2,654件という認定の数が語らないもの
農産物を作るだけでなく、加工して自分で売る。六次産業化と呼ばれるこの形は、六次産業化・地産地消法に基づく総合化事業計画として国の認定を受ける仕組みになっている。認定件数は令和8年7月末で累計2,654件。内容の内訳では加工と直売をあわせて行う計画が68.9%を占め、加工のみが18.2%、加工と直売にレストランを足した形が7.0%である。数の上では広がっているように見える。
ただし、この件数には注意書きが付いている。中国四国農政局の資料には、累計件数は事業期間が終わった認定を含むが、事業を取り止めた認定は除くと書かれている。つまり公表されている数は、やめた計画を引き算した後の数である。うまくいかなかった分は集計の外に出ていくので、認定件数を追っても失敗の規模はわからない。それが数字で残った場所が一つある。六次産業化を資金面から支えるために作られたファンドの決算である。
二つの時期に分けると、損の出方が変わる
株式会社農林漁業成長産業化支援機構は2012年度に開業した官民ファンドで、六次産業化に取り組む事業者へ出資と融資を行ってきた。ところが毎年度赤字が続き、創業8年目の2019年末には累積損失が100億円に達することが確実視される状態になった。農林水産省は2021年度以降の新規出資を止め、2025年度末までに回収して解散する方針を示した。最終的な累積損失は120億円と見込まれていたが、解散時点の2025年度末で213億円まで膨らんだ。機構は令和8年3月に解散している。
損の出方は、出資をしていた時期と回収に専念した時期で性格が違う。
| 項目 | 2012〜2020年度 | 2021〜2025年度 | 通期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 17.0億円 | 54.7億円 | 71.7億円 |
| 販売管理費 | ▲80.0億円 | ▲27.5億円 | ▲107.4億円 |
| 累積損失額 | ▲115.1億円 | ▲98.0億円 | ▲213.1億円 |
前半の9年間は、売上高17.0億円に対して販売管理費が80.0億円である。費用が売上を大幅に上回り、この時期の販管費率は470%に達した。2020年7月の検証報告は、年平均10億円の販管費の大部分が人件費と事務所の賃貸費用で、過大に見積もった投資規模を前提に組織が形作られ、身の丈に合わない高コスト構造が生まれたと指摘している。後半の5年間は販管費を約7割削り、回収が進んで売上高も伸びた。それでも損失が98.0億円積み増されたのは、出資先の経営悪化で減損損失が25.2億円から58.4億円へ増えたからだ。単年度平均に直すと5.2倍である。
売上計画が当たらない、という原因の中身
報告書が投資損失の第一の要因として挙げたのは、事業計画の実現可能性を事前に検証しきれていなかったことである。出資を検討した段階の資料を見ると、多くの計画で商品の品質や独自性、価格競争力を理由に右肩上がりの拡大を見込み、出資後数年で売上が数倍になる姿が描かれていた。ところが、その強気の見通しを支える客観的な根拠は乏しかった。民間の調査機関による需要動向の分析や、過去に同じ分野へ新規参入した事業者の成否といった材料が示される例は限られていた。
複数のシナリオを置いて検証した案件も一部にはあった。しかし実績は、その予測の下限値をさらに下回った。最悪の場合を想定したはずの線が、最悪の下限として機能していなかったことになる。報告書は具体例として、食生活に厳しい制約がある国へ食材を輸出する事業や、喫食と物販を柱にした観光商業施設を挙げ、こうした特定の需要層を狙う事業では丁寧な市場調査による精度の高い需要予測が欠かせなかったとしている。一次生産者が飲食店経営に新規参入し、短期間で多店舗展開するような計画も、事業を続けるための条件の確認が足りなかった類型に入る。補助金を前提にした事業が続かなくなる構造は補助金頼みの地方創生はなぜ続かないのかでも扱っている。
損失は大口の直接出資に集まっていた
損がどこに偏ったかもはっきりしている。1億円以上の投資損失が出た20件の内訳を見ると、7割に当たる14件が2017年から2020年までに決定した直接出資の案件だった。機構の投資損失総額91.6億円のうち、この14件で62.6億円を占める。14件の投資回収率は9%で、損失率は91%。全案件の投資回収率41%を大きく下回った。投資形態だけで整理しても、直接出資の損失額は間接出資の4.4倍である。ファンドを通して間接的に出すよりも、機構が自ら一社に大きく出した案件のほうが傷が深かった。
売却そのものが不当だったわけではない。決算数値と比較できた158社のうち、簿価以上の金額で売却できたものは127件で80.4%に達している。2024年度末までのExitは131件で、回収率は0.70倍だった。一方で誘発された民間の投融資額は549.3億円あり、呼び水としての働きはしている。地域の会社にお金が入る経路そのものは地域の会社に出資する資金の出どころで整理した。
元手の出どころも押さえておきたい。機構に入っていた産業投資額は300億円、民間からの出資額は19億円である。213億円の累積損失は、その大半が国の資金で埋められた格好になる。報告書は原因を個人の判断の誤りに帰さず、出融資の決定に関わる組織運営の問題として整理している。事業計画の実現可能性を多角的に検証する機能と、リスクの全体像を把握して歯止めをかける機能が十分でなかった、という書き方である。解散方針が公表された2020年以降は投融資部の職員が順次退職し、出資先を見守る体制と経営改善を支える体制も弱まったことが併せて記されている。
損をした案件は、政策の目的も果たせていない
官民ファンドなので、収益だけで評価するのは筋が違う。そこで報告書は、全出資案件162件について政策目的を達成できたかを一件ずつ判定している。
| 投資倍率 | 件数 | 政策目的を達成 |
|---|---|---|
| 1倍超 | 54件(33%) | 76%(41件) |
| 1倍 | 21件(13%) | 76%(16件) |
| 1倍未満 | 87件(54%) | 29%(25件) |
| 合計 | 162件 | 51%(82件) |
元本以上を回収できた案件の達成率は76%、元本を割った案件は29%だった。お金を失った事業は、地域の雇用や生産者の所得といった目的も果たせていない。経済性と政策性のどちらかを取るという話ではなかったことになる。最も多い組み合わせは、元本を割って目的も達成できなかった62件で、全体の4割近くを占める。逆に元本以上を回収して目的も達成した案件は41件、4分の1だった。達成した側の内容には、魚類のゲノム編集や無農薬苗の生産といった新技術、キャビアやオリーブ加工、ワインなどの新しい特産品、移住して就農する人の支援が並ぶ。加工して売るという型だけでなく、何を新しく作るかで結果が分かれている。地域と学生の関わりを探している人はFLASPOもあわせて見てほしい。
よくある質問
問 六次産業化そのものが失敗だったのか。
答 制度の認定は令和8年7月末で2,654件あり、加工と直売を組み合わせる形が68.9%を占める。うまくいった事業は現に存在する。損失が集中したのは、出資という手段で規模を一気に広げようとした部分である。売り場としての直売所の実像は直売所という入口で確かめられる。
問 なぜ120億円の見込みが213億円になったのか。
答 改善計画の2023年度末は▲138億円の見込みに対し実績が▲162億円、2024年度末は▲137億円に対し▲190億円で、乖離が年ごとに広がった。コロナ禍後の業績回復の遅れと資材費や人件費の高騰で、出資先の減損損失が追加計上され続けたためである。
問 同じ失敗を避けるには何を見ればよいか。
答 売上計画の根拠である。需要予測に外部の調査が当たっているか、同じ分野に先に参入した事業者がどうなったかを調べてあるか、想定が外れたときの下限が本当に下限として置かれているか。この三つは出資の有無にかかわらず効く。
問 原典を読みたい。
答 ファンドの検証は農林水産省の報告書に、年度ごとの進捗は財務省の財政投融資分科会の資料に、認定件数は農林水産省の認定一覧に載っている。
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