移住費用と支援金|最大100万円+子1人100万円と5年の約束

引っ越しの総額を出し終えたところで「移住支援金が100万円出るらしい」と聞き、そこから差し引いて予算を組み直す人は多い。ここで二つの取り違えが起きやすい。一つは金額の読み方で、100万円は上限であって誰にでも出る額ではない。もう一つは時点の読み方で、支援金は移り住んだあとに申請し、審査を通ってから振り込まれる。敷金や引っ越し代を払う場面では、まだ手元に入っていない。

見積もりの右側に置く数字なので、満額では数えない

家計の表を作るとき、出ていく金を左、戻ってくる金を右に置くと話が整理される。支援金は右側の数字だが、左側と同じ列に並べてしまうと、入ってくる時期の差が表から消えてしまう。実際の順序は、物件を決めて契約金を払い、荷物を運び、住民票を移し、就業先が決まり、それからようやく申請の窓が開く。自治体によっては転入から3か月の継続勤務を条件に置くため、申請できる状態になるまでに数か月かかる。

つまり支援金は、初期費用の支払い能力を上げてくれる金ではない。いったん自分の手で立て替えた分を、あとから取り戻す金だと見るほうが実務に合う。立て替える期間を半年と置いて、その間に必要な現金を別に確保しておけば、入金が遅れても計画は崩れない。移住にかかる金の全体像をどう組むかは、地方移住の費用とはで費目ごとに整理した。支援金はそのいちばん最後に差し引く数字として扱いたい。

もう一つ忘れやすいのが、上限額を決めているのが国ではないという点である。内閣府の制度説明は「100万円以内」「60万円以内」という書き方で、実際にいくら出すかは都道府県と市町村が設定する。隣り合う二つの町で額が違うことは普通にある。候補地が複数あるなら、家賃や物件価格と一緒に支援金の設定額も並べて比べるのが早い。

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国の枠は世帯100万円・単身60万円、子ども1人で最大100万円が足される

制度の名前は地方創生移住支援事業で、内閣府が枠を示し、都道府県と市町村が実施する。内閣府の制度説明によれば、支給額は世帯で100万円以内、単身で60万円以内。これに加えて、18歳未満の世帯員を連れて移る場合は、18歳未満の者1人につき最大100万円が加算される。

この加算が入ると、見積もりの右側は一気に大きくなる。中学生と小学生の2人を連れた4人世帯なら、世帯分の100万円に子ども2人分が足されるので、設定が上限どおりの自治体では300万円という計算になる。ただし加算の人数に独自の上限を置く自治体もあるため、300万円という数字をそのまま前提にはできない。加算額は2023年度に30万円から引き上げられた経緯があり、自治体側の要綱の更新時期によって説明が古いまま残っていることもある。

単身60万円という額を、初期費用のどこに当てるかも考えどころだ。敷金や礼金、仲介手数料といった契約時の出費は合計で家賃の3〜4か月分になりやすく、60万円はその範囲に収まる規模である。家財道具を買い足す分まで含めると足りないことのほうが多い。満額が出る前提で道具をそろえ始めると、入金までの数か月を貯金の取り崩しで埋めることになる。

交付は累計14,378件、令和7年度は制度開始以来はじめて減った

制度が実際にどれだけ使われているかは、内閣府が年度別の交付実績を公表している。令和8年3月末時点の交付実績では、令和元年度からの累計が14,378件・30,557人。1件あたり2.1人で、単身よりも世帯での利用が平均を押し上げている形だ。

年度 移住支援件数 移住人数
令和元年度 71件 123人
令和2年度 290件 563人
令和3年度 1,184件 2,381人
令和4年度 2,495件 5,108人
令和5年度 3,542件 7,782人
令和6年度 3,626件 7,829人
令和7年度 3,170件 6,771人
累計 14,378件 30,557人
内閣府「地方創生移住支援事業 交付実績(令和元年度〜7年度)」令和8年3月末時点より作成

注目したいのは直近の動きである。令和6年度の3,626件に対し、令和7年度は3,170件。件数と人数がそろって前年度を下回ったのは、制度が始まってから初めてだ。原因は公表資料からは読み取れないが、予算の枠で年度途中に受付を締める自治体があることは要綱に書かれている。候補地を絞ったら、その年度の受付がまだ開いているかを最初に確かめたい。

地域差も大きい。累計では静岡県の1,465件、群馬県の1,152件、栃木県の900件が多く、いっぽうで沖縄県は10件、京都府は15件にとどまる。東京都・神奈川県・大阪府には実績がなく、表では横線が引かれている。移住先の要件が「東京圏以外の道府県、または東京圏の条件不利地域」と決まっているためで、制度の設計上そうなる。使える地域かどうかは、支給額を調べる前の段階で判断がつく。

条件は「どこから来たか」と「どう働くか」の二段で見る

もらえるかどうかの判定は、二つの関門に分かれている。前半は移住元の要件で、転入の直前10年間のうち通算5年以上、東京23区に住んでいたか、東京圏に住みながら23区へ通勤していたこと。しかも直近1年以上は23区に在住または通勤している必要がある。雇用者として通勤していた場合は、雇用保険の被保険者であった期間に限られる。学生のうちから数えられるわけではないので、社会人になって都心に通い始めた年から数え直すのが実際に近い。

後半は働き方の要件で、四つの類型が置かれている。道府県のマッチングサイトに掲載された求人への就業、移住前の業務をそのまま続けるテレワーク、市町村が独自に定める関係人口としての要件、そして地方創生起業支援事業の交付決定を1年以内に受けている場合である。就業で申請する場合、自治体の要綱には週20時間以上の無期雇用契約で、同じ企業に3か月以上続けて勤めていることといった条件が置かれる例がある。富山県の要綱はこの形で、3親等以内の親族が経営の中核を担う法人への就業を対象外にしている。

この二段構えは、裏を返せば「条件を満たす求人に応募する」という順番を強いる。先に転職先を自力で決めてから支援金を調べると、その求人がマッチングサイトに載っていないために対象外になる。制度の全体像は移住支援金とはと地方移住の補助金でも扱っているが、費用の側から見るなら、求人探しの入口を先に合わせるのが損の少ない順序になる。

5年以内に出ると返す。だから貯金の代わりにはならない

内閣府の説明には返還の条件が明記されている。申請から5年以内に移住先の市町村から転出した場合、そして虚偽の申請をした場合である。返す額の決め方は自治体に委ねられていて、3年未満の転出なら全額、3年以上5年未満なら半額とする例が多い。就業で申請したあと1年以内に対象の職を辞めた場合に全額返還とする要綱もある。

この条件があるため、支援金は受け取った時点では確定した収入とは言いにくい。5年という年数は、転職や親の介護、子どもの進学といった予定外の出来事が一度は起きる長さである。手元に入った100万円を家財に使い切ってしまうと、事情が変わって転出するときに返す現金がない。受け取ったあと数年は、返還が起きても払える形で置いておくのが安全だ。

税の扱いも確かめておきたい。補助金や給付金は受け取った年の所得として扱われることがあり、課税されるかどうかは制度ごとに違う。考え方の筋道は補助金に税金はかかるのかで整理した。地域とのつながりをどう作るかという観点ではFLASPOの取り組みも参考になるが、金額の判断は必ず交付元の要綱と税務署の案内で確かめてほしい。

よくある質問

単身で60万円、世帯で100万円は必ずもらえるのか。いいえ。内閣府の枠は「以内」という書き方で、実際の額は都道府県と市町村が設定する。上限どおりに出す自治体もあれば、低く設定する自治体もある。候補地ごとに金額を確かめる必要がある。

東京都内から移れば誰でも対象になるのか。いいえ。23区に在住または23区へ通勤していた期間が、直前10年で通算5年以上かつ直近1年以上という条件がある。多摩地域に住んで都内の別の市へ通勤していた場合は、この条件に当たらないことがある。

子育て加算は何歳までが対象か。18歳未満の世帯員が対象で、1人につき最大100万円が加算される。加算の対象人数に独自の上限を置く自治体があるため、子どもが3人以上なら申請先の要綱を先に確認したい。

いつ振り込まれるのか。転入後1年以内に申請する決まりだが、申請できる時期そのものは就業や居住の条件を満たしてからになる。審査と交付決定を経るため、引っ越しの支払いには間に合わないと考えて現金を用意しておきたい。

テレワークで今の仕事を続ける場合も対象か。移住前の業務を移住先で引き続き行う形は類型の一つに入っている。ただし勤務先の所在地や雇用の形で判定が分かれるため、申請先の市町村に事前に照会するのが確実だ。

予算が尽きて受け付けてもらえないことはあるのか。ある。実施自治体は年度の予算の範囲で交付するため、年度途中に受付を終える場合がある。令和7年度は全国の件数が前年度を下回っており、候補地の受付状況は早い段階で確かめておきたい。


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