観光の仕事を地方で探そうとして求人サイトを開くと、宿泊業と旅行業の募集は都市部に偏っていて、行きたい地域の名前がなかなか出てこない。地域の側で観光に人を迎える枠は、企業の求人票とは別の経路に置かれていることが多い。総務省がまとめた令和7年度の地域おこし協力隊は8,196人、受け入れた自治体は1,187団体にのぼる。ただ、協力隊の枠がそのまま観光の仕事になるとはかぎらない。隊員を任用するのは自治体で、観光地の経営を担っているのは別の法人であることが多いからだ。受け入れ側の組織の数と、任期を終えた隊員が観光のなりわいに移った人数を、総務省と観光庁の資料から並べて確かめる。
任用するのは自治体、観光地を動かすのは別の法人
協力隊の枠を探すと、募集を出しているのは必ず市町村か道県である。令和7年度の取組自治体1,187団体の内訳は20道県と1,167市町村で、受け入れが可能な1,461団体のうち約81パーセントが実際に隊員を迎えていた。隊員数は前年度から286人増え、任期が3年を超えていたのはコロナ特例の適用を受けた2人だけだった。
いっぽう観光地の経営は、観光庁の登録制度に載った法人が担う。平成27年11月に始まったこの制度は、地域の関係者を巻き込んで観光地づくりの舵取りをする組織を「観光地域づくり法人」として登録するもので、観光庁が公表した令和8年4月1日現在の登録数は次のとおりである。北海道と沖縄県が広域連携と都道府県の二つを兼ねているため、登録された法人の実数は326になる。
| 区分 | 法人数 | 対象の広がり |
|---|---|---|
| 広域連携DMO | 10法人 | 複数の都道府県にまたがる圏域 |
| 都道府県DMO | 38法人 | 都道府県の全域 |
| 地域DMO | 280法人 | 単独または複数の市町村 |
| 候補DMO | 24法人 | 登録を目指して準備中 |
| 登録された法人の実数 | 326法人 | 北海道と沖縄県の兼務分を差し引いた数 |
協力隊を迎える自治体が1,187、観光地の経営組織が326。この差が意味するのは、観光に関わる協力隊の多くが、観光専門の法人ではなく役場の観光課や商工観光係に席を置くということである。募集要項に「DMOへ派遣」と書かれている例もあるが、数の上では例外にあたる。
任期のあと観光で食べている人は、少なくとも487人
任期が終わったあとの進路は、総務省が5年分をまとめて調べている。令和2年4月から令和7年3月までに任期を終えた隊員は8,762人、調査の時点は令和7年5月1日である。このうち活動した市町村にそのまま残った5,038人について、なりわいの内訳が公表されている。起業が2,296人、就業が1,753人、就農や就林が583人、事業承継が70人という並びだ。
観光という言葉が出てくるのは、この内訳の三か所である。就業の側には旅行業や宿泊業を含む観光業が176名、起業の側にはゲストハウスや農家民泊を含む宿泊業が181名、ツアー案内や日本文化体験を含む観光業が130名いる。三つを足すと487名で、同じ市町村に残った5,038人の約9.7パーセントにあたる。
| 区分 | 業種の書き方 | 人数 |
|---|---|---|
| 就業 | 観光業(旅行業・宿泊業等) | 176名 |
| 起業 | 宿泊業(ゲストハウス、農家民泊 等) | 181名 |
| 起業 | 観光業(ツアー案内、日本文化体験 等) | 130名 |
| 三つの合算 | 観光を名乗る区分の小計 | 487名 |
| 参考・起業 | 飲食サービス業(古民家カフェ、農家レストラン 等) | 308名 |
| 参考・就業 | 行政関係(自治体職員、議員、集落支援員 等) | 480名 |
487名という合算は、資料にそのまま載っている数ではなく、三つの区分を足したものである。飲食サービス業で起業した308名の多くは観光客を相手にしているだろうし、美術家やデザイナーとして独立した217名のなかにも土産物や体験に関わる人がいるはずだ。観光の裾野を広く取れば、数字はもっと増える。確かなことは、就業先で最も多いのが行政関係の480名であり、観光業176名はその次の規模で続いている、という順番である。
20代が3分の1を占める。入口も短期の枠から用意されている
観光の現場に若い人が入る余地があるかという問いには、年齢構成が答えになる。令和7年度の隊員のうち20代は33.6パーセント、30代は30.1パーセントで、40代の20.1パーセント、50代の11.5パーセントがそれに続く。19歳以下は0.3パーセント、60歳以上は4.4パーセントだった。女性の比率は40.3パーセントである。
任期に入る前の段階にも枠が置かれている。2泊3日程度から地域に入る「おためし地域おこし協力隊」は令和7年度に1,450人、より長く活動に加わる「インターン」は1,414人が参加した。インターンの集計は令和3年度の106人から始まっており、4年で13倍を超えている。在学中に地域の観光の現場を見ておきたいなら、卒業を待たずに触れられる入口がここにある。FLASPOのように学生と地域をつなぐ場も、この短期の枠と組み合わせて使うことができる。
残る人と出る人の差は、都道府県で20ポイント以上開く
任期を終えた8,762人の行き先は、四つに分かれる。活動した市町村にとどまった人が5,038人で57.5パーセント、近隣の市町村に移った人が1,125人で12.8パーセント、合わせて6,163人が同じ地域に定住し、その比率は70.3パーセントになる。他の地域へ転出したのは2,013人で23.0パーセントだが、そのうち228人は活動した地域に関わる協力活動などを続けている。行方が分からない人は511人いる。
この70.3パーセントは全国の平均で、都道府県ごとに見ると幅が大きい。広島県は79.6パーセント、北海道は1,225人のうち959人が残って78.3パーセント、長野県は656人のうち512人で78.0パーセントだった。低いほうでは宮崎県が55.6パーセント、秋田県が55.9パーセント、島根県が60.3パーセントとなる。上と下で20ポイント以上開いていて、受け入れの件数が多い県が必ず高いわけでもない。観光の仕事を続けられるかは、宿や観光協会がその土地にどれだけ残っているかに左右されるため、応募する前に受け入れ先の地域の定住率を見ておく価値がある。
任期を終えた隊員は累計で15,045人になり、前回の調査から2,363人増えた。制度が始まってから十数年がたち、先に任期を終えた人が同じ地域で宿や案内の仕事をしている土地もある。関連する読み物として地域おこし協力隊の人数を受入自治体数と年齢構成から読み直す、地域おこし協力隊を卒業して起業する|準備の順番と落とし穴、北海道の地域おこし協力隊|隊員1,374人と167自治体の内訳も合わせて確かめておきたい。
募集要項から観光の中身を読み取る三つの手がかり
同じ「観光振興」という活動名でも、やることは土地ごとに違う。読み分けるときに効くのは、配属先の書き方、連携先の名前、成果の測り方の三つである。配属が観光課なのか観光協会への派遣なのかで、裁量と事務の量が変わる。連携先に登録された観光地域づくり法人の名前が入っていれば、データに基づく観光地経営の枠組みのなかで動くことになる。
成果の測り方は、任期後の進路に直結する。宿泊者数や滞在時間のような指標が置かれていれば、任期中の仕事がそのまま宿やツアーの事業計画につながりやすい。逆にイベントの開催回数だけが並んでいる場合、任期が終わったあとに手元に残るものが少なくなる。起業で宿泊業を選んだ181名と、就業で観光業に入った176名の差は、この三年のあいだに何を積めたかの差でもある。
よくある質問
Q. 観光の経験がなくても協力隊の観光枠に応募できますか。A. 制度の条件は住民票を移すことと生活の拠点を変えることで、職務経歴は要件に入っていない。令和7年度の隊員の3分の1が20代であることからも、職歴の長さが前提になっていないことは読み取れる。ただし募集は自治体ごとに条件を付けられるため、個別の要項で確かめる必要がある。
Q. 登録された観光地域づくり法人で働くには、協力隊を経なければなりませんか。A. そうではない。326法人はそれぞれ採用を行っていて、協力隊はそこに至る経路のひとつにすぎない。協力隊を選ぶ利点は、住む場所と当面の収入が同時に用意され、地域の人と知り合う時間が確保される点にある。
Q. 任期後に観光で独立した人は、どんな業種を選んでいますか。A. 同じ市町村に残った5,038人のうち、起業で宿泊業を選んだのが181名、ツアー案内や日本文化体験を含む観光業が130名、飲食サービス業が308名である。宿と食と案内の三つが、観光を軸にした独立の受け皿になっている。
Q. 観光の仕事が多い地域はどこですか。A. 業種別の人数は全国の集計しか公表されていないため、地域別には分からない。手がかりになるのは受け入れの規模と定住率で、北海道は隊員1,374人を受け入れて定住率78.3パーセント、長野県は定住率78.0パーセントだった。登録された観光地域づくり法人の所在地と重ねて見ると、候補を絞りやすくなる。
Q. 在学中に試せる枠はありますか。A. おためしとインターンの二つがある。令和7年度の参加者はおためしが1,450人、インターンが1,414人で、どちらも前年度から増えた。任期に入る前に地域の観光の現場を見ておきたい場合は、この二つが現実的な入口になる。
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