地方創生の事例集に鳥取県智頭町の名前が並ぶとき、紹介されるのはたいてい森のようちえんか百人委員会である。ただ、そうした取り組みがなぜこの町で生まれたのかは、町が自分で出している計画書を読むほうが早い。過疎地域持続的発展計画には、土地の使い方から人口の落ち方、うまくいっていない部分まで数字で書かれている。順に追っていく。
93パーセントが山、2パーセントが農地という土地
智頭町は鳥取県の南東端にあり、西と南は岡山県に接している。総面積は224.70平方キロメートル、東西22.8キロ、南北16.0キロの範囲に大小88の集落が散らばる。注目すべきはその内訳で、町面積の93パーセントを山林が占め、農用地が占める割合はわずか2パーセントしかない。平地がほとんどない土地だということだ。
その山の中身も特徴的である。山林のうち78パーセントが杉と桧の人工造林で、江戸時代中期に始まった植林の結果、樹齢350年を超える人工林が今も残っている。林野面積は平成30年度時点で20,840ヘクタール、人工林面積は13,628ヘクタールに及ぶ。「杉のまち智頭」と呼ばれてきたとおり、林業が基幹産業として続いてきた町である。
この土地条件は、できる政策の範囲をかなり絞る。農地を広げて稼ぐ道は最初から細く、計画書も農業について経営規模が零細で兼業農家がほとんどだと認めている。だから町は森林そのものを資源として組み替える方向に進んだ。森林セラピー基地としての知名度づくり、森林をフィールドにした子育て、そして自伐型林業の推進が並ぶのは、持っているものがそれしかないからでもある。
人口は60年で半分になった
計画書の過疎の記述は率直である。人口は昭和30年の14,643人をピークに減り続け、昭和50年に11,650人、平成7年に10,082人、平成17年に8,647人、平成27年には7,154人になった。昭和30年から平成27年までの減少人口は7,489人で、減少率は51パーセントに達している。
| 年 | 人口 | ピークからの減少 |
|---|---|---|
| 昭和30年 | 14,643人 | - |
| 昭和50年 | 11,650人 | -2,993人 |
| 平成7年 | 10,082人 | -4,561人 |
| 平成17年 | 8,647人 | -5,996人 |
| 平成27年 | 7,154人 | -7,489人 |
減り方の内訳も書かれている。年少人口の減少率が大きく、その要因は出生率の低下と15歳から29歳の若年者の減少である。生産年齢人口は昭和60年以降に急激に落ち、一方で65歳以上の比率は令和2年度で43.2パーセントになった。全国平均28.9パーセント、鳥取県平均32.4パーセントと並べると、町の高齢化が県内でも先を行っていることがわかる。世帯の形も変わり、1世帯あたりの人数は昭和35年の4.95人から平成27年の2.88人へ縮んだ。
先の見通しについては、国立社会保障・人口問題研究所の推計で2040年に3,870人とされ、町のシミュレーションでは同年4,124人とやや緩やかになる。それでも町が掲げる目標人口は5,000人で、推計との差をどう埋めるかが計画の前提に置かれている。
住民が提案し、予算を確保して実践する
智頭町が全国に知られているのは、この人口規模で住民自治の仕掛けを二つ回してきたからである。一つは「日本1/0村おこし運動」で、集落や地区の単位で動く活性化運動として、住民自治、地域経営、交流情報といった柱で成り立っている。計画書はこれを、共生とビジネスを内包した取り組みだと説明している。
もう一つが「智頭町百人委員会」である。その中身を町はこう書く。住民自らがまちづくり事業を提案し、予算を確保し実践する仕組みだ、と。提案までで終わる住民参加とは、予算のところで性質が違う。計画書はこの二つを、中山間地域における全国に誇るモデル事業と位置づけ、新規創業など新たな挑戦を可能にする土台だとしている。
効く範囲も広い。防災、福祉、交通とジャンルを問わず、行政と民間と教育機関が横断して動けることが利点として挙げられている。町はこの仕組みをさらに成熟させることを基本方針に書き込んでおり、観光や移住の施策もここに接続する形になっている。令和元年8月にはSDGs未来都市計画を策定し、第7次総合計画の全事業を17のゴールと結びつけて見える化する方針も示した。
移住は5年で101人、詰まっているのは家
成果として計画書に載っている数字が、2015年から2019年までの移住者101人である。その半数以上を子育て世代が占めており、町は森のようちえんのような事業が都市部の子育て世代に届いた結果だと分析している。移住希望者が増えている背景として、自伐型林業への注目も挙げられている。
ところが、入口で止まっている部分もはっきり書かれている。町の空き家調査では400件以上の空き家が確認されたが、空き家バンクへの累計登録数は200件余りで、実際にすぐ住める空き家はほとんどない。計画書はこの制度を「効果的な制度となっていない」と自ら評している。希望者と持ち主で賃貸借や売買の折り合いがつかず、他の市町村へ流れていく例もあるという。物件の老朽化や家財の整理がついていないことによる改修費や整理費の負担も指摘されている。
定住側の施策は手数が多い。リフォーム費用助成、家賃助成、45歳以下の住宅支援、そして20年間家賃を支払った後に無償譲渡する定住促進住宅の整備が並び、これらの事業利用者の8割以上が定住につながっている。UJIターン補助金、定住促進補助金、空き家利活用補助金、若者地域定着補助金を継続する方針も示されている。制度の効き方としては、来てもらうより残ってもらうほうが成績がよい。
町が自分で認めている弱点は、人の育て方
計画書の人材育成の項は、読みどころである。住民自治活動を通じて様々な事業の可能性を探ってきたが、起業や創業につながる取り組みに成長する割合が低い、と町は書く。地域おこし協力隊が卒業後に起業へ発展するケースも少ないと続く。原因として挙げられているのは、地域のニーズを掘り起こす力と、事業化の可能性や運営のマネジメントが結びついていないことだ。つまり、プレイヤーとマネージャーの育成が足りていないという自己診断である。
対策として用意されたのが、住民自治組織や民間組織が外部人材を活用できる制度の創出と、ノウハウを学ぶ機会づくりである。学生に関わる部分も具体的で、町内の中学校には智頭NEXTなどの事業を通じてまちづくりを学ぶ機会を設け、百人委員会への提案を通じて自己実現を支援する。智頭農林高等学校とは連携事業を組み、百人委員会への提案を通して起業と創業の過程を学ぶ仕組みを用意するとしている。
令和3年度から7年度の計画期間に町が掲げた基本目標は、雇用の創出80人、移住者数100人、出生者数160人、そして観光入込客数120,000人である。人口7,000人規模の町の数字として並べると、一つの事業がどれだけ効くかの目安が見えてくる。似た規模で別の道を選んだ村の例としては合併しない選択をした村|西粟倉村の百年の森林構想と若い移住者が比べやすい。こうした計画が国のどの制度に乗っているかは過疎地域持続的発展支援交付金とは?4つの対象事業と申請の流れと過疎地域指定の基準とは?人口要件・財政力要件と3つの区分を整理で確かめられる。学生が地域の現場に入る道筋についてはFLASPOの取り組みも参考になる。
よくある質問
百人委員会は提案するだけの会議ではないのですか。
町の計画書では、住民自らが事業を提案し、予算を確保して実践する仕組みと説明されている。予算の確保までが住民側の役割に入っている点が、一般的な住民参加との違いになる。
智頭町の高齢化はどのくらい進んでいますか。
65歳以上の比率は令和2年度で43.2パーセントである。全国平均28.9パーセント、鳥取県平均32.4パーセントと比べて高く、計画書も今後の急速な進行を見込んでいる。
移住したい人がすぐ住める家は見つかりますか。
町の調査で400件以上の空き家が確認されている一方、空き家バンクの累計登録は200件余りで、すぐ住める物件はほとんどないと計画書に明記されている。改修費や家財整理費の負担も課題として挙げられている。
学生が智頭町の取り組みに関わる入口はありますか。
町は住民自治組織や民間組織が外部人材を活用できる制度の創出を対策に掲げている。智頭農林高等学校との連携事業のように、百人委員会への提案を学びにつなげる仕組みも用意されている。
こうした数字はどこで確かめられますか。
鳥取県智頭町「智頭町過疎地域持続的発展計画(令和3年度〜令和7年度)」に、面積・人口推移・高齢者比率・移住者数・空き家の状況・基本目標がまとまっている。
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