国が掲げた目標の大きさを先に知る
ベンチャーを進路の候補に挙げると、周囲から安定性を問われることが多い。その問いに答える材料のひとつが、国の計画に書かれた数字である。令和4年11月28日に決まったスタートアップ育成5か年計画は、スタートアップへの投資額が3,600億円(2017年)から8,200億円(2021年)へ5年で2.3倍に増えたとし、当時の8,000億円規模を2027年度に10倍を超える10兆円規模とする目標を掲げた。
さらに将来の姿として、ユニコーンを100社、スタートアップを10万社創出し、日本をアジア最大のスタートアップハブにすることを目指すと書かれている。計画はユニコーンを時価総額1,000億円超の未上場企業と定義しており、100社という数は現状から見れば相当に高い到達点である。
目標は約束ではない。それでも、予算や制度がこの方向に向けられているという事実は、学生が5年後10年後を考えるうえで意味を持つ。会社の数が増える前提に立つなら、選ぶ側に求められるのは勢いを見分ける目になる。
計画が置かれた文脈も読んでおきたい。戦後に電機や自動車のメーカーを立ち上げたのは20代や30代の若者だったという記述から始まり、その創業期に次ぐ第二の創業ブームを実現すると宣言している。若い世代を担い手として名指ししている文書だという点は、進路を考える材料になる。
開業率の国際比較が足元を示している
同じ計画は、日本で会社が生まれ消える頻度を他国と並べている。数字は計画が作られた時点のもので、企業の参入率と退出率の平均が高い国ほど一人当たりの経済成長率が高いという整理に添えられていた。
| 指標 | 日本 | 米国 | 英国 |
|---|---|---|---|
| 開業率 | 5.1% | 9.2% | 11.9% |
| 廃業率 | 3.3% | 8.5% | 10.5% |
開業率が低いだけでなく、廃業率も低い。新しい会社が生まれにくく、同時に退きにくい状態だと読める。働く側から見れば、挑戦する会社の数が限られるぶん、入れる席も限られるという意味になる。
規模の差はさらに大きい。計画が引いた米国調査会社の国際比較では、時価総額10億ドル超の未公開企業は米国633社、中国173社、欧州147社に対し、日本はわずか6社とされた。株式公開1件あたりの調達額も、米国3億ドル、欧州2億ドルに対して日本は0.6億ドルである。入る会社の成長の天井を考えるときは、この差を頭に置いておきたい。資金がどこから来るのかはベンチャーキャピタルとは|日米の投資額差と出資の流れを押さえるに整理がある。
半数近くの学生が希望する、という前提
計画には学生の意識についての記述もある。半数近くの大学生がスタートアップへの就職も希望しているという現状を踏まえ、希望する学生への起業家教育やメンターからの支援を進めるとされた。志望者が珍しい存在ではなくなっている、というのが出発点である。
大学側の動きも書き込まれている。全国各地の研究大学に向けて、1大学につき50社起業し、1社はエグジットを目指そうという運動を掲げ、大学発の研究成果の事業化を5年間で5,000件以上支援するとされた。大学発スタートアップが東京・神奈川・京都・大阪・福岡など大都市圏に偏っているという指摘も添えられている。
ここから引き出せる実務的な助言はひとつで、在学中に接点を作っておくほうが早い。インターンシップでも研究室の共同研究でも構わないから、会社の内側を一度見ておくと、求人票の言葉と実際の仕事のずれに気づける。学生起業の広がりは学生起業の現状を数字で読む|大学発ベンチャー6220社の内訳からでも扱われている。
メガベンチャーと創業期は別の選択である
募集の場では両方が同じ括りで語られることがあるが、入ってからの日々は大きく違う。数千人規模まで育った会社では、制度も教育の仕組みも整っている一方、任される範囲は部門に区切られる。創業から数年の会社では、仕事の境目が曖昧なかわりに、事業そのものの行き先に手が届く。
見分ける手がかりは人数と資金の段階である。何人目の社員として入るのか、直近の資金調達はどの段階か、売上が立っている事業がいくつあるか。この三つを聞けば、自分が任されるものの大きさと、会社が消える確率の両方が見えてくる。
どちらが優れているという話ではなく、合う時期が違う。手順を覚えてから裁量を増やしたい人には規模のある会社が向き、決めごとから関わりたい人には小さな会社が向く。規模側の実像はメガベンチャーとは?意味や定義、大手企業との違いをわかりやすく解説、創業期の形はITスタートアップとは?定義や成長段階、働く魅力を丁寧に解説が参考になる。
面接で尋ねる順序にも工夫がある。事業の説明から入ると会社の言い分をそのまま受け取ることになるため、まず直近1年で辞めた人の人数と理由の傾向を聞き、そのあとで事業の話に戻る。順序を変えるだけで、同じ説明が違って聞こえることがある。
入る前に確かめておきたい三つ
第一に辞める前提の置き方である。厚生労働省の新規学卒就職者の離職状況では、令和4年3月に卒業した大学卒の3年以内離職率が33.8%、高校卒が37.9%だった。どの業界でも3人に1人が3年で移っている。会社が小さいかどうかとは別に、次に移れる技能が身につく職場かを見ておきたい。
第二に選考の暦である。内閣官房の就職・採用活動日程に関する考え方は、広報活動を卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降、採用選考活動を卒業・修了年度の6月1日以降、正式な内定日を10月1日以降と整理している。ただしこれは経済団体などへの要請であり、対象に入っていない会社はこの日付に従わない。募集が早く始まり早く閉じることがある。
第三に情報の集め方である。会社の規模が小さいほど公開情報は少なく、口伝えの比重が上がる。大学のキャリアセンターだけでなく、働いている人に直接聞ける場を複数持っておくと偏りが減る。FLASPOのように学生の活動を扱う場も、同じ時期に動いている人の判断を知る手がかりになる。
よくある質問
ベンチャーに入ると新卒で得られる経験は増えますか。任される範囲が広がりやすいのは確かですが、教える体制が薄いぶん独学の負担も増えます。増えるのは経験の幅で、深さは配属された事業の中身に左右されると考えるのが実際に近いです。
会社が潰れたらどうなりますか。計画の数字では日本の廃業率は3.3%で、米国の8.5%や英国の10.5%より低い水準です。それでも創業期の会社に一定の確率があるのは変わりません。移れる技能を早く身につけることが、最も現実的な備えになります。
給与は大手より低いのでしょうか。段階によって幅が大きく、一律には言えません。資金調達を終えた直後の会社が相場に近い水準を出すこともあります。固定給だけでなく、株式に関わる取り扱いがあるかどうかも併せて確認してください。
選考はいつ動きますか。要請の対象に入らない会社では通年で募集することがあり、日系の大企業より早く締め切られる例もあります。志望先ごとに締切を書き出し、早い側を軸に予定を組むと取りこぼしが減ります。
大学の所在地で接点の多さは変わりますか。計画は大学発スタートアップが東京・神奈川・京都・大阪・福岡などの大都市圏に偏っていると指摘しています。地方の大学では学内の接点が少ないこともありますが、オンラインでの面談や長期休暇中の遠隔での就業で埋められる部分は増えています。
起業そのものは考えたほうがよいですか。計画は大学への支援や起業家教育の拡充を掲げており、在学中に試す道は広がっています。ただし起業と就職は比べる対象ではありません。まず小さく事業を作ってみて、続けるかどうかを後から決める順序でも遅くはありません。
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