買う側から関わる経路が、いちばん太い
地域と関わり始めるきっかけを並べると、イベントや移住相談より先に、野菜を買った記憶が出てくることが多い。道の駅に寄って箱詰めのトマトを買う、名前の書かれた札を見て作った人を知る。この入口の大きさは統計にも出ている。農林水産省の6次産業化総合調査によると、令和6年度の農業生産関連事業の年間販売金額は2兆2,244億円だった。
内訳のうち最も大きいのが農産物直売所の1兆1,343億円で、全体の半分を超える。次が味噌や漬物、ジュースなどをつくる農産加工の1兆0,061億円。観光農園や農家レストランなどを合わせた残りは840億円ほどで、体験型の売り場はまだ小さい。農産物を通じた関わりは、現場に泊まる前の段階で既にかなりの規模を持っている。
関係人口という言葉は、訪問の有無や関わりの深さで型に分かれる。買うことから始まる層がどこに置かれるかは関係人口の地域事例を型で分けた記事に整理した。ここでは売り場と作る側の数字を並べて、入れる隙間がどこにあるかを見ていく。
売り場は伸びて、働く人は減っている
直売所の販売金額は令和5年度の1兆1,264億円から令和6年度の1兆1,343億円へ、0.7パーセント伸びた。ところが同じ年に直売所の従事者数は193,000人から171,900人へ減っている。売上が増えて人が減るという組み合わせは、1人あたりの負担が重くなっていることを示す。
| 区分 | 令和5年度の販売金額 | 令和6年度の販売金額 | 令和6年度の従事者数 |
|---|---|---|---|
| 農業生産関連事業の合計 | 2兆2,082億円 | 2兆2,244億円 | 375,000人 |
| 農産物直売所 | 1兆1,264億円 | 1兆1,343億円 | 171,900人 |
| 農産加工 | 9,997億円 | 1兆0,061億円 | 154,200人 |
| 観光農園・農家レストランなど | 821億円 | 840億円 | 48,900人 |
5年の幅で見ると傾きが分かる。令和2年度の販売金額は事業全体で2兆329億円、直売所は1兆534億円だった。令和6年度までに全体は1,915億円、直売所は809億円増えている。同じ5年で従事者数は401,900人から375,000人へ、26,900人少なくなった。売り場は少しずつ太り、支える人はその逆を向いている。
事業全体の従事者数も404,000人から375,000人へ下がった。1年で29,000人の減である。売り場の規模が保たれているうちに、並べる人と包む人と運ぶ人が足りなくなっていく。繁忙期だけ人手が要るという性質も重なるため、常勤の採用では埋まりにくい穴が残る。
作る側の人数は、5年で3割以上減った
売り場の手前には畑がある。2025年農林業センサスによると、個人経営体の基幹的農業従事者は103万6千人で、平均年齢は67.7歳だった。5年前の令和2年は136万3千人だったので、5年間で32万7千人、割合にして2割以上が減っている。65歳以上は72万1千人で、全体のおよそ7割を占める。
標本調査である農業構造動態調査では、令和8年の推定値が98万7千人となり、100万人を割った。調査の方法が違うので単純に並べられないが、減り方の向きは変わらない。平均年齢が67.7歳で動かないのは、辞める人と入る人の年齢層が入れ替わっていないからである。
この数字の読み方で気をつけたいのは、農地や売上が同じ速さで減っているわけではない点だ。1経営体あたりの面積は広がり、直売所の売上は横ばいから微増で推移している。減っているのは、畑に立つ人の数である。
新しく入る人は年4万人台、外から入る人は3,360人
入ってくる側も数えられている。令和7年新規就農者調査では、新規就農者は42,850人で前年より1.5パーセント減った。このうち49歳以下は14,410人で、前年から8.3パーセント減っている。全体の減り幅より若い層の減り幅が大きい。
就農の形は三つに分かれる。実家の経営に入る新規自営農業就農者が29,240人、法人などに雇われる新規雇用就農者が10,250人、土地や資金を自分で用意して始める新規参入者が3,360人である。親の畑を持たない人が入る経路は、雇われる形と新規参入の形に限られ、合わせて13,610人にとどまる。
5年分を並べると下がり方がはっきりする。新規就農者の総数は令和3年の52,290人から令和4年45,840人、令和5年43,460人、令和6年43,500人、令和7年42,850人へ。49歳以下は18,420人から14,410人へ、4,010人少なくなった。毎年の増減は小さいが、戻る年がないまま下がり続けている。
49歳以下に絞ると、新規自営が5,080人、新規雇用が7,030人、新規参入が2,300人となる。若い層では、雇われて入る人数が実家を継ぐ人数を上回っている。農業に関わる入口が、家の事情から雇用関係へ移っていることが読み取れる。
学生が農産物から入るときの置き場所
以上の数字を並べると、人手が薄いのは畑だけではないことが分かる。売り場の運営、加工品の企画、品目ごとの説明書き、繁忙期の出荷作業。どれも農業の資格や農地を持たない人が手を動かせる場所である。雇用で入る道が若い層で広がっているのは、この裾野があるからでもある。
いきなり就農を考えなくてもよい。収穫の時期に通う、加工所の作業を手伝う、直売所の棚を並べ直す。関わり方の段ごとに何が求められるかは、海の仕事を扱った漁業に外から関わる記事や、蔵の数が減った地域を追った地酒の町と関わる記事と並べると見通しがよくなる。
学校の授業や研究と結びつけやすいのも、この分野の特徴である。品目ごとの出荷量、気温と収穫時期のずれ、値付けの根拠。直売所には数えられていない情報が毎日たまっていて、整理されないまま次の季節が来る。整理そのものが地域から求められる作業になりうる。
選ぶときの目安を一つだけ挙げると、作る工程と売る工程のどちらに人が足りないかを先に聞くことである。畑の人手が足りない地域と、売り場の回し方で詰まっている地域では、求められる動き方が違う。現場に入る前に話を聞ける場として、FLASPOのような窓口も使える。
よくある質問
農業の経験がなくても直売所の仕事に関われますか。関われる。直売所は農産物の販売や加工品の製造、店頭の運営などを含む事業として数えられており、従事者には農家以外も入る。繁忙期の出荷や棚の管理のように、作付けの知識がなくても任される作業は多い。
新規参入者が3,360人しかいないのは、参入が難しいということですか。農地と資金と販路を自分で揃える形なので、人数は限られる。ただし同じ年に法人などへ雇われて入った人は10,250人いる。農地を持たずに始めるなら、雇用で入って技術と地域の関係をつくる順番のほうが現実的である。
基幹的農業従事者と農業従事者はどう違いますか。基幹的農業従事者は、個人経営体で仕事として主に農業に従事している人を指す。手伝い程度の家族や、ほかの仕事を主としている人は含まれない。103万6千人という数字は、畑を主な仕事場にしている人の数だと読むのが近い。
学生が関わるとき、報酬はどう考えればよいですか。農産加工や販売の作業は雇用として扱われる場合が多く、最低賃金や労働時間の決まりが及ぶ。無報酬の手伝いとして頼まれたときは、交通費や宿泊の扱いを先に確かめておきたい。受け入れ側も繁忙期の予算を組んでいることが多いので、聞いて困る話ではない。
観光農園や農家レストランが小さいのは、需要がないということですか。需要の有無より、受け入れに人と施設が要ることが効いている。販売金額は840億円で、直売所の13分の1ほどにとどまる。来た人に対応する時間を確保できる経営体が限られるため、規模が伸びにくい分野である。
直売所の売上が増えているのに、人手が足りないのはなぜですか。売上は来客数と単価で動くが、人手は雇える条件で決まる。出荷や販売は時期によって量が大きく変わるため、通年の雇用に置き換えにくい。結果として、売上が保たれたまま従事者数だけが減る形になりやすい。
出典
農林水産省「6次産業化の動向」/農林水産省「農業労働力に関する統計」/農林水産省「令和7年新規就農者調査結果」
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