行き先は、ごく少数の府県に寄っている
中学2年の秋に3日間だけ訪れた土地と、その後も続く関係がある人は少ない。まず、生徒がどこへ行っているのかを見てみる。公益財団法人日本修学旅行協会が2024年度の実施分を調べた中学校の国内修学旅行の実態では、旅行先の上位は京都455件(25.2%)、奈良362件(20.1%)、東京178件(9.9%)、大阪138件(7.7%)、千葉119件(6.6%)だった。総件数1,803件のうち、この5府県で1,252件、およそ69%を占める。
高等学校も偏りの形は似ている。高等学校の調査では大阪290件(13.3%)、沖縄273件(12.5%)、京都230件(10.6%)、東京220件(10.1%)、千葉187件(8.6%)と続き、総件数2,179件に対して上位5つで1,200件、約55%になる。一方、同じ中学校の表で20位に入った佐賀は10件(0.6%)、前回調査でも17件(0.9%)にとどまる。
人口が減っている地域の多くは、この表のどこにも名前が出てこない。関係人口の文脈で「修学旅行を入口に」と言われるとき、その入口は現状ではごく細い。
重点を置く活動に、人と会う時間は少ない
どこへ行くかより、そこで何に時間を割くかのほうが、関わりが続くかどうかに効く。中学校の調査で重点を置いた活動を分類すると、合計2,021件のうち歴史学習が923件で半分近くを占めた。平和学習187件、芸術・文化体験183件、自然・環境・科学学習177件が続く。地域の人と交わる種類の項目は小さい。生業・くらし体験は51件(2.5%)、交流活動は20件(1.0%)、奉仕・福祉体験は1件だった。
高等学校では合計2,284件のうち歴史学習666件、平和学習387件、自然・環境・科学学習310件で、農山漁村体験は81件(3.5%)である。中学校より比率は高いが、それでも全体の30分の1ほどにすぎない。見学と移動が中心の行程では、地域の誰かと名前を覚え合う場面はほとんど発生しない。
この構図は、大学生の地域との関わりとは対照的である。大学を通じた関わりについては大学は関係人口の入口になるかで扱った。学校行事としての旅行が、関わりの持続という点で不利な条件を抱えていることが、数字の側から見えてくる。
班別自主行動そのものは、むしろ広がっている。中学校では回答のあった876校のうち760校(87.7%)が実施し、前回調査の85.5%を上回った。生徒が自分たちで行程を決める時間は確保されているものの、その行き先は史跡や商業地が中心になりやすい。自由に動ける時間があることと、地域の人に出会うことは別の問題である。
費用の内訳が、体験の位置を語っている
行程の重心は、お金の配り方にも現れる。中学校の平均総額は73,805円で、内訳は交通費32,131円(43.5%)、宿泊費23,323円(31.6%)、体験活動費6,956円(9.4%)、その他11,394円である。高等学校は総額114,623円、交通費53,244円、宿泊費34,398円、体験活動費10,586円となっている。移動と宿泊で4分の3前後が埋まり、体験に回る額は1割に届かない。
| 年度 | 中学校 総額 | 中学校 体験活動費 | 高等学校 総額 | 高等学校 体験活動費 |
|---|---|---|---|---|
| 2019 | 64,683円 | 3,448円 | 102,737円 | 7,405円 |
| 2021 | 54,331円 | 5,375円 | 90,125円 | 8,437円 |
| 2022 | 69,881円 | 5,925円 | 105,333円 | 7,679円 |
| 2023 | 70,456円 | 6,839円 | 110,707円 | 9,844円 |
| 2024 | 73,805円 | 6,956円 | 114,623円 | 10,586円 |
時系列で見ると、体験活動費は中学校で2019年度の3,448円から2024年度の6,956円へと倍になった。ただし同じ期間に総額も64,683円から73,805円へ上がり、交通費は28,306円から32,131円に膨らんでいる。体験に使える額が増えたというより、全体が値上がりするなかで体験の取り分がわずかに広がった、という読み方が正確だろう。受け入れ側が体験プログラムに価格を付けるとき、この一人6,956円という水準が天井として効いてくる。
関係人口の定義に、一度の訪問は届かない
そもそも関係人口とは何を指すのか。国土交通省が令和7年6月27日に公表した地域との関わりについてのアンケートの調査結果では、移住でも観光でもなく、単なる帰省でもない、日常生活圏や通勤圏以外の特定の地域と継続的かつ多様な関わりを持つ人と置かれている。18歳以上の居住者約1億275万人のうち、約2,263万人(約22%)が該当すると推計された。内訳は訪問系が約1,884万人(約18%)、非訪問系が約379万人(約4%)である。有効回答は118,963人、調査時期は令和5年9月から10月だった。
この定義で読むかぎり、学校行事として一度訪れただけでは関係人口には数えられない。鍵は「継続的」の部分にある。卒業後に自分の意思で再訪するか、物を買い続けるか、オンラインで関わり続けるか。そこまで渡らなければ、修学旅行は記憶に残る3日間で終わる。
裏を返せば、入口としての価値はまだ手つかずに近いとも言える。関係人口を増やす取組の広がりは関係人口の未来はモデル事業で試されているに、海外を含む学生の移動の規模は学生の海外旅行に整理した。
一度を続きに変えている現場はどこか
受け入れの枠組み自体は、すでに国の事業として用意されている。農林水産省の資料によれば、農山漁村振興交付金で農泊の推進に採択された地域の延べ宿泊者数は、令和5年度に約794万人泊だった。同省は、従来の農山漁村滞在型旅行が中学校や高等学校等を対象とした教育旅行の中で実施されることが多かったとも述べている。農家に泊まって畑に入る形の受け入れは、見学中心の行程とは別の時間の使い方になる。
学校と地域をつなぐ事業もある。子ども農山漁村交流プロジェクトは、内閣官房・内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、環境省が役割を分けて進める取組で、送り側となる学校の宿泊体験活動は内閣官房・内閣府と文部科学省が支え、受け入れ側の農山漁村の体制整備は農林水産省と環境省が担う。総務省は送り側と受入れ側が連携する取組を中心に支援し、モデル事業の事例を広めるセミナーを開いている。
ここで効くのは、同じ学校が同じ地域に毎年来る形を作れるかどうかである。一度の訪問を関係に変えるのは生徒個人の熱意ではなく、受け入れ側が翌年も同じ人と会える体制を持っていることだ。学生の側から地域との関わりを設計する視点はFLASPOの取組にも通じる。
よくある質問
修学旅行で訪れた人は関係人口に数えられますか
国土交通省の定義では、継続的かつ多様な関わりがあることが条件になっている。学校行事として一度訪れた段階では、まだ関係人口には当たらないと読むのが自然である。
地域の側は、修学旅行の受け入れでどれくらいの収入を見込めますか
2024年度の調査では、体験活動費は中学校で1人あたり平均6,956円、高等学校で10,586円だった。学校行事の予算から体験に回る額はこの水準なので、宿泊や食事を含まない体験だけで大きな収入を見込むのは難しい。
なぜ行き先が京都や奈良に集まるのですか
中学校で重点を置いた活動の半分近くが歴史学習だったことと対応している。行程の目的が歴史の学習に置かれているかぎり、史跡が集まる地域が選ばれやすい。
農山漁村での受け入れを増やすには何が要りますか
宿泊と体験を同時に用意できる体制が前提になる。農林水産省と環境省が受け入れ側の体制整備を支援し、総務省が送り側と受入れ側の連携を支える仕組みがあるので、学校単独ではなく自治体を交えて組み立てるのが現実的である。
高校生のほうが関わりは続きやすいですか
高等学校では農山漁村体験が81件あり、中学校の生業・くらし体験51件や交流活動20件より比率が高い。進路選択に近い時期でもあるため、再訪の動機は生まれやすいと考えられる。ただし調査からその後の継続を確かめることはできない。
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