480人と72人のあいだに何があるのか
任期を終えた隊員がその土地で何を仕事にしているか。総務省が令和8年4月24日に公表した調査結果には、業種ごとの人数まで出ている。直近5年、つまり令和2年4月から令和7年3月までに任期を終えた隊員は8,762人。そのうち6,163人、70.3%が同じ地域に残った。活動していた市町村の中に定住したのは5,038人で、この5,038人のなりわいが細かく分けられている。就業した1,753人の内訳で最も多いのは自治体職員や集落支援員などの行政関係で480人。医療・福祉業は72人だった。
介護や福祉は人手が足りないと言われ続けている分野である。それなのに、地域に残った隊員が選んだ先としては上位に来ない。起業の内訳を見ると差はもっとはっきりする。起業した2,296人のうち飲食サービス業が308人、美術家やデザイナーなどが217人、宿泊業が181人と続き、公表された上位の業種に福祉は顔を出さない。足りない側と選ばれる側が噛み合っていない。この食い違いの中身を数字で追ってみたい。
就業先を一覧にして、位置を確かめる
まず全体の形を押さえたい。同一市町村に定住した5,038人のうち、起業が2,296人で45.6%、就業が1,753人で34.8%、就農・就林が583人で11.6%、事業承継が70人で1.4%である。就業の内側を業種別に並べると次のようになる。
| 業種 | 人数 |
|---|---|
| 行政関係(自治体職員・議員・集落支援員等) | 480人 |
| 観光業(旅行業・宿泊業等) | 176人 |
| 農林漁業(農業法人・森林組合等) | 138人 |
| 地域づくり・まちづくり支援業 | 99人 |
| 教育業 | 78人 |
| 医療・福祉業 | 72人 |
| 製造業 | 58人 |
| 小売業 | 53人 |
| 6次産業(生産・加工・販売すべて) | 47人 |
行政関係が飛び抜けているのは、活動中から役場と接点があり、受け皿がそこにあるからだ。医療・福祉業はその6分の1以下にとどまる。教育業78人とはほぼ並んでいて、任期後に教育へ進む道筋は任期後に教育の仕事へ進む協力隊員で整理した。住む場所の選び方まで含めた全体像は協力隊の任期後に住む場所を変える人にある。
残らなかった人の数も見ておきたい。他の地域へ転出したのは2,013人で23.0%、活動地の近隣市町村に移った人が1,125人で12.8%いる。転出した2,013人のうち228人は、離れた先から活動地と関わりのある地域協力活動などに携わっている。定住率70.3%という数字の外側にも、関わり続ける形が残っているということだ。事業承継を選んだ70人は、伝統工芸や民宿、飲食業を引き継いだ人たちである。
受け入れる側は、どれだけ足りないのか
次に、迎える側の数字を見る。厚生労働省が令和6年7月12日に公表した推計では、介護職員の必要数は2026年度に約240万人、2040年度に約272万人である。2022年度の215万人と比べると、2026年度までに約25万人、年あたり6.3万人を増やさなければならない計算になる。2040年度までの増加分は約57万人で、年あたりでは3.2万人に落ちる。急な坂が手前にあって、その先は長い上りが続く形だ。
足元の需給はもっと厳しい。社会保障審議会の介護給付費分科会に令和7年9月5日に出された資料によれば、介護関係職種の有効求人倍率は令和7年6月時点で全国平均3.87倍だった。同じ時期の職業計は1.05倍である。求人1件に求職者が1人いるかいないかという全体に対して、介護では4件近い求人に1人しか来ていない。事業所側の実感も裏づけがある。令和6年度の介護労働実態調査で、訪問介護員が不足していると答えた事業所は83.4%にのぼった。施設などで働く介護職員は69.1%、看護職員は44.2%で、訪問介護の不足感が頭一つ抜けている。
別の仕事から入ってくる人が、いちばん多い
ここで注目したいのが、どこから人が来ているかである。同じ調査で訪問介護員の前職を見ると、介護・福祉・医療とは関係のない仕事から移ってきた人が37.7%で最も多く、介護関係の仕事からの移動は33.9%だった。看護職員では医療関係からの移動が53.9%を占めるのに対し、訪問介護の入口は業界の外に開いている。任期の3年で地域の家々を回り、誰がどこに住んでいるかを頭に入れた人は、この入口の手前まで来ていると言える。
定着の数字も極端には悪くない。令和6年度の離職率は訪問介護員が11.4%、施設などの介護職員が12.8%で、どちらも前年度より下がった。一方で採用率は訪問介護員が16.8%から14.1%へ、施設などの介護職員が16.9%から14.4%へと落ちている。辞める人が減ったのではなく、入る人が減ったために足りない。辞めた理由として最も多く挙がったのは職場の人間関係で24.7%、次が他に良い仕事があったためで18.5%、事業理念や運営のあり方が17.6%、収入の少なさが16.3%と続く。待遇だけが理由ではないという点は、小さな事業所を地域で立ち上げる側にとってはむしろ手がかりになる。
入口を職種で選び分ける手もある。不足している事業所の割合は、サービス提供責任者で30.9%、生活相談員で24.9%、介護支援専門員で34.5%と、訪問介護員の83.4%より明らかに低い。資格と経験が要る職種は人が集まりにくいと思われがちだが、数字は逆を示している。介護支援専門員の前職は54.6%が介護関係の仕事で、外からいきなり就くのは難しい。つまり現場から始めて資格を重ねる順番のほうが、地域では通りやすい。定着に効いた方策として挙がったのは、有給休暇の取得や勤務日時の変更がしやすいこと、人間関係のよい職場づくり、賃金水準の向上である。小さな事業所でも最初の二つは設計次第で用意できる。
需要の伸び方は、地域ごとにまるで違う
全国の話を自分の地域に当てはめると、読み間違えることがある。75歳以上の人口を見ると、全国では2020年の1,860.2万人から2040年に2,227.5万人へ1.20倍になる。ところが伸び方の差が大きい。沖縄県は15.8万人から25.3万人へ1.60倍、滋賀県は1.34倍、栃木県は1.31倍と急に増える。逆に山口県は1.04倍、島根県は1.05倍、高知県は1.06倍とほとんど増えない。
増えない地域は楽なのかというと、話は反対だ。島根県は2020年の時点で75歳以上が人口の18.4%を占め、2040年には23.4%になる。高知県は19.0%から26.4%である。すでに高い水準にあるので伸び率が小さく見えるだけで、担い手に対する利用者の比はいちばん重い。人口が減る地域では事業所の採算が取りにくく、撤退が起きれば残った人の移動距離が伸びる。任期後にこの分野を選ぶかどうかは、全国平均ではなく自分がいる市町村の年齢構成を見てから決めたい。地域と学生の接点を探す段階にいる人はFLASPOの情報もあわせて見てほしい。
よくある質問
問 任期中に資格を取っておくべきか。
答 訪問介護の現場に入るには資格の裏づけが要る職種がある。ただ、前職の内訳を見れば業界の外から入る人が37.7%で最多であり、未経験が例外ということはない。任期の後半で動き始めれば間に合う範囲にある。
問 72人という数字は少なすぎないか。
答 母数は同一市町村に定住した5,038人で、就業を選んだのはそのうち1,753人である。起業が45.6%を占める中での72人なので、就業組の中では製造業や小売業より多い位置にいる。少数だが例外ではない、という読み方が実態に近い。
問 地域に残る人は今後も増えるのか。
答 令和7年3月末までに任期を終えた隊員は累計15,045人で、前回調査から2,363人増えた。母数が増えているので、同じ70.3%でも地域に残る人数は毎年積み上がる。制度そのものの仕組みは地域おこし協力隊の任期は何年?で確かめられる。
問 出典を直接見たい。
答 隊員の数字は総務省の調査結果に、介護側の必要数は厚生労働省の推計に、求人倍率と不足感は介護給付費分科会の資料に載っている。
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