任期が切れたあと、名刺の肩書きが「調整役」になる人がいる
地域おこし協力隊として3年を過ごし、そのまま同じ町に残る人のうち、起業も就農もせず、かといって自治体の正職員にもならない進路がある。学校と地域、あるいは集落と役場のあいだに立って、人と予算と場所を合わせる仕事である。求人票の職種名はまちづくり支援、地域コーディネーター、推進員と揺れる。
規模から確かめておく。総務省の令和7年度における地域おこし協力隊の活動状況等によれば、令和2年度から令和6年度までの直近5年間に任期を終えた隊員は8,762人で、そのうち約70.3パーセントの6,163人が同じ地域に定住した。活動地と同一市町村内に定住した5,038人の内訳は、起業が2,296人、就業が1,753人、就農・就林が583人である。
この就業1,753人の中に「地域づくり・まちづくり支援業」が99名いる。起業の側にも「まちづくり支援業」として集落支援や地域ブランドづくりの支援を挙げた人が80名いる。あわせて179人。全体から見れば小さいが、職の名前としては確かに成立している。問題は、この仕事がどこに何人分用意されているのかが見えにくいことである。
学校と地域のあいだに、34,613人が置かれている
見える場所がひとつある。学校である。文部科学省の令和6年度 コミュニティ・スクール及び地域学校協働活動実施状況調査は、地域と学校をつなぐ調整役の人数を数えている。調査基準日は令和6年5月1日である。
| 区分 | 人数・団体数 | 前年度からの増減 |
|---|---|---|
| 地域学校協働活動推進員等の配置人数 | 34,613人/1,534自治体(84.6%) | 1,214人増 |
| うち推進員としての委嘱人数 | 15,230人/852自治体(47.0%) | 2,086人増 |
| うち学校運営協議会の委員である者 | 13,583人 | 2,458人増 |
| 地域学校協働本部数 | 13,433本部 | 563本部増 |
「推進員等」と「推進員」が別の行になっているのは、肩書きの重さが違うからである。前者は企画や提案、関係者との調整といった全体のコーディネートを担う調整役を広く数えたもので、84.6パーセントの自治体が誰かを置いている。後者は社会教育法の第9条の7に根拠を持つ委嘱で、教育委員会が地域学校協働活動推進員を委嘱できると定められている。委嘱まで進んでいる自治体は47.0パーセントで、半分に届かない。
つまり調整役は3万人を超えて存在するが、法律に基づく肩書きと委嘱を受けているのはその4割強である。残りは実態として調整しているが、制度上の位置づけは自治体ごとに違う。求人の形も報酬もそろわない理由はここにある。
集落の側にも、6,415人の調整役がいる
学校ではなく集落を受け持つ枠もある。集落支援員である。総務省が公表した都道府県別の集落支援員の人数・設置団体数(令和7年度)によれば、専任は464団体で3,270人、兼任は155団体で3,145人だった。専任の設置状況は6県458市町村で、全国1,718市町村のうち約4分の1にあたる。
地域による濃淡は大きい。専任の人数が多いのは島根県の314人、長野県の249人、三重県の236人、新潟県の179人、兵庫県の172人という並びで、神奈川県と大阪府は0人、愛知県と東京都は1人である。人口の多い都府県に置かれていないのは、この制度が集落の「目配り」を前提にしているからで、支援員は委嘱を受けて集落を巡回し、状況の把握を担う。
協力隊の経験者がここに流れている。先の総務省の資料は、任期後の就業先として最も多いのが行政関係で480名、その内訳に自治体職員や議員とならんで集落支援員が含まれると整理している。協力隊として3年間集落に入った人が、同じ集落を別の肩書きで見続ける形である。
仕事の中身は、学校の外から持ち込む専門性で決まる
人数の話だけでは、日々何をしているのかが見えない。文部科学省の資料に載っている高知県立嶺北高等学校の例が具体的である。配置人数は推進員2名、配置単位は学校専属、任期は1年で、学校運営協議会の委員を兼務している。
この2名は、探究学習や地域課題の解決・地域活性化に専門性と経験を持つ人として配置された。学校での探究学習の企画と、地域との協働体制の構築を進めている。資料は、探究学習に関する専門性を持つ教員がまだ少ないなかで、大学で探究活動や地域課題解決について学んだ専門性を活かした推進員の助言が、担当教員の強い支えになっていると書く。教員間の足並みをそろえることにも効いたという評価である。
ここに書かれているのは、教員ではできないことを外から持ち込む役回りである。協力隊として地域の事業者や集落と付き合った3年は、そのまま持ち込める材料になる。逆に言えば、持ち込むものがない人がこの枠に入っても仕事にならない。
制度の側も質を課題にしている。同じ資料の今後の方針には、推進員等の配置充実、課題に対応した追加配置、資質向上等への支援が並ぶ。全国フォーラムや自治体向けの説明会、文部科学大臣表彰の実施も挙がっており、数をそろえる段階から中身を上げる段階に移っている。
学生のうちに、この仕事の入口に立てるか
在学中にこの職に就くことはできない。推進員は教育委員会の委嘱、集落支援員は自治体の委嘱で、どちらも社会人を前提にしている。ただし、同じ現場に関わる道は先に開いている。
学校側の窓口は、市区町村の教育委員会、地域学校協働本部、そこに委嘱された推進員の三つである。学校へ直接申し込むよりこの順路のほうが通りやすい。地域学校協働本部は全国で13,433本部あり、公立学校のうち21,144校が整備済みという規模なので、志望する地域に存在しないという事態は起きにくい。
集落側の入口は協力隊そのものである。任期後に調整役へ進んだ人の数は、裏返せば、3年の活動が職歴として評価された件数でもある。地域と若者の接点づくりを各地で進めているFLASPOの現場でも、学生時代に同じ地域へ何度も通った経験が、その後の採用の判断材料になる場面は多い。先に顔を覚えられておくことが、遠回りに見えて近い。
協力隊の任期後の進路全体は地域おこし協力隊の卒業後の進路一覧、行政の側に回る経路は協力隊のあと行政側に回る480人、学校に大人が入る仕組みは地域の大人が学校に入る仕組み、手伝う側から関わる手順は教育ボランティアの入り口が対応している。
よくある質問
地域コーディネーターという名前の職種はありますか。法律上の名称ではありません。文部科学省の調査では「地域学校協働活動推進員等(地域コーディネーターを含む)」という括り方になっており、社会教育法第9条の7に出てくる名称は地域学校協働活動推進員です。集落を受け持つ側は集落支援員で、こちらは総務省の制度です。求人の職種名が地域によって違うのは、この二層構造が理由です。
どれくらいの数の自治体が置いているのでしょうか。推進員等を配置している自治体は1,534で、全体の84.6パーセントです。ただし社会教育法に基づく委嘱まで進んでいる自治体は852で47.0パーセントにとどまります。集落支援員の専任は6県458市町村で、1,718市町村のうち約4分の1です。
協力隊を経ないと就けない仕事ですか。そうではありません。推進員の例として挙がっている高知県立嶺北高等学校の2名は、探究学習や地域課題解決の専門性を持つ人として配置されています。経路は複数あり、協力隊はそのうちのひとつです。任期後に地域づくり・まちづくり支援業へ進んだ人は、就業で99名、起業で80名でした。
報酬はどのくらいですか。公表資料からは読み取れません。推進員は教育委員会の委嘱、集落支援員は自治体の委嘱で、いずれも条件は自治体ごとに決まります。集落支援員には専任と兼任の区分があり、令和7年度は専任3,270人に対して兼任3,145人とほぼ同数なので、他の仕事と組み合わせる前提の枠が半分近くあると見るのが実態に近いです。
学生が関わるならどこから当たればよいですか。学校に関わりたい場合は、市区町村の教育委員会、地域学校協働本部、推進員の三つが実務上の受付です。集落に関わりたい場合は、支援員を置いている市町村を総務省の都道府県別資料から絞り、そこの担当課に当たるのが早いです。島根県や長野県のように専任の人数が多い県は、受け入れの経験も蓄積されています。
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