16.6パーセントにとどまる。残りの27.3パーセントは、特定の地域ではないが地方部に関心があるという層だった。

障壁として挙がった項目は、雇用機会、生活サービス環境、家族の協力、地域の人間関係である。転居した理由や転居を検討している理由としては、住環境と雇用機会が主な要因とされた。移住を決めた人が後から離れる場合も、同じ傾向が見られるというのが報告のまとめ方だ。暮らしに密着した条件が、入るときと出るときの両方で効いていることになる。

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国の側が返還の事由として挙げているのは2つだけ

制度の条文に戻ると、話は急に具体的になる。地方創生移住支援事業は内閣府が枠を示し、都道府県と市町村が実施する仕組みで、支給額は世帯で100万円以内、単身で60万円以内。18歳未満の世帯員を連れて移る場合は、1人につき最大100万円が加算される。

申請の条件として置かれているのが、転入後1年以内に申請することと、申請後5年以上その市町村に住み続ける意思があることだ。意思という言葉が使われているとおり、ここで求められているのは誓約であって契約ではない。

そのうえで内閣府の案内が返還の事由として挙げているのは2つしかない。申請から5年以内に移住先から転出した場合と、虚偽の申請をした場合である。逆に言えば、国の枠が定めているのはこの2行だけで、いくら返すかという割合は書かれていない。金額の設定と同じく、返す額の決め方も自治体に委ねられている。

費用の全体像のなかで支援金をどう扱うかは移住費用と支援金で整理した。ここでは、その条件を実際の書面に落とすと何行になるのかを見ていく。

石狩市の誓約書は、事由を5つに割っている

北海道石狩市が交付申請の様式に添えている誓約事項は、返還の場面を事由ごとに分けて書いている。移住支援金交付要綱にもとづくものとして、全額を返す場合と半額を返す場合が並ぶ形だ。

事由 返す額
申請にあたって虚偽の内容を申請したことが判明した場合 全額
申請日から3年未満に市外へ転出した場合 全額
申請日から3年以上5年以内に市外へ転出した場合 半額
就業で申請し、申請日から1年以内に要件を満たす職を辞した場合 全額
起業で申請し、道の起業支援補助金の交付決定を取り消された場合 全額

石狩市「移住支援金の交付申請に関する誓約事項」より作成。就業の区分と起業の区分は、それぞれの類型で申請した人だけに掛かる。

並べてみると、5年という年数が一枚岩ではないことがわかる。3年を境に全額と半額が切り替わり、就業で申請した人には最初の1年に別の線が引かれている。仕事が合わずに辞めた場合、市内に住み続けていても全額の対象になる設計だ。

誓約の対象は金額だけではない。報告や立入調査を求められたら応じること、住所や連絡先が変わったら届け出ること、市が居住や就業の状況を他の市町村や都道府県、国に照会することに異議を申し立てないことも、同じ書面に並んでいる。受け取った後も状況を確認され続ける前提で組まれている。

返す日までの日数に、年10.95パーセントが掛かる市もある

返す額そのものより効くのが、そこに乗る加算金である。長崎市の案内は、申請日から5年以内に市外へ転出した場合、補助金の全額または半額を一括で返すこと、そして受領日から返還日までの日数に応じた加算金が発生することを明記している。利率は年10.95パーセントだ。

100万円を受け取って3年後に返す場面を置くと、元の額のほかに日数ぶんの加算が乗る。転職や家族の事情で急に動くとき、一括という条件と合わせて現金の用意が要ることになる。

ただし同じ案内には、逃げ道にあたる一文も置かれている。転出のおそれがある場合は、転出する前に届出を行えば返納を申し出ることができ、その場合は加算金が発生しないという扱いだ。黙って出てから請求されるのと、先に申し出るのとでは、同じ返還でも負担が変わる。

申請の側にも期限がある。長崎市の受付は年度の4月1日から2月15日までで、予算がなくなり次第終了とされ、申請は同一世帯で1回限りだ。年度末ぎりぎりまで開いているわけではないため、転入の時期によっては年度をまたぐ待ちが生じる。

20代が確かめる順番は、金額より先に対象の線

若い世代がこの制度に当たるとき、返還の前に引っかかるのは対象要件のほうである。移住元の条件は、転入直前の10年間で通算5年以上、東京23区に住んでいたか東京圏に住みながら23区へ通勤していたこと、しかも直近1年以上は23区での在住または通勤が必要というものだ。

大学を出てすぐに地方へ移る人は、この5年に届かないことが多い。23区の企業に就職して数年で地元へ戻る形だと、年数が足りずに対象から外れる。起業の類型との組み合わせでつまずく理由はUターン起業に移住支援金が届かない理由で扱っている。

一方で、令和8年度の実施団体一覧には「移住」と並んで「学生」という欄が設けられている。令和6年度に新設された地方就職学生支援事業のぶんで、市町村ごとに丸が付くかどうかが分かれる。自分の行き先がどちらの欄に該当するのかは、支給額を調べる前に確かめておきたい。

暮らしの側で何が起きるかを先に知っておくことも、返還の場面を遠ざける。仕事と車と買い物の条件は移住のデメリットを先に知るで整理した。制度に当たる前に地域と細く長く関わっておく方法は、FLASPOでも取り上げている。

よくある質問

5年たつ前に転出したら、必ず返すことになりますか。

返還の対象になります。ただし額は自治体の要綱で決まり、石狩市のように3年を境に全額と半額を分ける例があります。市外への転出が条件なので、同じ市のなかで引っ越す場合は該当しません。

転職しただけでも返還になりますか。

就業の類型で申請した場合は、注意が要ります。石狩市の誓約事項では、申請日から1年以内に要件を満たす職を辞した場合は全額の返還とされています。1年を越えていれば、居住を続けるかぎりこの事由には当たりません。

加算金はどの自治体にもありますか。

要綱によって異なります。長崎市は年10.95パーセントと明記していますが、すべての自治体が同じ利率を置いているわけではありません。申請先の要綱で、返還の割合と加算金の有無をあわせて確認するのが確実です。

返せないときはどうなりますか。

公表されている案内に分割や免除の規定は見当たりません。長崎市のように、転出の前に届け出れば加算金なしで返納を申し出られる扱いはあります。事情が変わりそうな段階で窓口に相談するほうが、選べる手が残ります。

移住して失敗した人の割合を示す統計はありますか。

見当たりません。住民基本台帳に移住者という区分がないため、転出した人のうち何人が移住者だったのかを分けて数える仕組みがないからです。近いものとしては、転居の理由を尋ねた調査で住環境と雇用機会が主な要因として挙がっています。

出典:内閣府「移住支援金」、石狩市「移住支援金の交付申請に関する誓約事項」、長崎市「長崎市移住支援補助金」、直井道生「提出資料(第3回Well-being特別セッション)」。


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