地方創生でリーダー不在が致命傷になる理由と担い手の育て方

地方創生でリーダー不在が致命傷になる理由と担い手の育て方

地域の取り組みが尻すぼみになったとき、現地で聞こえてくる説明はだいたい同じである。あの人がいなくなってから回らなくなった。会議の数は変わらず、予算も付いていて、資料も毎年更新されている。それでも動かない。肩書きのある人はそろっているのに決める人がいないという状態は、建物や補助金の失敗より見えにくく、気づいたときには取り返しがつきにくい。

空席ではなく、決める人が消えている

リーダー不在という言葉は、役職が空いている状況を指すように聞こえる。だが現場で起きているのはむしろ逆で、協議会長も事務局長も部会長も埋まっているのに、方針を決める人がいなくなる。全員が自分の持ち場を守っているあいだに、持ち場をまたぐ判断だけが宙に浮く。

この状態は、行政の人事異動と相性が悪い。自治体の担当者はおおむね数年で部署を替わるため、立ち上げに関わった職員が三年後も同じ席にいる保証はない。引き継ぎ書に事業の経緯は書けても、どこで誰と揉めて何を譲ったのかまでは残りにくい。結果として、次の担当者は前任の決定を動かせず、前任が想定していた次の一手も打てないまま、形だけが続いていく。内閣府が交付金事業の事例研究で「担当者の長期的な関与」を有益な取組として挙げているのは、この裏返しだと読める。

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一人に乗った体制は、その一人が抜けた日に止まる

やっかいなのは、強い旗振り役がいる地域ほど同じ危うさを抱えることである。立ち上がりの時期に突出した人がいると、話は速く進む。交渉も、調整も、無理の利く範囲も、その人の信用で動く。周囲は助かるので任せきりになり、事業が軌道に乗るころには、判断の経路がその一人に集中した状態ができあがっている。

そこで本人が体調を崩したり、任期を終えたり、別の地域に移ったりすると、組織は急に動けなくなる。残った人たちは手順を知らないのではなく、何を基準に決めてよいかを知らない。地域の取り組みで「後継者がいない」と語られる場面の多くは、人材の数の問題ではなく、判断の仕方が共有されていなかったことの結果である。成功している地域の型を並べた地方創生の成功事例の分類を見ても、続いている取り組みは旗振り役の交代を一度は経験している。

人を育てた事業と、育てなかった事業の差

この話は精神論で終わりがちだが、国の調査には比較できる数字がある。内閣府地方創生推進事務局が令和7年3月に公表した効果検証の報告書は、デジタル田園都市国家構想交付金の報告対象994事業を分析し、事業運営の軸となる人材の育成・確保に取り組んだかどうかで結果に差が出るかを調べている。

項目 取り組んでいない 取り組んでいる
KPIを一つ以上達成した事業の割合 57% 61%
自主財源の確保が見込みどおり以上 70% 79%
内閣府地方創生推進事務局「デジタル田園都市国家構想交付金(旧地方創生拠点整備交付金)事業の効果検証に関する調査報告書」(令和7年3月)図表4-4から作成

目標の達成では4ポイント、お金の面では9ポイントの開きがある。劇的な差ではないものの、財源の自立という最も重い指標で差が大きく出ているのが目を引く。人を育てることは、やさしさの話ではなく収支の話でもあるということだ。同じ報告書は、ガイドラインに掲げた「取り組むべきこと」21項目のうち19項目で、実施した事業のほうがKPIの達成割合が高かったとも述べている。人材の育成はその一項目にすぎないが、効く項目のひとつとして確かめられている。

では育成とは何を指すのか。報告書の事例研究が有益だったとして挙げるのは、立派な研修制度ではない。関係者や専門家を交えた定期的な勉強会やミーティングを開いてスキルの底上げを図ること、担当者が長期にわたって関与し続けること、行政の手が届かない部分を担える外部人材を確保することの三つである。いずれも年度予算を大きく動かさずに始められる種類の取組で、必要なのは続ける意思と場所の確保にとどまる。

内で育たないなら、外から入れるか横から借りる

とはいえ、小さな自治体に人を育てる余力があるとは限らない。そこで現実的な手が二つある。ひとつは外から入れることだ。総務省の地域おこし協力隊は令和6年度に7,910名が活動し、前年度から710名増えた。直近5年間に任期を終えた隊員のうち、およそ69パーセントが同じ地域に定住している。任期つきで来た人が、終了後に地域側の担い手として残る回路がすでに動いている。制度の中身は地域おこし協力隊の給料と任期後キャリアにまとまっている。

もうひとつは横から借りることである。内閣府の報告書は、民間団体が事業主体として参画している事業のほうがKPIの達成割合が高い傾向を示し、とくに大学、労働団体、金融機関、言論界と組んだ事業で割合が高いとしている。自立化の見込みでは産業界、大学、労働団体が目立つ。また調査対象の90パーセント以上の事業が、他の政策分野と連携していると答えた。判断を支える目を一人の外に持つことが、結果の側でも裏づけられている。事例研究では、構想の段階から民間事業者と組むこと、進捗の確認と課題の整理を行う場をあらかじめ高い頻度で設定することが有益だったと報告されている。

学生はリーダーの手前の役割から入れる

担い手不足の話を聞くと、自分が引っ張らなければいけないように感じてしまう。そこまで構える必要はない。前の節で見たとおり、止まる原因は判断の経路が一本しかないことにある。経路を増やす作業は、旗を振るより地味な仕事の積み重ねでできている。

具体的には、会議で決まったことと決まらなかったことを分けて書き残す。誰が何の権限で決めたのかを確かめる。前任者が残した資料のうち、理由の書かれていない箇所を聞き取って補う。大学生が入ると場の空気が変わり、地域の人が当たり前すぎて説明しなかったことを言葉にしてくれる。この記録が、次の担当者が迷わずに済む材料になる。学生の立場で地域と関わる入口は地方創生の現状と課題にも触れられており、FLASPOが自治体と組む企画でも、決定の経緯を残す工程を学生の担当として置いている。引っ張る人の代わりではなく、引っ張る人が抜けても続く仕組みの側に回ると考えたほうが、長く関われる。

よくある質問

強いリーダーがいる地域は危ないということか。危ないのは強さではなく、判断が一人の頭の中だけにある状態である。同じ人が引っ張っていても、決め方が言葉になって共有されていれば交代に耐えられる。

行政の人事異動は変えられないのではないか。異動そのものは動かせないが、引き継ぎの内容は設計できる。経緯と理由を記録に残し、外部の関係者が連続して関わる形をつくれば、担当者が替わっても判断の基準は残る。

地域おこし協力隊を入れれば解決するのか。隊員は任期つきの立場であり、受け入れ側に役割と出口の設計がなければ三年で終わってしまう。定住率が7割に届くのは、受け皿を用意した地域が一定数あるからだと読むほうが実態に近い。

民間と組むと行政の主体性が失われないか。報告書が示しているのは、民間が事業主体として参画した事業の成績が良いという傾向である。発注者と受注者の関係ではなく、構想段階から一緒に考える形が前提になっている点に違いがある。

学生が関わっても数年で卒業してしまう。それは隊員や職員と同じ条件であり、だからこそ個人ではなく記録と仕組みに残す関わり方が向いている。毎年入れ替わる前提で引き継ぎの型をつくれば、入れ替わり自体は弱点にならない。

出典

内閣府地方創生推進事務局「デジタル田園都市国家構想交付金(旧地方創生拠点整備交付金)事業の効果検証に関する調査報告書」(令和7年3月)/総務省「地域おこし協力隊」


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