数えられてきたのは、受け入れた側ばかりだった
地域活性化起業人の記事を読むと、たいてい何人が何団体に入ったかという話で終わる。だが、この制度は社員を送り出す企業がいなければ一人も成立しない。送り出している会社がどこで、何社あるのかは、同じ資料の後ろのほうに載っている。
総務省が令和8年4月24日に公表した令和7年度における地域活性化起業人の状況等によると、企業派遣型の活用企業数は前年度から85社増えて475社になった。起業人の総数は企業派遣型904人、副業型299人、シニア型12人の合計1,215人で、受け入れた自治体は538団体である。
904人を475社で割ると、1社あたり1.9人。半数近くの会社が一人だけを出している計算になり、常設の派遣部門を持つような構えではないことがうかがえる。
5年で2.5倍になった送り手の数
企業数の伸び方は、人数の伸び方とそろっていない。年度ごとに並べると差がはっきりする。
| 年度 | 活用企業数(企業派遣型) | 起業人の人数(全型) | 受入自治体数 |
|---|---|---|---|
| 令和3年度 | 188社 | 395人 | 258団体 |
| 令和4年度 | 252社 | 618人 | 368団体 |
| 令和5年度 | 330社 | 779人 | 449団体 |
| 令和6年度 | 390社 | 871人 | 439団体 |
| 令和7年度 | 475社 | 1,215人 | 538団体 |
令和3年度からの5年で、企業数は2.5倍、人数は3.1倍になった。人数の伸びが上回るのは、令和6年度に始まった副業型が299人まで増え、令和7年度に創設されたシニア型が12人加わったためで、これらは社員の在籍企業ではなく個人と自治体の契約による。つまり、企業そのものを巻き込む企業派遣型は、見かけの総数ほどには速く増えていない。
上位にいるのは、地域に拠点を持ちたい業種である
475社の顔ぶれには偏りがある。資料に挙げられた上位の企業と人数は次のとおりだ。
| 企業名 | 令和7年度の人数 |
|---|---|
| 株式会社JTB | 30人 |
| AKKODiSコンサルティング株式会社 | 22人 |
| ソフトバンク株式会社 | 21人 |
| 株式会社ABC Cooking Studio | 17人 |
| 富士通Japan株式会社 | 17人 |
| 日本航空株式会社 | 14人 |
| サントリーホールディングス株式会社 | 14人 |
| 株式会社エイチ・アイ・エス | 14人 |
| 合同会社DMM.com | 13人 |
| KDDI株式会社 | 9人 |
旅行会社と通信・ITが目立つ。これは自治体が求める業務の内訳と重なっていて、1,215人の担当分野はDXが293人で24パーセント、観光振興・観光誘客対策・DMO設立等が253人で21パーセント、地域経済活性化・雇用対策・人材育成・企業誘致等が135人で11パーセントだった。この3分野で過半を占める。
上位に入らない分野の数字も見ておきたい。地域産品の開発・販路開拓が85人、移住促進・都市農村交流・交流人口の拡大が86人、教育が55人、広報業務が50人と続き、ここから下は総務が35人、脱炭素などのGXが35人、農林水産が34人、地域商社の立ち上げなど中間支援が22人、保健衛生や環境などの衛生が15人、土木が14人、子育てや福祉などの民生が9人と小さくなる。暮らしに直結する分野ほど、外から来た社員に任せる例が少ない。
上位10社だけで171人、904人の19パーセントにあたる。残りの700人余りを460社以上で分け合っている形で、数社の大企業と、多数の一人派遣の会社に分かれているのが実像である。
出せる会社かどうかは、所在地で決まっている
どの会社でも送り出せるわけではない。地域活性化起業人制度推進要綱(令和8年3月23日一部改正)は、派遣時の勤務地に条件を置いている。三大都市圏、すなわち埼玉・千葉・東京・神奈川・岐阜・愛知・三重・京都・大阪・兵庫・奈良に所在する企業に勤める社員か、三大都市圏外の指定都市・中核市・県庁所在市に所在する企業に勤める社員であることが要件だ。入社から3月に満たない社員と、すでに受入自治体の区域に勤務している社員は対象外になる。
本社機能が三大都市圏にあれば、本人の勤務地が三大都市圏外でもよい。全国に支社を持つ大企業が上位に並ぶ理由のひとつはここにある。逆に、三大都市圏外の指定都市等に本社を置く企業は、同一道県内の市町村へは原則として送れない。近すぎる組み合わせは、ひとの流れを生まないとみなされている。
費用の面では、受入自治体が負担した経費に対して特別交付税措置があり、企業派遣型は1人あたり年間610万円(6,100千円)が上限となる。ただし同一の派遣元企業から複数名が入る場合、算定の対象は1団体あたり2名までだ。JTBの30人も、1つの自治体に集めることはできず、多くの市町村に分かれて配置されている。
受入自治体の側にも範囲がある。要綱が受入先として認めるのは、三大都市圏外の市町村か、三大都市圏内であっても条件不利地域を抱える市町村、定住自立圏に取り組む市町村、人口減少率が高い市町村である。都道府県は受入主体に含まれない。企業派遣型の受入実績がある市町村は令和7年度で477団体にのぼり、全国1,700余りの市町村の4分の1強にあたる。
送り出す側に何が返っているのか
企業にとっての見返りは、売上ではなく人である。総務省の案内は、新しい形の社会貢献、多彩な経験による人材育成とキャリアアップ、経験豊富なシニア人材の新たなライフステージという三つを挙げている。受入期間は6か月以上3年以内で、派遣期間中は受入自治体の開庁日の半分を超えて現地で働くことが求められる。出向に近い負担を企業が引き受ける構図だ。
年齢構成を見ると、40代が26.5パーセント、30代が24.6パーセント、50代が23.4パーセントと中堅層が厚く、20代は14.6パーセント、60歳以上は10.9パーセント。男女比は男性77.9パーセントに対し女性22.1パーセントだった。新人研修の場ではなく、現場を一人で回せる社員が選ばれている。
学生の立場でこの制度に触れるとすれば、就職先を選ぶときの観点としてである。志望企業が475社に入っているかは、地域に人を出す体力と方針があるかの手がかりになる。制度の全体像は地域おこし企業人は今どこにいるか|地域活性化起業人871人の内訳、派遣が決まるまでの手順は地域活性化起業人の派遣はどう決まるか|協定・月の半分・610万円の枠、組み合わせの制約は地域活性化起業人が使えない組み合わせ|同一道県・指定都市・3年の壁にまとめがある。地域で働く選択肢を広く見るならFLASPOも使える。
よくある質問
475社の一覧は公開されているのか。総務省は活用事例集とあわせて派遣企業の一覧を公表している。先の報道資料のページから、企業派遣型の事例集と一覧のPDFにたどれる。
中小企業でも派遣できるのか。できる。要綱が求めるのは所在地の条件であって、規模の条件ではない。実際、上位に並ぶのは知名度の高い会社だが、475社の大半は一人を送り出している会社であり、そこには地域に根ざした中小企業も含まれる。
社員の給与は誰が払うのか。企業派遣型では、派遣期間中の給与等に係る経費の扱いを企業と自治体の協定で決める。自治体が派遣元企業へ負担金として支払う形が一般的で、その一般財源分に対して先の特別交付税措置が入る。副業型とシニア型は個人と自治体の契約になるため、報償費などの形になる。
どの地域に多いのか。令和7年度の活躍先は北海道が214人と突出し、三重県79人、長野県52人、福島県51人、山形県47人、福岡県43人と続く。市町村数で見ても北海道が77団体で、全538団体の7分の1を占めている。
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