廃墟の写真より先に、書類の上で終わっている
閉まった温泉施設の前に立つと、割れた窓や錆びた看板が目に入る。地方創生の失敗として写真が回るのはこの段階だが、施設としての終わりはもっと手前に来ている。管理を任されていた団体の指定が取り消された日、あるいは契約の期間が切れて更新されなかった日が、記録の上での区切りである。
その区切りは国の調査で数えられている。総務省の公の施設の指定管理者制度の導入状況等に関する調査結果は、令和6年4月1日現在の状況として、全国の公の施設がどう管理され、どこで管理の形が切り替わったかを集計している。調査の対象は地方自治法第244条に基づいて条例で設置され管理されている施設で、学校と河川と道路は除かれている。
この統計を読むときに最初に確かめておきたいのは、「観光施設」という区分が存在しないことである。ホテルや国民宿舎、公衆浴場、海水浴場、キャンプ場は「レクリエーション・スポーツ施設」に入り、博物館や美術館や動物園は「文教施設」に入る。観光のために建てられた施設は、二つの箱に分かれて数えられている。
母数は8万に近く、まだ増えている
指定管理者制度が導入されている施設は79,332施設ある。内訳は都道府県6,658、指定都市8,016、市区町村64,658で、前回調査の77,537施設から1,795施設の増加である。制度の対象は縮んでいるのではなく広がっていて、その中で入れ替わりが起きているという順番になる。
区分別では基盤施設が29,507施設と最も多く、全体の37.2%を占める。公園や公営住宅、駐車場、港湾施設がここに入る。観光施設に最も近いレクリエーション・スポーツ施設は15,474施設で19.5%。市区町村に限ると21.6%まで上がり、都道府県では8.0%にとどまる。宿泊や入浴を伴う施設を抱えているのは、主に市町村のほうだと読める。
誰が管理しているかも押さえておきたい。株式会社やNPO法人、企業共同体といった民間企業等が指定管理者になっているのは全体の約四割で、都道府県では2,810施設(41.9%)、指定都市では4,019施設(49.0%)に達する。民間の事業者が公の施設の運営を担う形が、すでに標準になっている。
止まり方は三通りに分けて記録される
調査は令和3年4月2日から令和6年4月1日までの三年間について、管理が途切れた事例を三つに分けている。指定の取消し、期間を定めた業務の停止、そして指定期間の満了をもって制度による管理を取り止めたもの。合計は1,887施設だった。
この三つのうち最も多いのは三番目で、1,363施設が72.2%を占める。取消しは495施設で26.2%、業務の停止は29施設で1.6%にすぎない。言い換えると、管理が止まる場面の七割は「契約を切った」のではなく「契約が切れたところで続けなかった」という形で訪れている。
| 止まり方 | 施設数 | 割合 | 最も多い理由 |
|---|---|---|---|
| 指定を取り消した | 495施設 | 26.2% | 施設の休止・廃止(29.2%) |
| 期間を定めて業務を停止した | 29施設 | 1.6% | 施設の休止・廃止 |
| 指定期間の満了をもって取り止めた | 1,363施設 | 72.2% | 施設の休止・廃止(34.1%) |
| 合計 | 1,887施設 | 100.0% | ― |
数字の扱いで一点だけ補足しておく。取り消した理由を集計した表の合計は496施設になっていて、事例を数えた表の495施設と一施設分だけ食い違う。割合を読むうえでは影響しないが、原典の数字をそのまま引く場合はどちらの表から取った数かを書き添えておくほうが安全である。
取り消される理由に、経営の行き詰まりは二割あまり
取消しの理由で最も多いのは施設の休止・廃止で29.2%。次が指定管理者の経営困難等による撤退、つまり事業者側からの指定返上で22.0%にあたる109施設である。三番目は指定管理者の合併・解散で16.7%、続いて施設の民間等への譲渡が11.5%。業務不履行は3.6%、不正事件は1.0%しかない。
内訳は団体の規模でかなり違う。都道府県が取り消した27施設では施設の休止・廃止が88.9%を占め、経営困難による返上は0件だった。一方で市区町村の434施設では返上が24.0%まで上がる。小さな施設を小さな事業者が受けている組み合わせほど、事業者側が先に手を離す場面が増えるという形になっている。
取り消したあとに施設がどうなったかも集計されている。統合・廃止が43.8%で最も多く、再指定が30.0%、直営に戻したものが11.9%、休止が8.7%。三割は別の事業者を選び直して続いていることになる。看板が変わっただけで営業が続いている施設は、この欄に入っている。
多数派は、評価を経て静かに畳まれている
七割を占める1,363施設の理由を見ると、景色が変わる。最も多いのは施設の休止・廃止で34.1%だが、次に来るのは施設の民間等への譲渡12.6%と、費用対効果・サービス水準の検証の結果11.9%である。経営困難等による撤退は5.3%まで下がり、公営住宅法に基づく管理代行制度への移行が4.3%を占める。
「費用対効果・サービス水準の検証の結果」という理由が二番目の集団にいることには意味がある。制度の中に評価の手続きが組み込まれていて、実際に動いているからだ。調査によれば、指定管理者制度を導入している施設のうち評価を実施しているのは64,132施設で80.8%にのぼる。期間の満了は、評価を通ったあとに続けるかどうかを決める節目になっている。
失敗という言葉で括られる施設の多くは、この静かな経路を通っている。破綻でも不祥事でもなく、費用と効果を測り直した結果として更新されなかった、という記録のされ方である。箱を建てるまでの過程に何が積み残されるのかはハコモノはなぜ失敗するのかを扱った記事に、運営主体の側が消えていく過程は第三セクターの廃止件数を追った記事にまとめてある。
地域の施設を調べて提案をまとめる機会は、FLASPOのようなプロジェクト型の場でも学生に回ってくる。そのときに「赤字だから失敗」と書くと、評価の手続きを経て畳まれた施設まで同じ箱に入ってしまう。収支がどこまで公開されているかという問題は道の駅の収支を追った記事で確かめられる。
よくある質問
この調査で観光施設だけを取り出すことはできるのか。区分がないため、厳密には取り出せない。宿泊休養施設やキャンプ場を含むレクリエーション・スポーツ施設が15,474施設、博物館や動物園を含む文教施設が15,434施設という形までが分かる範囲で、観光目的に限った集計は公表されていない。
指定返上と取消しは何が違うのか。制度の手続きとしては、事業者側が続けられないと申し出た結果として自治体が指定を取り消す。だから集計の上では取消しに含まれ、その理由の欄に「指定管理者の経営困難等による撤退(指定返上)」として現れる。施設が自動的に閉まるわけではなく、そのあとの管理の形は別に決められる。
三年間で1,887施設という数は多いのか。母数が79,332施設なので、割合としては2.4%ほどにあたる。毎年どこかで入れ替わりが起きている規模だと言える。多いか少ないかは、同じ調査の前の回と並べて見るほうが判断しやすい。
自分の住む市町村の事例はどこで見られるか。調査には取消しの事例を示す表が含まれているが、施設名の一覧ではない。個別の施設については、自治体が公開している指定管理者の評価結果や議会の議事録のほうが詳しい。制度の全体像を先に押さえてから個別の資料に進むと、何が例外なのかが見分けやすくなる。
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