旅行の情報を、そもそも探していない人が三分の一いる
観光のパンフレットを作り直す会議では、どの媒体に出すかという話が先に来る。その手前で一度確かめておきたい数字がある。総務省情報通信政策研究所が令和8年6月26日に公表した令和7年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書では、全国1,800人に対して、最近1か月の間に「旅行・観光情報」をどの媒体から得たかを尋ねている。最も多かった回答は、どの媒体でもなく「そのような情報は必要としなかった」の36.8%だった。
前回の令和6年度調査では34.1%で、2.7ポイント増えている。調査が扱う7種類の情報のうち、この回答が3割を超えるのは旅行・観光情報とショッピング(31.4%)だけで、時事ニュースでは5.0%、気象情報や天気予報では2.1%にとどまる。生活に必要な情報と違い、旅行の情報は探しに来る人のところにしか届かない。
地方のPRが「届かない」と言われるとき、媒体の選び方の失敗と、母数の三分の一がそもそも受け手になっていないことが混ざって語られやすい。前者は作り方を変えれば動くが、後者は作り方では動かない。どちらの話をしているのかを分けておくと、次の打ち手が決まる。
入口を並べてみると、動画は4.3%だった
同じ調査は、情報を得た媒体のうち「最も情報を得た媒体」も尋ねている。旅行・観光情報の回答をそのまま並べると、順番は次のようになる。
| 旅行・観光情報の入口 | 最も情報を得た(令和7年度) | 参考・令和6年度 |
|---|---|---|
| そのような情報は必要としなかった | 36.8% | 34.1% |
| テレビ | 18.9% | 20.7% |
| 専門情報サイト | 13.3% | 14.1% |
| ソーシャルメディア | 9.7% | 9.6% |
| 友人、知人、家族からの会話 | 8.5% | 7.2% |
| 動画配信、動画共有サイト | 4.3% | 4.9% |
| 雑誌 | 3.1% | 3.4% |
| ブログ、その他のサイト | 3.0% | 3.8% |
| 新聞 | 2.1% | 1.8% |
| ラジオ | 0.4% | 0.4% |
TikTokが含まれる「動画配信、動画共有サイト」は4.3%で、前年から0.6ポイント下がっている。ソーシャルメディアを合わせても14.0%で、テレビの18.9%には届かない。ここで言う専門情報サイトは、観光やホテル、レストランなどの情報を扱うサイトを指す区分で、旅行の文脈では予約系のサイトがここに入ってくる。
広めに見た「情報を得た媒体」の側では、テレビが32.6%、友人・知人・家族からの会話が20.8%、専門情報サイトが17.7%、ソーシャルメディアが15.6%、動画配信・動画共有サイトが9.9%だった。最も得た媒体に絞ると動画の割合が半分以下に落ちる。見かけてはいるが、決め手にはなっていないという形である。
利用率36.7%との距離を、どう読むか
媒体として小さいという話ではない。同じ報告書で、TikTokの利用率は全年代で36.7%あり、前回の33.2%から増えている。年代別では10代が67.9%、20代が61.5%、30代が44.7%、40代が42.6%、50代が32.2%、60代が21.2%、70代が11.1%で、各年代で前年より上がった。男性31.8%に対して女性41.7%と、女性のほうが高い。
利用率が36.7%ある媒体が、旅行情報の入口としては4.3%しか取れていない。この落差が、地方PRで動画を使うときの前提になる。アカウントを開いている人の数は確保できるが、その人は旅行先を決めるためにそこを開いていない。再生数が伸びても旅行の検討につながらないという現場の感覚は、この二つの数字の差として説明できる。
では年代の読み方はどうか。10代と20代に厚いのは確かだが、50代が前年の25.5%から32.2%まで上がっている。短い動画は若年層のものという前提で企画を立てると、いま伸びている層を外す。年代別の利用率を自治体の発信に当てはめる手順はSNS発信で地域に人は来るのかに整理してある。
見ている人の数と、出している人の数は別である
企画書に「地元の高校生や大学生に投稿してもらう」と書く前に、もう一つ見ておく数字がある。同じ調査は、各サービスの利用者のうち「書き込む・投稿する」と答えた人の割合も出している。全年代でLINEが51.2%、Instagramが18.0%、X(旧Twitter)が9.6%、YouTubeが4.2%に対して、TikTokは2.7%である。
利用率36.7%のうち、投稿までする人は2.7%。残りは見るだけの関わり方をしている。つまり、ハッシュタグを用意して投稿を募る形の企画は、母数の小さいところを狙うことになる。同じ仕掛けをInstagramに置けば、投稿する側の割合は6倍以上になる。投稿を集めたいのか、見てもらいたいのかで、置く場所が変わる。
運用を学生に任せる場合も、投稿の習熟度は利用率ほど高くないという前提で引き継ぎを設計したい。アカウントの管理者が卒業で入れ替わる問題については学生団体のTikTok運用に書いた。FLASPOのように学生と地域をつなぐ仕組みを使うと、担い手が交代しても運用の記録が残りやすい。
任せる役割を決めてから、撮り始める
数字から言えるのは、短い動画は「決め手」ではなく「きっかけ」の側に置くほうが筋が通るということである。旅行・観光情報では動画が4.3%だが、グルメ情報では最も得た媒体としてソーシャルメディアが13.7%で、テレビの26.8%に次ぐ2位に入る。食べ物の話から入って、行き先の話に移る順番なら動画の分がある。
予約や日程のような「決める」段階は専門情報サイトが13.3%を占めていて、ここに動画で割り込もうとしても効率は悪い。動画で名前を知ってもらい、検索と予約のページで受け止める。この役割分担を先に決めておけば、再生数が伸びたのに来訪が増えないという評価のずれを避けられる。
測り方も同じところで決まる。再生数とフォロワー数は動画側の成果だが、来訪や宿泊は別の段で起きる。どの数字がどの段を測っているのかを分けて置く考え方はSNSの数字は地域ブランドのどこを測っているかにまとめた。報告書の本文は総務省が公開しているPDFで確かめられる。
よくある質問
予算が限られている場合、どの媒体を優先すればよいか。旅行・観光情報の入口としてはテレビが18.9%で最も大きいが、費用の面で地方の小さな事業では手が届きにくい。次に大きい専門情報サイトは、施設の情報を正確に載せておく作業が中心なので、費用をかけずに改善できる余地がある。動画はその手当てが済んでから足すと無駄が少ない。
再生数はどれくらいを目標にすればよいか。目標として置くより、来訪や問い合わせの件数に対して、どの投稿の後に何件増えたかを記録する形が向いている。入口としての割合が4.3%であることを踏まえると、再生数そのものを目標にするのは期待値を高く置きすぎることになる。
若い人に届けたいだけなら動画でよいのではないか。10代の利用率67.9%は確かに高い。ただし旅行の日程と費用を決めるのは保護者である場合が多く、10代に届くことと旅行が決まることは別の話になる。家族旅行を狙うなら、同じ報告書で40代の利用率が42.6%まで上がっていることのほうが役に立つ。
「必要としなかった」が36.8%もいる相手に、働きかける方法はあるか。旅行の情報として届けるのをやめ、食べ物や催し、仕事や学びの話として届ける形が現実的である。グルメ情報でソーシャルメディアが2位に入るのは、探していない人の画面にも入り込めているからで、入口の名前を変えると通る道がある。
調査の数字はそのまま自分の地域に当てはめられるか。全国1,800人の標本なので、県単位や市町村単位の傾向まで読めるものではない。使い方としては、自分の地域で取った数字を比べる基準として置くのが適している。来訪者に「どこで知ったか」を尋ねる項目を、この調査と同じ区分で作っておくと比較できる。
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