地方PRの動画は最後まで見られるか|総務省25企画の完全視聴率を読む

再生は始まっても、終わりまで残るのは誰か

地域の景色と食べ物を並べた動画を作り、再生回数が伸びた。それで届いたことになるのか。この問いに数字で答えを出した資料がある。総務省の「映像コンテンツを活用した地域情報発信に関する調査研究」報告書で、公表は2024年3月29日である。自治体や地場産業などの発信主体と、地方の放送局を中心とする映像制作者を組ませ、25の企画について30秒と90秒の映像を作り、オーストラリアとニュージーランド向けに配信した。配信先はDiscovery Channelを中心とする同社の主要8チャンネルのYouTube広告と、同社の特設サイトである。発信期間は2023年12月から2024年3月で、Discoveryのチャンネルでは170万インプレッションを得ている。

注目したいのは、この事業が再生回数だけで成否を語っていない点だ。25%視聴率、完全視聴率、クリック率、特設サイトから地域のサイトへ移った遷移率を企画ごとに取り、どんな映像で数字が伸びたのかまで踏み込んでいる。地域の発信を考えるとき、ここまで細かい視聴データが公開されている例はほとんどない。

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表示された回数と、指が動いた回数の開き

特設サイトへ人を運ぶために、検索連動型の広告も併せて打たれた。その表示回数とクリック数を企画別に並べると、同じ事業の中でも桁がまるで違う。

発信主体 表示回数 クリック数 クリック率
野沢温泉村 47,842 2,603 5.4%
HAKUBAVALLEY 33,348 1,606 4.8%
座間味村 30,944 1,534 5.0%
沖縄県 26,498 1,288 4.9%
東川町 10,874 448 4.1%
今治市 2,074 176 8.5%
輪島市 0 0 -

クリック率だけを見ると、表示回数が2,074回しかない今治市が8.5%で最も高い。報告書もこの企画のクリック率の高さに触れている。一方で野沢温泉村は表示回数が4万7千回を超え、クリック数は2,603に達した。率で勝つことと量で勝つことは別の話で、どちらを狙うかを決めずに作ると、どちらも取り逃がす。表示が0件の企画があることも見落とせない。2024年1月の能登半島地震の直後にあたり、発信そのものが成り立たなかった。予定どおりに出せる前提で計画を組むと、こうした事態で振り返る材料さえ残らない。

どの年代の画面に、そもそも表示されるのか

国内向けに考えるなら、相手がどの画面を見ているかを押さえておきたい。総務省の令和7年版情報通信白書は、年代別の利用率を次のように示している。

年代 YouTube TikTok
10代 95.7% 65.7%
20代 97.2% 58.7%
30代 97.9% 39.7%
40代 91.8% 39.9%
50代 83.0% 25.5%
60代 71.2% 18.8%
全体 88.3% 38.0%
総務省「令和7年版情報通信白書」図表I-1-1-5(2024年の値)より作成

YouTubeは30代の97.9%を頂点に、60代でも71.2%が使っている。オンデマンド型の動画共有サービス全体では利用率が92.3%に達し、動画もラジオも「いずれも利用していない」人は6.3%まで下がった。移住や関係人口の相手として想定される40代から60代にも、画面としては確実に届く。TikTokは10代65.7%、20代58.7%と若い層に寄っていて、50代で25.5%、60代で18.8%と落ちる。狙う年代で置き場所が変わるという、ごく当たり前の結論が数字で裏づけられる。若年層に絞る場合の考え方は地方PRにTikTokは何ができるかで扱っている。

最後まで見られた映像に共通していたもの

報告書は、数字が伸びた映像の特徴を言葉で整理している。30秒のYouTube広告で完全視聴率が高かったのは、ウィンタースポーツと自然美を扱い、テーマが絞り込まれてストーリー性のある映像だった。クリック率が高かったのは、独特の世界観がある映像、テンポのよい映像、自然美を前に出した映像である。90秒の特設サイト側では、出演者の体験を通して、現地でなじみのある食材と、歴史的な寺社仏閣や伝統工芸を扱った映像の完全視聴率が高かった。

共通するのは、全編を通したテーマが一つに絞られていることだ。地域資源を網羅しようとすると、30秒では何も残らない。この事業では「テーマの絞り込み」自体が発信主体の獲得すべきノウハウとして位置づけられている。絞り込めない場合は、テーマとストーリーを与える構成で代替するという逃げ道も示された。

数字の安定性にも触れておきたい。25%視聴率は豪州とニュージーランドの相関係数が0.868で、国をまたいでも順位がほとんど動かない。ところが完全視聴率の相関は0.485まで下がる。入口の引きは相手国が変わっても再現するが、最後まで見せる力は国ごとの好みに左右されるということだ。映像への評価とPR対象への評価の相関も、豪州0.63、ニュージーランド0.45にとどまった。よい映像だと思われることと、行ってみたいと思われることは、重なるが同じではない。

測り方をそろえておく価値もある。この事業では、特設サイトのページビューのうち動画の再生が始まった割合を0%視聴率と呼び、再生が始まったもののうち最後まで見られた割合を完全視聴率と呼んで、分母を変えて二段階で追っている。分母を一つにまとめてしまうと、入口で逃げられたのか途中で飽きられたのかが区別できない。遷移率で豪州とニュージーランドの双方で抜けていたのは野沢温泉村の企画で、次に座間味村、福岡県、会津若松観光ビューローの企画が続いた。ウィンタースポーツと海という、相手国の関心がはっきりした資源を持つ地域が上位に並んでいる。

450万円という枠の中で、何を手放すか

制作費は無限ではない。この事業では1エリアあたりの予算が税抜450万円に設定され、効率的な運用を前提に進められた。限られた枠の中で、報告書が注意を促しているのが権利処理である。タレントや楽曲を使う企画が出てきたが、タレントの権利を無期限で使えることは少なく、許諾期間が切れれば運用できなくなる。楽曲も継続的な利用料が発生しうる。「タレントを活用すること」が海外の相手にとって地域の魅力に直結するとは言えない、という指摘まで書かれている。

もう一つ、発信側が覚えておきたい前提がある。報告書は、海外放送局の監修を省いてYouTubeに出せばよいという考えに対し、広告出稿なしに日本のローカル動画が見られるとは考えにくいと述べている。置いただけでは見られない。表示を買うか、既に人が集まっている場所に相乗りするか、どちらかが必要になる。学生が自治体の運用に入る場合の役割分担は自治体のSNS発信に学生が入るときにまとめた。地域と学生の関わり方そのものを探している人は、FLASPOの情報もあわせて見てほしい。

よくある質問

問 再生回数が伸びれば成功と考えてよいか。
答 再生の開始と完走は別の指標である。総務省の実証では25%視聴率と完全視聴率が分けて測られ、入口の数字が高い企画が最後まで見られているとは限らなかった。自分の地域で測るなら、せめて開始数と完走数の二つは分けて持っておきたい。

問 どの年代を狙うかで、使う場所は変わるか。
答 変わる。2024年の値で、TikTokは10代65.7%に対して60代18.8%と4倍近い差がある。YouTubeは60代でも71.2%で、年代をまたぐ発信には向く。届く相手の広さは地域のSNS発信は誰に届くかでも確かめられる。

問 予算が小さいと何もできないか。
答 総務省の事業でも1エリア450万円という枠だった。枠が小さいほど、テーマを一つに絞るほうが結果が出やすい。網羅をやめることが、実は費用の節約でもある。

問 出典はどこで確かめられるか。
答 視聴データと知見は総務省「映像コンテンツを活用した地域情報発信に関する調査研究」報告書に、年代別の利用率は令和7年版情報通信白書に載っている。どちらも数値の元データが公開されているので、自分の地域の数字と並べて読める。


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